慢性腎臓病(CKD)は概日時計の変容を介して心臓の炎症を悪化させる 血中ビタミンA濃度の上昇により時計遺伝子に異常
腎機能の低下が単球の概日時計変容を介して心臓の炎症を悪化させているという。ビタミンAや単球を標的にした治療法の開発が期待される。
CKDによる血中ビタミンA濃度の上昇が時計遺伝子の発現を変容
慢性腎臓病(CKD)による腎機能の低下はさまざまな合併症を引き起こすが、とくに発症頻度が高いのが心疾患だ。しかし、CKDにともない心疾患リスクが上昇する要因については十分解明されておらず、末期CKD患者の死因1位は心不全となっている。
一方、多くの生物は、地球の自転にともなう外部環境の周期的な変化に対応するため、自律的にリズムを発振する機能(体内時計)を保持している。この体内時計は時計遺伝子と呼ばれる複数の転写因子によって維持されているが、疾患のある患者では時計遺伝子の発現/機能にしばしば異常がみられる。
研究グループは今回、マウスおよびヒト血液検体を用いた実験で、CKDにともない生じる血中ビタミンA濃度の上昇が、時計遺伝子の発現を変容させること、さらにはこの発現変容が単球の炎症促進作用を高めることを明らかにした。
また、この単球が心臓に浸潤することで、心臓の炎症を悪化させることも解明した。
これらの知見から、CKDにともない単球の炎症活性を上昇させる分子を標的とした治療薬の開発や、ビタミンAの異常な蓄積を改善する血液浄化法の構築につながることが期待されるとしている。
研究は、九州大学大学院薬学研究院の大戸茂弘教授、吉田優哉特任助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」にオンライン掲載された。
「時計遺伝子は生体のほぼすべての臓器(細胞)が有しています。CKDや心不全以外のさまざまな疾患にも時計遺伝子は関与していますが、興味深いことに、そのメカニズムは疾患や臓器によってまったく異なります。この理由を解き明かし、新たな疾患治療薬の開発や疾患予防に役立てたいと考えています」と、研究グループでは述べている。
九州大学大学院薬学研究院
Alteration of circadian machinery in monocytes underlies chronic kidney disease-associated cardiac inflammation and fibrosis(Nature Communications 2021年5月13日)