腕時計型デバイスで睡眠を正確に判定 手軽な健康管理で睡眠を改善 中途覚醒も検知

2022.02.02
 東京大学などは、腕時計型のデバイスなどを用いて計測する腕の動きの情報から、その人が眠っているのか、起きているのかを正確に判定する手法を開発したと発表した。

 眠りが浅くなり、睡眠中に何度も目が醒めてしまう中途覚醒も、正確に捉えることができるという。睡眠の"質の低下"を把握し、より効果的な睡眠の健康管理に貢献できるとしている。

睡眠判定アルゴリズムを開発

出典:東京大学、2022年

 開発したのは、腕の動きから、微小な時間あたりにどれだけ加速度が変化したかを示す「躍度」を求め、それをもとに機械学習を用いた解析を行い、睡眠状態を睡眠と判定する割合(高い感度)と、覚醒状態を覚醒と判定する割合(特異度)を求める手法。

 従来の方法よりも正確に睡眠と覚醒を判定できるという。就寝中の短い覚醒が増えることは、夜間のまとまった睡眠がとりにくくなっていることを示し、こういった睡眠の質の低下が関わる健康状態の変化が分かるようになるとしている。

 睡眠覚醒リズムの乱れは、さまざまな疾患の原因になり、また心身の不調を早期に発見する指標になることが多くの研究で分かっている。毎日の睡眠と覚醒のリズムを記録することは重要だ。

腕時計型デバイスであれば利用も簡単

 睡眠覚醒の正確な測定のためには、PSG測定と呼ばれる脳波などの測定が行われるが、これは医療機関などで体に多数の電極などを装着する必要があり、日常生活の睡眠状態を知るのには向いていない。

 一方、腕時計型のセンサーなどの、ウェアラブルデバイスを用いた人の行動データの取得が盛んに行われ、さまざまな健康管理に活用されている。腕時計型のデバイスであれば、1日を通して装着し続けることが容易だ。

 そのため、こうしたデバイスに搭載されている加速度計から得られる腕の動きの情報をもとに、睡眠と覚醒の状態を判定する試みは数多く行われてきた。

 しかし、これまでは睡眠状態の判定についてあまり正確でないという課題があり、高い感度と特異度を両立した睡眠判定アルゴリズムが必要とされていた。

睡眠判定の感度は90%以上

 そこで研究グループは、まずシンプルな腕時計型ウェアラブルデバイスを作製。被験者に、このデバイスとPSG測定機器を同時に装着してもらい、睡眠測定室で1終夜過ごしてもらった。

 これにより、測定中の各時間における腕の加速度を計測し、同時にPSG測定の結果を用いて、それぞれの時間に被験者が睡眠状態であったのか、覚醒状態であったのかを測定した。

 続いて、機械学習を用いて、腕の加速度データのみからPSG測定にもとづく判定にできるだけ一致した睡眠と覚醒の判定を得る手法を探った。その結果、デバイスから得られる三軸加速度の躍度を用い、さらに機械学習の手法を用いることで、正確な睡眠覚醒の判定ができることを明らかにした。

 開発した睡眠判定アルゴリズム「ACCEL」は、睡眠判定の感度に関して、90%以上の高い値を示し、これまでの手法で問題であった睡眠判定の特異度に関しては、80%以上の高い値を示した。

 このことから、「ACCEL」は、睡眠状態にある場合に高い確率で睡眠と判定できるだけでなく、覚醒状態も高い確率で覚醒と判定することができることが示された。

ノンレム睡眠とレム睡眠の正確な見分けも視野に

 人をはじめとする哺乳類の睡眠は、睡眠時間の多くを占めるノンレム睡眠と、覚醒に近い特徴をもつレム睡眠に大別される。脈波は、ノンレム睡眠時よりもレム睡眠時に大きな変動を示すことが知られている。

 実験で得られたデータより、睡眠状態によくみられる腕の動きが少ないときには、1Hz程度の周期的な躍度の変動が検出され、さらにそれが脈波とよく一致することが判明した。この周期的な躍度は、ノンレム睡眠時よりもレム睡眠時に、その周期性が大きく変化することが明らかになった。

 開発した睡眠判定アルゴリズム「ACCEL」は、現在のところはノンレム睡眠とレム睡眠を正確に見分けるための手法ではないが、開発を重ねると2つの睡眠状態を区別できるようになる可能性がある。

測定データの一例
腕の動きの3軸加速度、躍度、PSG測定から判断された睡眠状態。加速度や躍度は、30 秒間ごとの測定合計値を表示している。この手法により、躍度から、覚醒か睡眠(ノンレム睡眠およびレム睡眠)を判定できるようになる。
出典:東京大学、2022年

睡眠の質の改善に期待

 ウェアラブルデバイスを用いて、睡眠習慣についてより正確に把握すれば、睡眠中に一時的に覚醒する中途覚醒も正確に検知できるようになる。中途覚醒の増加、すなわち眠りが浅くなり、睡眠中に何度も目が醒めてしまう状態は睡眠障害のひとつだ。

 睡眠時間は足りていても中途覚醒があると、さまざまな心身の不調にむすびつくおそれがある。「中途覚醒をより正確に捉えることができるACCELは、必ずしも総睡眠時間の変化につながらない、睡眠の"質の低下"を把握し、より有効な睡眠の健康管理に貢献すると期待されます」と、研究グループでは述べている。

 研究は、東京大学大学院医学系研究科機能生物学専攻システムズ薬理学分野の上田泰己教授(理化学研究所生命機能科学研究センター合成生物学研究チーム・チームリーダー兼任)、大出晃士講師、史蕭逸助教、情報理工学系研究科システム情報学専攻システムズ薬理学研究室の香取真知子氏、工学部計数工学科システム情報工学コースの三井健太郎氏、ソニーモバイルコミュニケーションズ技術戦略室の高梨伸氏、大口諒氏、商品設計部門・商品設計部・設計3課の青木大輔氏らの研究グループによるもの。研究成果は、「iScience」に掲載された。

東京大学大学院医学系研究科機能生物学専攻システムズ薬理学分野
ソニーモバイルコミュニケーションズ
A jerk-based algorithm ACCEL for the accurate classification of sleep - wake states from arm acceleration (iScience 2021年12月31日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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