眼科受診を勧められた糖尿病患者は網膜症の検査の実施率が2倍以上高い 患者の理解を高めることが重要

2025.02.04

 医療者から眼科受診を勧められた認識をもつ糖尿病患者は、糖尿病網膜症の検査の実施率が2倍以上高く、また望ましい眼科受診の頻度を正しく理解している割合も高いことが、筑波大学、東京大学、国立国際医療研究センターの調査で明らかになった。

 日本の糖尿病診療ガイドラインでは、糖尿病網膜症を調べる眼底検査を少なくとも年1回受けることが推奨されているが、国内の糖尿病患者の眼科受診率は半数に満たないという報告がある。

 「眼科受診勧奨を患者が正しく認識することが、適切な眼科受診行動につながる可能性がある」と、研究者は指摘している。

糖尿病患者の眼科受診に関する認識や理解を高めることが重要

 研究は、筑波大学医学医療系 ヘルスサービス開発研究センターの杉山雄大教授(国立国際医療研究センター研究所 糖尿病情報センター 医療政策研究室長を併任)、東京大学大学院医学系研究科代謝・栄養病態学の山内敏正教授らによるもの。研究成果は、「Diabetes, Obesity and Metabolism」に掲載された。

 研究グループは今回、眼科受診に対する患者の認識が眼底検査の実施率に影響していると考え、茨城県つくば市が2022年度に国民健康保険加入者を対象に実施した「糖尿病に関するアンケート調査」の結果を、同市の了承を得たうえで二次利用し、質問票の回答とレセプト・健診データを連結した匿名データを用いて横断解析を行った。

 その結果、糖尿病を自覚するアンケート回答者290人のうち、医療者から眼科受診を勧められたと認識している群は認識がない群と比べて、眼底検査の実施率が2倍以上高いことが明らかになった[72.9% 対 30.1%]。

 さらに、眼科受診を勧められたと認識している群では、正しい眼科受診頻度を知っている割合も高い傾向が認められた。

 日本の糖尿病診療ガイドラインでは、少なくとも年1回の糖尿病網膜症を調べる眼底検査が推奨されているが、国内の大規模レセプトデータを用いた調査では、糖尿病患者の眼科受診率は半数に満たないと報告されている。

 「糖尿病患者に対して医療者が眼科受診を勧め、患者の眼科受診に関する認識や理解を高めることが、眼科受診、眼底検査実施を促進するために重要であることが示唆された。本研究の知見は、医療機関および行政機関で、患者の眼科受診意識を高める多面的な啓発活動や情報発信の強化に活用されることが期待される」と、研究者は述べている。

「眼科受診勧奨を受けた認識」のある患者、「眼科受診頻度の知識」のある患者で、眼底検査の実施割合は高く、認識のある患者は「眼科受診頻度の知識」をもつ割合が高い
出典:筑波大学、2025年

医療者による積極的な受診推奨に加え医療システムや行政レベルでの包括的な環境整備が重要

 「糖尿病に関するアンケート調査」は、自治体や健康保険組合などの保険者による「つくば市データヘルス計画(第3期)」と、「つくば市国民健康保険特定健康診査等実施計画(第4期)」の策定での基礎資料として用いるために実施されたもの。同市は、この2つの計画をまとめて「つくば市国民健康保険計画」と総称している。

 研究グループは、層化無作為抽出した1,000人に調査票を配布し、回答のあった456人(有効回答率 45.6%)のうち、糖尿病の自覚をもつ患者290人(年齢中央値 63.3歳、男性 57.9%)を解析対象とし、前述の層化無作為抽出の際の抽出確率と回答率にもとづいたウェイトを用いて結果を重み付けした。

 その結果、医療者からの眼科受診勧奨を受けた認識のある人は139人(重み付け割合 47.6%)、正しい眼科受診頻度の知識をもつ人は72.8%(195人)、レセプト上で実際に眼底検査を受けていた人は50.5%(149人)だった。

 実際に眼底検査を受けた割合は、眼科受診勧奨の認識のある群 72.9% 対 認識のない群 30.1%、正しい眼科受診頻度の知識をもつ群 63.9% 対 知識をもたない群 21.1%だった。正しい眼科受診頻度の知識をもつ割合は、眼科受診勧奨の認識のある群 93.4% 対 認識のない群 49.6%となり、いずれも有意差がみられた。

 眼科受診勧奨を受けた認識のある群は、認識のない群と比べて、修正ポアソン回帰分析による眼底検査受診の調整リスク比は2.36[95%信頼区間 1.65~3.38]だった。

 またサブ解析では、糖尿病専門医が在籍する医療機関を受診している患者は、眼科受診勧奨の認識をもつ割合が高く、眼科受診頻度を正しく理解している割合や実際の眼底検査受診割合も高いことが分かった。

糖尿病専門医が在籍する医療機関では、患者の「眼科受診勧奨を受けた認識」「眼科受診頻度の知識」「眼底検査の実施割合」がそれぞれ高い
出典:筑波大学、2025年

 以上の結果から、「患者が医療者による眼科受診勧奨を受けたと認識することは、眼底検査実施や眼科受診頻度に関する理解の向上に寄与することが示唆された。糖尿病網膜症の早期発見と重症化予防には、患者自身が受診の必要性を正しく認識することが重要であり、そのためには医療者の積極的な受診推奨だけでなく、医療システムや行政レベルでの包括的な環境整備が重要だと考えられる。本研究の成果は、こうした眼科受診勧奨の推進策を検討する上で、有用なエビデンスとなりえる」と、研究者は述べている。

 なお、研究では眼科受診の判定時期(2021年度)の後に、アンケート調査(2022年度)が行われていることや、眼科受診勧奨の有無は、患者の主観によって判断されたものであり、実際の勧奨の有無と異なる可能性があることにも注意が必要としている。

 その一方で、患者視点を含むかたちで眼科受診の実態を定量的に示すことができたことは、意義深く、研究の知見は、医療者が個別に行う眼科受診勧奨をさらに推進するだけにとどまらず、[眼科-内科]の連携にインセンティブを付与することや、眼科受診、眼底検査などを糖尿病患者の診療の質指標に組み込むこと、特定健診での眼底検査を普及させることなど、多岐に渡る医療・行政施策への働きかけに活用されることが期待されるとしている。

 こうした包括的な取り組みが、日本の糖尿病診療の質向上につながり、ひいては糖尿病合併症の重症化予防や医療費削減に寄与する可能性がある。

筑波大学 ヘルスサービス開発研究センター
Recognition of ophthalmology consultation and fundus examination among individuals with diabetes in Japan: A cross-sectional study using claims-questionnaire linked data (Diabetes, Obesity and Metabolism 2025年1月30日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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