【新型コロナ】オミクロン株BA.5流行期でのワクチンの有効性を調査 3回目接種で高い有効性が
ワクチンはオミクロン株のBA.1/BA.2にも中程度の有効性 3回目接種で有効性は回復
国立感染症研究所(感染研)は、「新型コロナワクチンの有効性を検討した症例対照研究の暫定報告(第4報):オミクロン株(BA.1/BA.2およびBA.5)流行期における有効性」と題した速報を発表した。
報告は、FASCINATE study groupによるもの。同調査は感染研および協力医療機関で、ヒトを対象とする医学研究倫理審査で承認され、実施された。
新型コロナに対するワクチンの開発は未曾有のスピードで進み、ファイザー製およびモデルナ製のmRNAワクチンは、大規模なランダム化比較試験で高い有効性が示された。免疫の減衰や免疫逃避能を有する変異株の出現が確認されるなかで、国内でも感染研で、複数の医療機関協力のもと、発熱外来などで新型コロナウイルスの検査を受ける人を対象として、症例対照研究を実施し、実社会での有効性(発症予防効果)が検討されている。
これまでの暫定報告では、ワクチンは、B.1.1.7系統(アルファ株)およびB.1.617.2系統(デルタ株)に対して、高い有効性を示すことが確認された。さらに、オミクロン株の亜系統であるBA.1/BA.2流行期では2回接種で中程度の有効性を示す一方、3回目(ブースター)接種により、高いレベルに有効性が回復することが示された。
2022年6月末以降、国内での新型コロナ症例は急増しており、これは新たなオミクロン株の亜系統であるBA.5の流行によるものである。そこで研究グループは今回、関東地方で、BA.5が75%以上を占めるとされた7月4日~31日の調査での暫定結果を報告した。
ワクチン接種歴「2回接種」「3回接種」など8カテゴリーに分け比較
研究グルーフは、2022年7月4日~31日に、関東地方の複数医療機関の発熱外来などを受診した人を対象に、検査前に基本属性、新型コロナワクチン接種歴などを含む問診票によるアンケートを実施。
のちに各医療機関で新型コロナウイルス感染症の診断目的に実施している核酸検査(PCR)の検査結果が判明した際に、検査陽性者を症例群(ケース)、検査陰性者を対照群(コントロール)と分類。
発症から14日以内で、37.5℃以上の発熱、全身倦怠感、寒気、関節痛、頭痛、鼻汁、咳嗽、咽頭痛、呼吸困難感、嘔気・下痢・腹痛、嗅覚味覚障害のいずれか1症状のある人に限定して解析を行った。
ワクチン接種歴については、(1)未接種、(2)1回接種または2回接種から13日以内、(3)2回接種から14日~3ヵ月(14~90日)、(4)2回接種から3~5ヵ月(91~150日)、(5)2回接種から5ヵ月以降(151日以降)、(6)3回(ブースター)接種から13日以内、(7)3回接種から14日~3ヵ月(14~90日)、(8)3回接種から3ヵ月以上(91日以降)の8つのカテゴリーに分類した。4回接種後の人は数が非常に少なかったため、今回の報告では除外して解析した。
ワクチン有効率は(1-調整オッズ比)×100%で推定された。さらに、国民の多くが2回接種を完了しているなかで、2回接種と比較した3回接種の有効性を検討するため、同報告では、調整オッズ比を元に2回接種と比較した3回接種の相対的な有効率も算出した(3回接種の対象となりえる人に限定するために、2回接種から5ヵ月以上経過した人に限定して解析)。解析に際して、ワクチンの種類は区別せず、ワクチン接種歴などについて、欠損値のある人は今回の解析から除外した。
ワクチン有効率は2回接種5ヵ月で35% 3回接種14日~3ヵ月で65% 3ヵ月以降は54%
関東地方の7医療機関で、2022年7月4日~31日までに発熱外来などを受診した人で解析可能だった1,624人を組み入れ、うち、発症日不明および発症から15日以降に受診した人51人および4回接種後の26人を除外して解析を行った。
解析に含まれた1,547人(うち陽性989人、63.9%)では、年齢中央値(範囲)36(16~93)歳、男性51.9%、女性48.1%であり、24.9%が何らかの基礎疾患を有していた。
また、ワクチン接種歴について、未接種者は12.8%、1回接種した人は0.5%、2回接種した人は30.6%、3回接種した人は56.1%だった。
ワクチン接種歴を接種回数および接種後の期間別で8つのカテゴリーに分け、検査陽性者(症例群)と検査陰性者(対照群)とで比較した結果、未接種者を参照項とする調整オッズ比は、2回接種後5ヵ月以降で0.65(95%信頼区間[95%CI] 0.40-1.04)、3回接種後14日~3ヵ月で0.35(95%CI 0.21-0.58)、3回接種後3ヵ月以降で0.46(95%CI 0.29-0.72)だった。
