尿ナトリウム/カリウム比[尿ナトカリ比]は高血圧と強く関連 日本人のための目標値と適切な評価方法を提唱 日本高血圧学会
「尿ナトカリ比」は血圧値との関連がより強い 食事指導に活用できる
日本高血圧学会のワーキンググループは、「尿ナトリウム/カリウム比(尿ナトカリ比)」が、血圧値とのあいだに連続した正の関連があり、ナトリウムやカリウムを単独でみるよりも、より強く血圧高値と関連していることを明らかにした。詳細は、同学会誌「Hypertension Research」に掲載された。
尿ナトカリ比とは、尿中に排泄されたナトリウム濃度(mmol/L)とカリウム濃度(mmol/L)の比。摂取したナトリウム(食塩)の約90%、カリウムの70~80%が尿中に排泄されるため、尿ナトカリ比は食事から摂取したナトリウムとカリウムの量比を客観的に評価することができる。
ナトリウム(食塩)の過剰摂取とカリウムの摂取不足は独立して血圧を高めることから、尿ナトカリ比が高いほど血圧が高いことが想定される。実際に、日本人の地域住民を対象とした大規模な研究では、尿ナトカリ比と血圧値との間に正の関連が認められている。また、尿ナトリウムや尿カリウム単独の測定値よりも、尿ナトカリ比の方が血圧値との関連がより強いことも報告されている。
臨床や保健指導の場での意思決定(decision making)では、尿ナトカリ比の目標値が具体的に設定されていることが望ましいが、これまでにそのような値は設定されていなかった。
そこで日本高血圧学会の尿ナトリウム/カリウム比(尿ナトカリ比)ワーキンググループは、近年の尿ナトカリ比に関する疫学研究の進歩を受け、尿ナトカリ比の目標値を設定するコンセンサスステートメントをまとめた。
具体的には、健常な日本人での目標値として、厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」の食塩とカリウムの両方の目標量を満たす「2未満」を至適目標とし、また複数の日本人一般住民集団での平均値未満である「4未満」を実現可能目標として提唱している。
2つの目標値を設定することで、食習慣を段階的に改善できるように配慮している。一方、疾患を有する患者には知見不足のため、これらの目標値は適用されないとしている。
週に4日以上の異なる時間帯に採取した随時尿から平均値を算出
尿ナトカリ比は、生理学的機序や食事の影響により、個人内でも日間および日内で大きな変動がみられる指標であり、尿ナトカリ比を評価するためのもっとも精度の高い方法(ゴールドスタンダード)は、複数日の24時間蓄尿から算出する方法だ。しかし、24時間蓄尿は時間と労力を要するため、日常的に実施するのは困難という課題がある。
日本人を対象とした研究では、4~7日間の異なる時間帯に採取された随時尿から算出された尿ナトカリ比の平均値は、7日間の24時間蓄尿から算出された尿ナトカリ比の平均値と高い相関性および一致性を示したことが報告されている。
これをふまえコンセンサスステートメントでは、「週に4日以上、無作為に異なる時間帯に採取した随時尿での測定値から、平均値を算出する方法」を強く推奨している。
ただし、健康診断などでやむをえず単回の随時尿で評価する場合には、起床後第2尿(午前9時頃の尿)を用いることが望ましい可能性がある。
ただし、単回随時尿を用いた尿ナトカリ比の適切な評価法については、知見が不十分であり、さらなる研究が必要としている。随時尿ナトカリ比を測定することが、減塩および血圧低下に有効かどうかを検討した無作為化比較試験は、今までのところ一報のみであり、さらなる知見の蓄積が必要とされている。
健康診断で尿ナトカリ比測定器を用いて測定し食事指導 減塩や血圧管理に有用
一方、地域の健康診断で尿ナトカリ比測定器を用いて随時尿ナトカリ比を測定し、その場で測定結果を返却し、減塩とカリウム摂取の増加に関する情報提供を行ったところ、尿ナトカリ比と血圧値の有意な低下がみられた。
これにより、健康診断時での随時尿ナトカリ比測定と保健指導の併用が減塩や血圧コントロールに有効である可能性が示された。
「尿ナトカリ比は、日本全国の健診機関や医療機関(実地医家を含む)で、安価で、採血と比べて負担が少なく、容易に測定可能だ。高血圧の予防と管理、さらには脳卒中、心臓病、腎臓病の予防のために、減塩とカリウム摂取増加の指標として、尿ナトカリ比がさらに活用されることを期待したい」と、同学会では述べている。
監修:日本高血圧学会 減塩・栄養委員会