難治性狭心症をもつ糖尿病患者の細胞内脂肪分解を促進 中性脂肪蓄積型の動脈硬化を治療 臨床試験を実施中
細胞内脂肪分解を促し動脈硬化を顕著に退縮
大阪大学は、難治性狭心症を持つ2例の糖尿病患者に対し、細胞内脂肪分解を促進することによって、びまん性冠動脈硬化が顕著に退縮したことを、冠動脈CTの詳細分析により明らかにした。
この変化は、脂肪酸シンチグラフィによる分析の結果、心臓における脂肪分解の亢進をともなっていた。また、血清脂質値の変化は認められなかった。
これまで動脈硬化の治療法として、血清脂質(LDLコレステロールや中性脂肪)低下療法が開発され臨床応用されてきたが、これらで予防治療可能な冠動脈疾患は約3~4割とみられている。狭心症や心筋梗塞などの冠動脈疾患は、いまだに世界的にみても主要死因のひとつだ。
今回の研究成果とあわせて、現在、大阪大学でアカデミア開発した細胞内脂肪分解を促進する治療薬「CNT-01」(主成分はトリカプリン/トリスデカノイン)を用いた第2b/3相試験が、国内製薬企業により行われている。
研究は、大阪大学大学院医学系研究科中性脂肪学共同研究講座の平野賢一特任教授、同講座の東将浩招へい准教授(大阪医療センター 放射線診断科 科長 職員研修部長)らの研究グループによるもの。研究成果は、「European Heart Journal」にオンライン掲載された。
冠動脈に中性脂肪が蓄積し動脈硬化をきたす「中性脂肪蓄積心筋血管症(TGCV)」を治療
研究グループは、血清脂質値や肥満度とは無関係に、冠動脈に中性脂肪が蓄積しびまん性の動脈硬化をきたす疾患を見出し、「中性脂肪蓄積心筋血管症(TGCV)」と命名し、その診断方法や治療法の開発を行ってきた。
TGCVは、平野特任教授らが見出した新規難病で、血清TG値や肥満度とは無関係に、冠動脈や心臓にTGが蓄積する。これまで想定されていなかったTGの生体における役割を示すモデル疾患でもある。潜在患者数は4~5万人と推定されている。
研究グループは今回、トリカプリン栄養療法を行った60歳代の難治性狭心症および糖尿病をもつ男性TGCV患者2例で、CTを用いた脂肪の血管壁内分布、脂肪量の定量解析、心筋における脂肪分解を、脂肪酸代謝シンチグラフィBMIPPの洗い出し率(WR)を用いて算出した。
心臓や血管は脂肪酸をエネルギー源としている。BMIPPは、脂肪酸の放射性アナログで、日本では1990年代から核医学検査として日常診療で実施されている。
BMIPPの洗い出し率の測定は、心臓での脂肪分解能、脂肪利用の程度を評価でき、TGCVの診断や治療法の効果判定に有用としている。
その結果、2例とも冠動脈の狭窄、血流低下の著明な改善、血管に蓄積する脂肪の減少と明らかな退縮が観察された。
これらの変化は、BMIPPのWRの著明な改善をともなっていた。なお、血清脂質値やHbA1c値は治療前後で変化しなかった。
同大学中性脂肪学共同研究講座の池田善彦招へい准教授(国立循環器病研究センター臨床検査部医長)や平野特任教授ら研究グループは、中性脂肪蓄積型の動脈硬化は、糖尿病や慢性腎臓病患者に認められることをすでに報告している。
「研究成果は、これまで想定されなかった動脈硬化の顕著でかつ新しいメカニズムの退縮といえます」と、研究グループでは述べている。
現在、細胞内脂肪分解促進を起こす治療薬(主成分はトリカプリン/トリスデカノイン)の第2/3相試験が行われており、その成果が期待されている。
大阪大学大学院医学系研究科 中性脂肪学共同研究講座
Remarkable regression of diffuse coronary atherosclerosis in patients with triglyceride deposit cardiomyovasculopathy (European Heart Journal 2022年12月30日)