調整オッズ比を元にワクチン有効率を算出した結果、2回接種後5ヵ月以降では35%(95%CI -4-60)、3回接種14日~3ヵ月では65%(95%CI 42-79)、3回接種後3ヵ月以降では54% (95%CI 28-71)だった。
いずれにしても、新型コロナワクチンには発症予防効果があることが示された。
2022年7月のBA.5流行期でのワクチンの有効性を検討した結果、BA.5流行期では、2回接種後5ヵ月後には、発症予防効果は低程度であることが分かったが、3回(ブースター)接種により、発症予防効果が中~高程度まで高まる可能性が示された。
2回接種と比較した3回接種の相対的な有効率についても同様に、一定程度見込まれることがわかった。
なお、参考として、1月1日~6月19日のBA.1/BA.2流行期については、解析に含まれたのは6,349人(うち陽性2,749人、43.3%)であり、年齢中央値(範囲)35(20~74)歳だった。
この解析では、2回接種後3~5ヵ月では50%(95%CI 30-64)、2回接種後5ヵ月以降では46%(95%CI 38-60)、3回接種14日~3ヵ月では72%(95%CI 65-78)、3回接種後3ヵ月以降では71%(95%CI 55-81)だった。
調整オッズ比を元に2回接種と比較した3回接種の相対的なワクチン有効率を算出したところ、3回接種14日~3ヵ月では49%(95%CI 38-58)、3回接種後3ヵ月以降では46%(95%CI 20-64)だった。
BA.5で有効性減弱の可能性 しかしブースター接種は有効
今回、2022年7月のBA.5流行期でのワクチンの有効性を検討した結果、BA.5流行期では、2回接種後5ヵ月後には発症予防効果は低程度であることがわかった。一方で、3回(ブースター)接種により発症予防効果が中~高程度まで高まる可能性が示された。
2回接種と比較した3回接種の相対的な有効率についても同様に、一定程度見込まれることがわかった。
海外には、BA.5に対するワクチンの有効性に関する報告について、3回接種後の血清による中和能は、BA.1/BA.2と比較してBA.4/BA.5に対して低いという報告や、疫学的な暫定評価として、感染者でのワクチン接種2回接種または3回接種のオッズはBA.1/BA.2とBA.5とで大きく変わらないという報告もある。
今回の調査結果では、BA.1/BA.2に対する有効性と比較して、一定程度有効性が減弱する可能性が示唆されたが、信頼区間も重なっており、解釈に注意が必要としている。
ただし、BA.5流行期でも、2回接種から半年弱後の有効性は低下した一方、ブースター接種によりワクチン有効率が高まることから、ブースター接種を検討するとともに、場面に応じた適切な感染対策を継続することが重要としている。
「海外の報告からは、BA.1/BA.2流行期での重症化予防効果は、発症予防効果よりも高い値でより長期間維持されることが報告されており、未接種者も速やかに接種を検討することが重要です」と、研究グループでは述べている。
「ただし、度重なる免疫逃避能を有する変異株の出現および免疫の減衰の可能性から、オミクロン株を含めた変異株に対応したワクチンの早期の開発および導入が待たれます」としている。
なお、今回の調査は迅速な情報提供を目的としている暫定的な解析であり、今後も解析を適宜行い、経時的に評価していくことが重要としている。
FASCINATE study groupには、国立感染症研究所感染症疫学センターの新城雄士氏、有馬雄三氏、鈴木基氏、クリニックフォア田町の村丘寛和氏、KARADA内科クリニックの佐藤昭裕氏、インターパーク倉持呼吸器内科の倉持仁氏、仁平侑希氏、中鉢内科・呼吸器内科クリニックの中鉢久実氏、聖路加国際病院の柳井敦氏、上原由紀氏、有岡宏子氏、国際医療福祉大学成田病院の加藤康幸氏、日本赤十字社医療センターの上田晃弘氏、公立昭和病院の大場邦弘氏、新宿ホームクリニックの名倉義人氏、複十字病院の野内英樹氏、町田駅前内科クリニックの伊原玄英氏、池袋メトロポリタン・クリニックの沼田明氏、横浜市立大学付属病院の加藤英明氏、田中克志氏、埼玉医科大学総合医療センターの岡秀昭氏、西田裕介氏、埼玉石心会病院の石井耕士氏、大木孝夫氏ら)、エスアールエル、LSIメディエンス、ビー・エム・エル、ナチュラリ/東京PCR衛生検査所、マイクロスカイラボ、みらいが参加している。
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