肥満・高血圧・体力低下は社会的認知機能の低下と関連 社会脳ネットワークに影響する脳活動の低下

2022.06.14
 神戸大学などは、心血管リスク因子(肥満、高血圧)と低体力が、脳活動の低下を介し、社会的認知機能の低下と関連があることを明らかにしたと発表した。

 心血管リスク因子(肥満、高血圧)および体力(持久力、歩行速度、手指巧緻性、筋力)と社会的認知機能の関係を、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いて調べた結果、心血管リスク因子と低体力は、社会脳ネットワークに関係する脳活動の低下を介し、社会的認知機能の低下と関わっていることを明らかにした。

 とくに、肥満・持久力・手指巧緻性は、社会脳ネットワークの脳活動および社会的認知機能と強く関わっているという。

心血管リスク因子と体力は、脳活動を介して社会的認知機能にどう関わる?

 肥満の割合が過去40年で3倍に増加するなど、心血管リスク因子をもつ人の増加は公衆衛生上の懸念事項となっている。また、ここ40年で人々の心肺持久力が低下していることを示すデータもある。

 一方、心血管リスク因子と低体力が、記憶や注意力などの認知機能の低下と関わることが示されているものの、社会的相互作用の基盤となる社会的認知機能に焦点を当てた研究はこれまで行われていない。

 社会的認知機能が、社会生活や精神的健康に極めて重要な役割を果たしていることを考えると、心血管リスク因子をもつ人や低体力者が増加する現状で、こうした人々が社会的認知機能低下のリスクを抱えているのかを明らかにすることは重要な課題となる。

 そこで神戸大学などの研究グループは、心血管リスク因子および体力と社会的認知機能の関係を、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いて調べた。具体的には、米国の「Human Connectomeプロジェクト」のデータベースに登録されている1,027人のデータを用いて分析。

 この大規模プロジェクトは、北米で2012年に開始された研究で、約1,200人の被験者から収集された脳画像データが公開され、広くデータの共有がなされている。

BMIと血圧が高く、体力が低いほど、社会的認知中の社会脳ネットワークに関わる領域の脳活動が低い

 研究の結果、BMIと血圧が高く、体力が低いほど、社会的認知中の社会脳ネットワークに関わる領域の脳活動が低いことが明らかになった。これらの関係は、特にBMI、持久力、手指巧緻性で強いことも分かった。

 社会脳ネットワークは、社会的認知中に活動する脳領域から成るネットワーク。内側前頭葉・側頭頭頂接合部・側頭葉・後帯状皮質・下前頭回などが含まれる。また、社会的認知機能は、他者の意図、性質、行動に対する知覚、解釈、反応の生成など、社会的相互作用の基盤となる認知機能。

また、心血管リスク因子と体力は、社会的認知中の脳活動を介し、アニマシー知覚の正確性と表情認知課題の成績と関わっていた。この結果は、BMIと血圧が高く、体力が低いことは、社会脳ネットワークに関係する脳活動の低下を介し、社会的認知機能の低下と関わることを意味している。

心血管リスク因子および体力と社会的認知中の脳活動の関係
BMIおよび血圧と社会脳ネットワークの脳活動(右の図の黄色の領域)には負の相関関係が認められ、体力と社会脳ネットワークの脳活動には正の相関関係が認められた。

左:心血管リスク因子および体力の各項目と脳活動との関係の強さ
中央:各脳領域の脳活動と心血管リスク因子および体力との関係の強さ
右:中央の図から心血管リスク因子および体力との関係が強い領域のみをマップしたもの
正の値(暖色)同士または負の値(寒色)同士には正の相関関係、正の値(暖色)と負の値(寒色)の間には負の相関関係があることを意味する。
出典:神戸大学、2022年

アニマシー知覚で社会的認知中の脳活動を計測

 研究グループは、心血管リスク因子として、身長と体重から算出したBMI、および収縮期と拡張期の血圧データを使用した。体力の指標として、NIH Toolboxで測定された持久力、歩行速度、手指巧緻性、筋力のデータを用いた。

 社会的認知機能の指標として、アニマシー知覚(対象物に意図や生物性を感じること)の正確性と表情認知課題の反応時間と正答率を用いた。機能的磁気共鳴画像法を用い、社会的認知中(アニマシー知覚中)の脳活動を計測。

 アニマシー知覚は、対象物に意図や生物性を感じること。今回の研究では、丸や三角などの幾何学図形の動きから、意図や生物性の有無を判断する課題を用いた。

 これらのデータを用い、心血管リスク因子および体力と社会的認知中の脳活動の関係を調べた。その後、心血管リスク因子および体力が、社会的認知中の脳活動を介して社会的認知機能とどのように関わるかについて分析した。

BMI・持久力・手指巧緻性が社会的認知機能に強く関わる

 今回の研究では、心血管リスク因子と低体力が、社会的認知機能低下の原因なのか、社会的認知機能が低いことが、心血管リスク因子や低体力の原因なのかという因果の方向は明らかにできていない。

 「運動や食事などの健康的なライフスタイルが社会的認知機能を向上させることができるのかを調べるためには、実際に介入を行って効果を検証する必要があります。社会的認知機能との関係は特にBMI、持久力、手指巧緻性で強く認められたため、体重の減少と持久力および手指巧緻性の向上に効果が高い介入法は社会的認知機能の向上に効果的である可能性があります」と、研究グループでは述べている。

 研究は、神戸大学大学院人間発達環境学研究科の石原暢助教と玉川大学脳科学研究所の松田哲也教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Medicine & Science in Sports & Exercise」に掲載された。

神戸大学大学院人間発達環境学研究科
Association of Cardiovascular Risk Markers and Fitness with Task-related Neural Activity during Animacy Perception (Medicine & Science in Sports & Exercise 2022年6月6日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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