漬物などの発酵食品の乳酸菌が肥満・糖尿病を抑制 プレバイオティクスとポストバイオティクスの作用機序を解明

2023.01.26
 漬物やキムチのような発酵食品に含まれる乳酸菌である「L.mesenteroides」が、肥満を防ぐことを、京都大学などが明らかにした。

 この乳酸菌は、糖質から高産生される菌体外多糖「EPS」を産生し、宿主の腸内環境を変える。主要な腸内細菌代謝物である短鎖脂肪酸の産生量を増加させることで、肥満を防いでいるという。

 宿主の健康に有益な働きをするプレバイオティクスやポストバイオティクスの成分であるEPSを、肥満や2型糖尿病などの予防・治療に役立てたり、糖質を含む食品を摂取したときの血糖上昇の抑制に乳酸菌を役立てるなどの応用が期待されるとしている。

腸内細菌とその代謝産物が肥満や糖尿病などに対する新たな標的に

 欧米食に代表される高糖質・高脂肪の高カロリー食や、食物繊維の不足した食事スタイルが増えており、肥満や2型糖尿病に代表される代謝性疾患などのリスクを高めている。

 そのなかで、腸内環境に影響を与え、さまざまな健康効果を期待できることから、「プロバイオティクス」と「プレバイオティクス」、その両方を組み合わせた「シンバイオティクス」は注目されている。

 プロバイオティクスは、腸内フローラのバランス改善により宿主に有益な作用をもたらす細菌。プレバイオティクスは、腸内の特定の細菌を増殖させたり活性化する、食物繊維などの難消化性の食品成分。

 さらに近年、有用菌による代謝産物や不活化した細菌などの「ポストバイオティクス」について解明されている。

 そのなかで、漬物やキムチのような発酵食品の発酵に用いられる乳酸菌である「L.mesenteroides」が、肥満を防ぐことを、京都大学などが明らかにした。

 研究グループは今回、微生物が菌体表面に分泌・産生する多糖の総称である「EPS」に着目。EPSは、食物繊維や炭水化物と同様の多糖類であり、結合様式によって多種多様な構造を示す。環境ストレスなどから自身を保護するなどの役割を有しているとみられている。

 漬物やキムチのような発酵食品の発酵に用いられる乳酸菌である「L.mesenteroides」などが、EPSを産生することは知られていたが、発酵食品などに含まれるEPSの摂取により、宿主に起こる生理機能や、腸内細菌叢に及ぼす影響などはよく分かっていなかった。

乳酸菌による代謝物が腸内環境を改善し肥満や糖尿病を抑制
研究で解明されたメカニズム

京都大学、2023年

L.mesenteroidesによるEPS産生が短鎖脂肪酸を増加

 食物繊維などの難消化性多糖類は、宿主の消化酵素による消化と小腸での吸収を免れ、大腸まで移行することで、腸内細菌のエサとして利用された結果、最終代謝産物として短鎖脂肪酸を産生する。

 短鎖脂肪酸は、腸内細菌によって産生されるもっとも主要な代謝産物で、宿主側受容体を介して、エネルギー代謝調節を含め、さまざまな生理機能に影響を及ぼしている。

 その結果、肥満や2型糖尿病などの代謝性疾患や、免疫疾患、神経疾患などの改善に寄与することを、これまで研究グループは明らかにしてきた。

 今回の研究では、発酵食品の食機能性、とくにL.mesenteroidesのプロバイオティクス効果の要因として、L.mesenteroidesが産生するEPSを食物繊維と捉え、プレバイオティクスによる短鎖脂肪酸の産生が重要ではないかと考えた。

 まず、L.mesenteroidesがグルコースやフルクトースではなく、スクロースを含む糖源培地で培養したときのみ、スクロースを基質としてEPSを多量に産生することを確認。さらに、その産生量は、一般的な乳酸菌に比べて300倍以上であることを明らかにした。

