妊娠糖尿病と妊娠時のHbA1c値との関連を解析 日本人はHbA1c値が正常範囲でも発症リスクが高い

2022.02.16
 山梨大学は、環境省の「エコチル調査」に参加した8万9,799人の妊婦を対象に、HbA1c値と妊娠糖尿病との関連について解析した結果を発表した。

 調査に参加した妊婦を、妊娠時のHbA1c値によって妊娠糖尿病の発症との関連を分析したところ、HbA1c値が正常範囲内の5.0%~5.4%であっても、妊娠糖尿病の発症の危険因子となりうることが明らかになった。

 また、妊娠糖尿病については、妊娠高血圧症候群や羊水過多、早産といった周産期合併症の発症との関連がみられた。

 「HbA1c値から妊娠糖尿病の発症リスクが高い妊婦を同定し早期介入することで、妊娠糖尿病発症予防につながることが期待されます」と、研究者は述べている。

妊娠時のHbA1c値が妊娠糖尿病とどう関連しているかを解析

 山梨大学は、環境省の「子供の健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」に参加した妊婦を対象に、調査に登録された時点のHbA1c値と妊娠糖尿病との関連について解析した結果を発表した。

 妊娠糖尿病は、さまざまな周産期合併症の要因となりうることが知られており、長期的には2型糖尿病の発症にも関与することも報告されている。そのため、妊娠糖尿病の予防、スクリーニング、早期診断・治療が非常に重要であり、米国では妊娠前に耐糖能の指標であるHbA1c値を6%未満にすることを推奨している。

 アジア人は欧米人と比較してインスリン分泌能力が低いことが知られており、HbA1c値が欧米人での正常範囲であっても妊娠糖尿病のリスクがある可能性が指摘されているが、これまでアジア人を対象とした大規模な研究はなかった。

 そこで研究グループは、糖尿病を罹患していない日本人を対象に、妊娠時のHbA1c値が妊娠糖尿病とどのように関連しているのかを解析した。

 研究は、山梨大学のエコチル調査甲信ユニットセンター(センター長:山縣然太朗・社会医学講座教授)の研究チーム(担当者:関根哲生・糖尿病・内分泌内科学講座臨床助教)によるもの。研究成果は、「Journal of Diabetes Investigation」に掲載された。

 エコチル調査は、胎児期から小児期にかけての化学物質ばく露が子供の健康に与える影響を明らかにするため、2010年度から全国で約10万組の親子を対象に環境省が開始した、大規模・長期出生コホート調査。

 母体血や臍帯血、母乳、血液、尿、乳歯などの生体試料を採取し保存・分析するとともに、追跡調査を行い、子供の健康と化学物質などの環境要因との関係を明らかにしている。

 国立環境研究所に研究の中心機関としてコアセンターを、国立成育医療研究センターに医学的支援のためのメディカルサポートセンターを、また、日本の各地域で調査を行うために公募で選定された15の大学などに地域の調査の拠点となるユニットセンターを設置し、環境省とともに各関係機関が協働して実施している。

HbA1c値5.0%~5.4%の群では、妊娠糖尿病の発症が1.32倍

HbA1c値と妊娠糖尿病発症の関係

HbA1c値が一般の健診で異常と判定される5.5%以上5.9%以下や6.0%以上6.4%以下の群で、妊娠糖尿病の発症リスクが高かったことに加え、これまで正常範囲と判定されることが多かったHbA1c値5.0%以上5.4%以下の群でも妊娠糖尿病の発症リスクが高かったこととの関連が示された。
出典:エコチル調査甲信ユニットセンター、2022年

 エコチル調査参加者のうち、妊娠糖尿病の診断やHbA1c値の情報がない人、糖尿病の既往がある人、HbA1c値6.5%以上の人を除いた8万9,799人の妊婦を対象とした。全体の解析のほか、HbA1c値が「4.9%以下」「5.0~5.4%」「5.5~5.9%」「6.0~6.4%」の4群に分け、妊娠時のHbA1c値と妊娠糖尿病の発症についてロジスティック回帰分析を行った。

