高血糖・肺炎歴・睡眠でインフルエンザ罹患リスクの高いグループを特定 弘前大学「岩木健康増進プロジェクト」
インフルエンザ罹患リスクの高いグループの特徴[血糖値が高め・肺炎歴がある・睡眠状況が悪い]
研究は、京都大学大学院医学研究科(奥野恭史教授)、弘前大学、大正製薬の研究グループによるもの。大正製薬は、弘前大学と2021年4月より共同研究講座「プレシジョンヘルスケア学講座」を開設し、連携を進めている。
同講座では、弘前大学が実施してきた「岩木健康増進プロジェクト」で得られた医療ビッグデータと、同社が蓄積してきた研究知見を組み合わせた解析により、かぜ・毛髪・疲労に関連する症状と、生体関連因子の関係性解明を研究課題としている。
同プロジェクトは、弘前大学・弘前市・青森県総合健診センターが立ち上げたもので、同県の「短命県」の汚名返上を目的に、2005年から16年にわたり、弘前市の岩木地区で、地域住民を対象に大規模な健診や保健指導などを実施している。
研究グループは今回、京都大学や同講座との研究グループで検討を重ねた結果、医療ビッグデータから病気の罹患リスクの高い特徴的なグループ(体質・生活習慣・環境など)を抽出できる、独自の層別解析手法を構築した。
この手法は、同プロジェクトの2019年度の1,062人の健診データ(うち1年以内のインフルエンザ罹患者は121人)を用いて、インフルエンザ罹患をモデルとして実施し構築したもの。
その結果、インフルエンザ罹患リスクの高いグループの特徴として、▼血糖値が高め、▼肺炎歴がある、▼睡眠状況が悪い、が浮かび上がった。これら特徴の多くは、インフルエンザを含む上気道感染症の罹患要因に関する先行研究と整合性がとれており、同手法は有用としている。
解析は以下の3つのステップを経て行われた。
(1) 関連因子の抽出
機械学習により、ビッグデータから病気の罹患に関連する因子を選抜した。
(2) 因果関係の解析
得られた因子について、因果分析手法のひとつであるベイジアンネットワーク解析により、因果関係をモデル化した。
ベイジアンネットワークは、さまざまな事象間の因果関係を、構造と条件付確率でグラフィカルに表現するモデル。
(3) タイプ分類
得られたネットワーク解析結果を活用した階層クラスタリングにより、病気の罹患リスクの高い特徴的なグループに分類した。
階層クラスタリングは、データからクラスタの階層構造を抽出する手法。
これまで、医療ビッグデータ解析により病気の罹患リスクの高い特徴を特定しようとすると、今回のようなデータが約3,000項目×数千、数万人と膨大なデータ量になると、一般的な相関解析やクラスタリング手法を適用するだけでは、罹患リスクの特徴の抽出や、その関係性の把握が困難だった。
「今回、インフルエンザをモデルとして、医療ビッグデータ解析によって病気の罹患リスクが高い特徴的なグループを見出すことが可能であることを確認した。今回は1年間のデータを使用した解析だったが、今後も多年度の医療ビッグデータの蓄積および解析手法の改良・検証を進めたい」と、研究グループでは述べている。
さらに、「かぜの罹患しやすさ、薄毛や白髪の要因、日常生活での疲労などに本手法を応用することで、体質や健康リスクに寄り添った効果的な治療・予防に関する新たな知見を見出すとともに、研究成果を活用したソリューションを提供していく」としている。
研究成果は、6月に仙台で開催された第4回日本メディカルAI学会学術集会で発表された。
プレシジョンヘルスケア学講座 (弘前大学COI研究推進機構)
岩木健康増進プロジェクト
第4回日本メディカルAI学会学術集会