 また、その糖構造はα1, 3, 1, 6グルカンであったため、宿主の消化酵素で消化できない難消化性多糖であることを予想した。

 このL.mesenteroidesが産生したEPSを精製し、さまざまな腸内細菌種の単一菌培養培地にEPSを加えると、Bacteroides属やBacteroidales S24-7 groupに属する菌が特異的に増殖すること、さらには短鎖脂肪酸の産生量が増加することを突き止めた。

 さらに、マウスへEPSを投与した場合でも、腸内や血中で短鎖脂肪酸濃度が顕著に増加することを見出した。

EPS投与でも短鎖脂肪酸は増加 耐糖能や肥満が改善

 今回の研究で、即時的なEPS投与による耐糖能の増強と、長期的なEPS投与で、高脂肪食から誘導される肥満の症状が劇的に改善すること、さらには、EPSを腸内細菌が利用して作られる短鎖脂肪酸が、この作用に寄与することが、腸内細菌を保有しない無菌マウスや短鎖脂肪酸受容体欠損マウスを用いて明らかになった。

 次に、EPS長期摂取による腸内環境への影響を評価した結果、対照群に比べて、腸内細菌Bacteroidetes門に属する、Bacteroides属やBacteroidales S24-7 groupの種レベルでの増加がみられた。

 さらに、EPSの摂取は短鎖脂肪酸のなかでも、とくにプロピオン酸を顕著に増加させることが明らかになったため、特定の腸内細菌を移植したノトバイオートマウスを作出し、プロピオン酸産生に関与する腸内細菌種の同定を検討した。

 その結果、Bacteroides属やBacteroidales S24-7 groupを定着させたノトバイオートマウスはEPS摂取によって、顕著にプロピオン酸産生を亢進した。

図1 EPS 摂取による代謝改善作用
EPS 摂取は糖代謝や高脂肪食誘導性肥満を改善した。
図2 EPSの腸内環境制御
EPSの摂取は、短鎖脂肪酸の産生と腸内細菌の構成を変化させた。
図3 ノトバイオートマウス
腸内細菌を定着させたマウスでは、EPSを基質として短鎖脂肪酸が産生された。
京都大学、2023年

乳酸菌やその代謝物EPSを肥満や2型糖尿病の治療に応用

 このように、L.mesenteroidesが産生する菌体外多糖EPSの摂取は、腸内細菌の構成を変化させ、主要な腸内細菌代謝物である短鎖脂肪酸(主にプロピオン酸)の産生を促進することが明らかになった。

 さらに、宿主側の短鎖脂肪酸受容体を介して、エネルギー代謝調節に関与することが確認された。

 また、EPSを利用し、短鎖脂肪酸を産生することができる腸内細菌種として、Bacteroides属とBacteroidales S24-7 groupであることを同定した。

 研究は、京都大学大学院生命科学研究科の木村郁夫教授(東京農工大学大学院農学研究院特任教授)、東京農工大学大学院農学研究院の宮本潤基テニュアトラック准教授、Nosterの清水秀憲研究グループ長(京都大学大学院生命科学研究科受託研究員)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Gut Microbes」にオンライン掲載された。

 「L.mesenteroidesは、ポストバイオティクス成分EPSを介してプレバイオティクス効果をも発揮できるシンバイオティクス乳酸菌として、さらなる応用が期待されます」と、研究グループでは述べている。

 また、ポストバイオティクス成分であるEPS自体を、肥満や2型糖尿病に代表される代謝性疾患の予防・治療のためのサプリメント・機能性食品素材として応用することも期待されるとしている。

 「腸内環境を制御する食習慣や腸内細菌の代謝産物が、肥満や2型糖尿病などの代謝性疾患に対する新たな標的として注目される今、ポストバイオティクス成分のEPSや、シンバイオティクス乳酸菌であるL.mesenteroidesは、さまざまな分野における応用が可能とみられます」と、研究グループでは述べている。

京都大学大学院生命科学研究科
Host metabolic benefits of prebiotic exopolysaccharides produced by Leuconostoc mesenteroides (Gut Microbes 2023年1月5日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]<

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