「心房細動」の潜在患者を自治体健診で発見 ホルター心電計を糖尿病などリスク保有者600人が1週間装着 大分大学

2023.06.14
 大分大学、大分県臼杵市、大分県杵築市、大分県後期高齢者医療広域連合、臼杵市医師会、杵築市立山香病院、JSR、日本コンベンションサービスは、「心房細動」の潜在患者を自治体の健康診査で早期発見する「健康寿命延伸事業」を開始した。

 高血圧・糖尿病・心不全・脳卒中があるなど、健診でハイリスクと判定された65歳以上の高齢者を対象に、1週間の連続測定が可能なホルター心電計を装着してもらい、心房細動を早期発見し治療介入につなげる。市民の健康寿命延伸に寄与する、全国に先駆けた循環器病対策のモデル事業としている。

最大600人のリスク保有者から心房細動を早期発見 治療介入につなげる

 大分大学、大分県臼杵市、大分県杵築市、大分県後期高齢者医療広域連合、臼杵市医師会、杵築市立山香病院、JSR、日本コンベンションサービスは共同で、「心房細動潜在患者の早期発見による健康寿命延伸事業」を開始した。

 このほど大分市で、大分大学の北野正剛学長、同医学部循環器内科・臨床検査診断学講座の髙橋尚彦教授、中野五郎・臼杵市市長、永松悟・杵築市市長などが出席し、記者会見を実施。

 全国に先駆けた、市民の健康寿命延伸に寄与する循環器病対策のモデル事業としており、実施期間は、2023年6月1日~2024年3月15日。

 国の交付金を活用して、最大600人のリスク保有者のなかから、心房細動の患者を発見し、早期の治療介入を行う。

 「日本の医療費の2割を、循環器系疾患が占めており、発症予防をすることは重要です。循環器系疾患は、要介護の最大の牽引にもなっており、本人のみならず家族にも多くの負担がかかります」と、研究グループでは述べている。

 「循環器系疾患のうち、心房細動は、脳梗塞の原因疾患になっており、健康寿命と平均寿命の差を広げる要因のひとつです。心房細動を早期発見し、治療を行うことで、脳梗塞の発症を予防することが可能になります」としている。

最大600人のリスク保有者のなかから、心房細動の患者を発見し、早期の治療介入につなげる

出典:大分大学、2023年

世界最薄型・最軽量クラスのホルター心電計を1週間装着 最大600人に実施

 研究では、一般住民を対象に、脳梗塞リスクが高い日本人集団での未診断のすべて(発作性および持続性)の心房細動の有病率を評価することを目指す。

 心房細動の診断では、心房細動が出ているときの心電図を記録することが必須となるが、心房細動があっても症状のない患者、ふだんは正常な脈で、ときどき心房細動をきたす発作性心房細動患者は見逃されることが多いのが現状だ。

 そうした「隠れ心房細動」患者の早期発見には、長期間測定が可能な心電図検査が有用であり、これにより高い精度で診断することが可能になる。心房細動と診断できれば、脳梗塞予防のために抗凝固剤を投与し、またカテーテルアブレーションで根治させることも可能となる。

 そこで、大分県臼杵市と杵築市の65~74歳の高血圧などのリスク保有者と75歳以上の後期高齢者を対象に、1週間連続して測定できるホルター心電計を装着してもらい、心房細動患者の早期発見と治療につなげることを目指す。

 研究で使用する「Heartnote」は、世界最薄型・最軽量クラスのホルター心電計としており、軽量・フレキシブル・コードレス設計になっている

 防水仕様(IPX4、7適合)であり、装着したままシャワーや半身浴が可能で、最大7日間の長時間データを測定できる。

 対象となるのは、健診受診者で、▼年齢:75歳以上(2点)、65~74歳(1点)、▼既往歴:高血圧(1点)、脳卒中(1点)、心不全(1点)、糖尿病(1点)、心筋梗塞(1点)、▼受診時所見:収縮期血圧>140mmHgかつ/または拡張期血圧>90mmHg(1点)、空腹時血糖>126mg/dL(1点)、体格指数>30(1点)、労作時呼吸困難や動悸の訴え(1点)とし、合計点が2点以上の場合。

 「今回の事業は、臼杵市と杵築市で、最大600人に対して実施することを計画しており、600人に実施した場合は、30人の心房細動患者が予想されます。このうち10人が心不全、1人が心原性脳梗塞を引き起こすと考えられます」と、研究グループでは述べている。

軽量・フレキシブル・コードレス設計のホルター心電計「Heartnote」を使用
装着したままシャワーや半身浴が可能で、最大7日間の長時間データを測定できる

出典:出典:JSR

心房細動のスクリーニングと診断に用いられる各デバイスの特徴
出典:大分大学、2023年

脳梗塞になると3,600万円の以上の医療・介護費の負担が

 1人の脳梗塞患者にかかる医療費は、1回入院当たり170万円で、介護費用は年間に約360万円とみられている。また、70代男性の脳血管疾患の平均余命は5~13年であるため、仮に10年介護の場合、生涯に3,600万円の以上の医療・介護費の負担が予測されるとしている。

 心房細動を早期発見し治療介入につなげ、健康寿命の延伸を実現すると、患者の生活の質(QOL)を向上できるだけでなく、医療・介護費の負担も大幅に減らすことができるとしている。

 「臼杵市は男性・女性とも、循環器系疾患(心疾患および脳血管疾患)による死亡が全国より多い。杵築市の心疾患は、全国・県の死亡率との差がもっとも大きく、課題のひとつになっています」と、研究グループは指摘している。

 「心房細動の大きなリスク因子のひとつが加齢です。2025年には、両市とも高齢化率40%を超えることが予想されており、循環器疾患の早期発見と治療は重要な課題になっています」としている。

心房細動潜在患者の早期発見による健康寿命延伸事業

出典:大分大学、2023年

大分大学医学部循環器内科・臨床検査診断学講座
臼杵市・杵築市等との連携による脳梗塞予防のための心房細動検出研究 (大分大学 2023年5月29日)
心房細動ってなに? なぜ脳梗塞を起こすの? 治療はどうするの? (大分大学)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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