睡眠は1人ひとり異なる 睡眠を16種類のパターンに分類 新しい睡眠健診や治療の開発へ

2022.03.22
 成人の睡眠パターンは16タイプに分類できることが、東京大学と理化学研究所による大規模な睡眠研究により明らかになった。

 腕時計型のウェアラブルデバイスで得られたデータから、眠っているのか起きているのかを判定する機械学習アルゴリズムを開発し、睡眠解析を行った。

 約10万人のデータから、朝型や夜型といった既知の睡眠パターンに加え、睡眠障害との関係が疑われる新しい睡眠パターンを含む、16タイプの睡眠パターンを確認した。

 今後は、簡便で正確な睡眠診断が広がり、睡眠健診や指導の実現、睡眠障害の診断や新しい治療法の開発につながる可能性がある。

睡眠パターンを16タイプに分類

 睡眠に不満・不安をおぼえる人は世界的に増えている。睡眠を簡便に測定し、1人ひとりの睡眠パターンを定量的に理解することは、ヘルスケアの分野だけでなく、睡眠障害の診断などの医療の観点からも非常に重要だ。

 そこで東京大学と理化学研究所の研究グループは、研究室で独自に開発した、腕の加速度から睡眠・覚醒状態を判別する機械学習アルゴリズム「ACCEL」を用いて、英国の「UK Biobank」のた10万3,200人の加速度データを睡眠データに変換し、それを詳細に解析した。

 UK Biobankは、50万人の英国人が参加している、遺伝情報や健康情報を含む、大規模な研究用データベース。使用したデータは、30~60代の男女を対象に、リストバンド型の加速度センサーを用いて、最長で7日間の加速度測定を行ったもの。

 その結果、この約10万人の睡眠が、16種類のパターンに分類できることが明らかになった。そのなかには、朝型や夜型といった既知の睡眠パターンに加え、睡眠障害との関係が疑われる新しい睡眠パターンも含まれている。

新たに分類された16タイプの睡眠パターン

1 中途覚醒をもつことから、不眠症に関連すると考えられる。合計睡眠時間は多い。
2a 不規則な睡眠スケジュール。
2b 断片的な睡眠を繰り返しており、合計睡眠時間が少ない。
3a 中途覚醒をもつことから、不眠症に関連すると考えられる。合計睡眠時間は一般的。
3b 中途覚醒をもつことから、不眠症に関連すると考えられる。合計睡眠時間は少ない。
3b-1 合計睡眠時間が少なく、長い中途覚醒をもつ、不眠症に関連すると考えられる。
3b-2 合計睡眠時間が少なく、長い中途覚醒と短い中途覚醒の両方をもち、不眠症に関連すると考えられる。
4a 1日の生活リズム(睡眠覚醒リズム)が24時間よりも長いと推定される。
4b 平均的な睡眠をもち、データ総数がもっとも多い。
4b-1 長眠型。
4b-2 朝型。
4b-3 1日の生活リズム(睡眠覚醒リズム)が24時間より短い。
4b-4 合計睡眠時間が短く、短い中途覚醒をもち、不眠症に関連すると考えられる。
4b-5 合計睡眠時間が一般的であり、少ない回数の長い中途覚醒をもち、不眠症に関連すると考えられる。
4b-6 夜型。
5 日中の睡眠をもたない。

 「今後、ウェアラブルデバイスなどの加速度センサーを用いた計測と、ACCELを用いた解析を進めていくことで、睡眠障害のより良い診断基準の提案や睡眠障害の自動診断方法の開発、さらには新しい治療法の開発につながることが期待されます」と、研究者は述べている。

 研究は、JST戦略的創造研究推進事業で、東京大学大学院医学系研究科機能生物学専攻システムズ薬理学分野の上田泰己教授(理化学研究所生命機能科学研究センター合成生物学研究チームチームリーダー兼任)、香取真知子氏、史蕭逸助教(理化学研究所客員研究員兼任)らの研究グループによるもの。研究成果は、米国科学アカデミー紀要「PNAS」にオンライン掲載された。

リストバンド型加速度センサーから21の睡眠の指標を抽出
リストバンド型加速度センサーにより得られた3軸の加速度データ(左上図)を、「ACCEL」を用いて高精度な睡眠データ(左下図)に変換、21の睡眠指標(右図)を引き出した。
出典:東京大学、2022年

