ビタミンDが不足すると筋力低下・サルコペニアのリスクが高まる 日本人対象の疫学研究と基礎研究で明らかに

2022.10.31
 ビタミンDが不足している人は、将来に筋力低下やサルコペニアの発症リスクが上昇する可能性があることが、国立長寿医療研究センターや名古屋大学などの研究で明らかになった。

 とくに高齢者はビタミンDが不足しがちで、研究により、高齢者で生じる筋力低下やサルコペニアの発症に、ビタミンDの不足が深く関わっている可能性が示された。

 さらに血中のビタミンDの測定は、サルコペニアの予測バイオマーカーのひとつとなりえるとしている。

 研究は、「NILS-LSA(国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究)」の縦断解析および、ビタミンD受容体を成熟した筋線維で欠損させた遺伝子組換えマウスを用いた基礎研究によるもの。

筋肉を効率よく増やすためにタンパク質とビタミンDが必要

 国立長寿医療研究センターや名古屋大学などは、血中ビタミンD量が不足している人は、将来にサルコペニアの罹患率が上昇することや、筋線維内のビタミンDシグナル伝達の低下は筋力低下と直接的に関連していることなどを明らかにした。

 サルコペニアは、加齢にともない、筋肉量が急激に減少する疾患で、65歳以上の高齢者に多く、とくに75歳以上になると急に増えていく。

 サルコペニアになると、歩く速度が低下し、着替えや入浴など日常生活の動作も行いづらくなる。体のバランス機能も悪くなり、転倒・骨折の危険性が高まる。超高齢社会を迎えた日本で、その対策は喫緊の課題となっている。

 サルコペニアを予防するために、筋肉を増やすことが必要で、筋肉を効率よく増やすためには、運動とともに栄養が重要となる。とくに必要な栄養素がタンパク質とビタミンDだ。

 ビタミンDは脂溶性のビタミンで、体内のカルシウム吸収を促し骨を増強するとともに、筋肉の合成を促す働きをする。ビタミンDは、魚介類、卵、キノコなどに多く含まれ、日光に当たると体内で合成される。

 これまで、ビタミンDが加齢性の量的変動やサルコペニアと関連していると指摘されてきたが、過去の研究の多くは、培養細胞を用いた実験や横断的な疫学研究で、成熟した骨格筋に対するビタミンDの作用や、加齢性疾患であるサルコペニアとの関連についてはよく分かっていなかった。

ビタミンD不足は筋力低下とサルコペニアのリスクを高めることが判明
40歳以上の中高年者1,919人を対象に調査

 そこで研究グループは、国立長寿医療研究センターが実施している、老化についての長期縦断疫学研究である「NILS-LSA(国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究)」のデータを用いて、血中ビタミンD量が低値の人の4年後の筋力の変化や筋量の変化、さらにサルコペニア新規の発症などについて調査した。

 「NILS-LSA」は、愛知県大府市・東浦町に在住している40歳以上の中高年者を対象に、医療・心理・運動・身体組成・栄養など多角的な観点から、老化や老年病の予防について調べているコホート研究。

 研究に参加した1,919人のデータを解析し、ビタミンD欠乏群(血中の25OHD量が20ng/mL以下、384人)、および充足群(384人)を比較し、ビタミンD欠乏群では筋力低下が進行し(p=0.019)、またサルコペニアの新規発生数も有意に増える(p=0.039)ことを明らかにした。

 このことは、ビタミンDが不足していると、将来的に筋力低下をまねき、結果としてサルコペニア罹患率が上昇することを示している。

血中ビタミンD量の低下が筋力低下を導き、将来的なサルコペニア発症を誘発する可能性が、疫学研究で示された
出典:名古屋大学、2022年

成熟筋線維でのビタミンDシグナルの低下や抑制が筋力低下の原因

 さらに、ビタミンDは、成熟した筋線維の収縮や筋力の発揮に直接に働き、その一方で、筋量調節には働かないことも明らかになった。

 研究グループは、疫学研究で得られたビタミンD欠乏と筋力低下の分子メカニズムを明らかにするために、成熟した筋線維でのみ、ビタミンD遺伝子(Vdr)を欠損させた遺伝子組換えマウスを新たに作出した。

 このマウスは、骨格筋の遅筋線維と速筋線維の両方でVdrが欠損し、両筋線維タイプでビタミンDによるシグナル伝達が抑制された状態になっている。

 このマウスを調べたところ、筋重量、筋線維径、筋線維タイプ、骨格筋幹細胞数など骨格筋の量的形質には影響はみられず、その一方で、筋力は低下していた。

 さらにこのマウスでは、筋線維の収縮・弛緩に関わる遺伝子Serca1とSerca2aの発現が減少し、骨格筋での筋小胞体Ca2+-ATPアーゼ活性も低下していた。

 これらの結果は、成熟筋線維でのビタミンDシグナルの低下もしくは抑制が、Serca発現を介して筋収縮に影響を与え、結果として筋力低下が引き起こされることを示しているという。

筋内ビタミンDシグナル伝達の低下が筋力低下を導き、サルコペニア発症を誘発する可能性が、基礎研究で示された
出典:名古屋大学、2022年

血中ビタミンDがサルコペニアを予測するバイオマーカーになる可能性

 今回の、国立長寿医療研究センターが進める長期縦断疫学研究で蓄積された縦断疫学データを用いた研究で、ビタミンDの不足が、将来的に筋力の低下や、サルコペニアの発症リスクを高めることが示された。

 高齢者でビタミンDが不足しがちになることは広く知られており、研究により、高齢者で生じる筋力低下やサルコペニア発症にビタミンD不足が深く関わっている可能性が示された。

 研究は、国立長寿医療研究センター運動器疾患研究部の細山徹副部長と名古屋大学大学院医学系研究科整形外科学の水野隆文氏を代表とする研究グループが、国立長寿医療研究センター老化疫学研究部、名古屋学芸大学、東京大学、松本歯科大学、医療創生大学と共同で行ったもの。研究成果は、国際誌「Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle」に掲載された。

 「より長期的な検証が必要ではありますが、本研究の成果は、血中ビタミンDがサルコペニアの発症を予測するバイオマーカーのひとつとなりえることを示しており、サルコペニア予防に貢献すると期待されます」と、研究グループでは述べている。

国立長寿医療研究センター運動器疾患研究部
国立長寿医療研究センター老化疫学研究部
名古屋大学大学院医学系研究科整形外科学
Influence of vitamin D on sarcopenia pathophysiology: A longitudinal study in humans and basic research in knockout mice (Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle 2022年10月13日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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