ライフスタイルの多様化により睡眠パターンも多様に

 研究グループによると、「昼間に活動し、夜間に7時間程度眠る」といった人間の睡眠の基本的な構造は、ヒトという生物種内で保存されており、睡眠のパターンはある程度遺伝的に決まっている。

 しかし、この睡眠の基本構造は、環境要因によって一過性または慢性的に変化することが知られている。とくに、ライフスタイルの多様化により、現代人はさまざまな睡眠パターンをとるようになっている。

 電気の普及により夜間の活動も可能になり、また、カフェインやアルコールなどを摂取することで、一時的に睡眠時間や、睡眠のタイミングを制御することが可能になってきた。

 しかし、このような睡眠習慣の多様化には、健康面に関するリスクがともなう。たとえば、夜型の人は、朝から学校や会社に行くという社会的な義務感から、平日の睡眠時間が短くなり、平日と休日で睡眠時間が異なる傾向がある。

 これは「社会的時差ぼけ」と呼ばれており、肥満や高血圧、精神的なストレスなど健康への悪影響が懸念されている。

1人ひとりの睡眠を簡便に測定 定量的に解析

 さらに現代人の60~70%は満足な睡眠がとれていないと感じており、その一部は、睡眠時に一時的に目が覚めてしまう「中途覚醒」や、眠ろうとしてもなかなか寝つくことができない「入眠困難」を特徴にもつ不眠症と診断されている。

 中途覚醒や入眠困難などの睡眠パターンはPSG測定と呼ばれる脳波などの測定により正確に調べることができるが、装置が煩雑なため日常的な睡眠状況の把握には適していない。

 不眠症の診断には週単位の睡眠パターンを把握することも必要なため、現在は睡眠日誌や問診といった主観的な指標による診断が中心となっている。

 もし、簡便かつ正確に長期間(1週間以上)の睡眠測定が可能な手法が開発され、その結果を定量的に解析することができれば、睡眠パターンの分類から不眠症などの症状の分類によって診断をより詳細にすることがでるようになる。

 さらに治療前後の差を比較することで、治療の効果を正確に見積もることも可能になる。

 1人ひとりの睡眠を簡便に測定しそれらを定量的に解析することで、「社会的時差ぼけ」や不眠症などの睡眠パターンに分類することができるようになれば、個別対応型の生活改善指導や、医療が可能になると期待される。

定量的な指標にもとづく新たな睡眠障害の診断を

 研究グループは今回の研究で、睡眠パターンを合計16のクラスターに分類した。そのなかには睡眠障害に関連する可能性のあるクラスターも含まれている。

 「今後、実際に睡眠障害と診断されている人の睡眠データを用いることにより、各クラスターと睡眠障害の関係性をより正確に解明し、定量的な指標にもとづく新たな睡眠障害の診断パイプラインにつながることが期待されます」と、研究グループでは述べている。

 「また、研究で不眠症に関連する睡眠パターンをサブタイプの分類できたことと同様に、他の既知の睡眠障害についてもサブタイプに細分化することができる可能性があります。これまで同一の病名で診断されていた睡眠障害がより詳細に分類されることにより、睡眠障害のサブタイプを考慮したうえでのより適切な治療法の確立や、その背後にある遺伝的・環境的な要因の解明が促進されることが期待されます」。

 「さらに、研究で明らかになった睡眠パターンのクラスターは、睡眠と深く結び付いた心身の健康状態、たとえば精神疾患の原因解明を促進するうえでも、有益な情報となると期待されます。睡眠を簡便に測定する環境が整い、自動的に睡眠パターンを判別する技術が生まれることで、気軽に個人が睡眠を測り自身の状態を把握することを身近にしていくと期待できます」としている。

次元削減後のデータの3次元プロットと分類された8クラスター

解析対象のデータを絞ることにより新たにみつかった8クラスター
出典:東京大学、2022年

東京大学大学院医学系研究科 機能生物学専攻システムズ 薬理学分野
科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 ERATO
The 103,200-arm acceleration dataset in the UK Biobank revealed a landscape of human sleep phenotypes (PNAS 2022年3月14日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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