 その結果、全体ではオッズ比1.20で、HbA1c値と妊娠糖尿病の発症に関連がみられた。さらに、HbA1c値「4.9%以下」の群と比較して、「5.0~5.4%」ではオッズ比1.32、「5.5~5.9%」では同2.75、「6.0~6.4%」では19.6となった。

 HbA1c値と妊娠糖尿病の発症に関連があり、HbA1c値が高いほど妊娠糖尿病のリスクは上昇することが示されたが、HbA1c値5.0%以上5.4%以下の群でも、妊娠糖尿病の発症が1.32倍になるという関連がみられた。

 「米国では妊娠前のHbA1c値は6%未満が推奨されています。日本では妊娠前のHbA1c値に明確な基準はありませんが、一般的な健診では5.5%前後に基準値を設けていることが多いです。しかし、今回の解析により、正常範囲とされているHbA1c値5.0%以上5.4%以下であっても妊娠糖尿病の発症のリスクが高い可能性が示唆されました」と、研究グループでは述べている。

妊娠糖尿病の妊婦では、妊娠高血圧症候群1.41倍 羊水過多2.99倍 早産1.23倍

 さらに、妊娠糖尿病と診断された妊婦では、妊娠糖尿病と診断されていない妊婦に比べて、妊娠高血圧症候群の発症が1.41倍、羊水過多が2.99倍、早産が1.23倍になるという関連もみられた。

 「このような事実は以前から知られていたことですが、妊娠糖尿病の危険性が認識され診断・治療が確立している現代においても、妊娠糖尿病は以前と変わらず様々な周産期合併症のリスクとなることが改めて示されたことになります」と、研究グループでは述べている。

 これまでに、妊娠早期に食事・運動療法による介入を行うことで妊娠糖尿病の発症リスクを減少させることができると報告されているが、今回の解析結果から、妊娠早期に食事・運動療法による介入が必要な妊婦の同定につながることが期待されるとしている。

 一方、同研究の限界点として、妊婦・主治医への質問票による調査の解析であり、HbA1c値の測定時期が1人1人の対象者で異なる点や(中央値は妊娠15週)、妊娠糖尿病の発症リスクとしてすでに知られている糖尿病の家族歴や尿糖陽性などに関する情報を収集していない点などが挙げられるとしている。

過度な糖質制限や運動強度の高い運動療法は推奨されない

 「今回明らかになった妊娠時のHbA1c値と妊娠糖尿病との関連について、実際にHbA1c値を目安にして妊娠早期から食事・運動療法による介入を行った結果、妊娠糖尿病の発症リスクを下げることができるかを検証する必要があります」と、研究グループでは述べている。

 「その際、今回示したHbA1c値の目安を達成するために、安全性が確立していない過度な糖質制限を行う食事療法や運動強度の高い運動療法を妊娠中に行うことは推奨されません。医師と相談しながら適切な食事・運動療法を実施することが重要です」としている。

エコチル調査コアセンター
エコチル調査甲信ユニットセンター
Association of glycated hemoglobin at early stage of pregnancy with the risk of gestational diabetes mellitus among non-diabetic women in Japan: The Japan Environment and Children’s Study (Journal of Diabetes Investigation 2021年10月22日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

糖尿病・内分泌プラクティスWeb 糖尿病・内分泌医療の臨床現場をリードする電子ジャーナル

脂質異常症の食事療法のエビデンスと指導 高TG血症に対する治療介入を実践 見逃してはいけない家族性高コレステロール血症
SGLT2阻害薬を高齢者でどう使う 週1回インスリン製剤がもたらす変革 高齢1型糖尿病の治療 糖尿病治療と認知症予防 高齢者糖尿病のオンライン診療 高齢者糖尿病の支援サービス
GLP-1受容体作動薬の種類と使い分け インスリンの種類と使い方 糖尿病の経口薬で最低限注意するポイント 血糖推移をみる際のポイント~薬剤選択にどう生かすか~ 糖尿病関連デジタルデバイスの使い方 1型糖尿病の治療選択肢(インスリンポンプ・CGMなど) 二次性高血圧 低ナトリウム血症 妊娠中の甲状腺疾患 ステロイド薬の使い分け 下垂体機能検査
NAFLD/NASH 糖尿病と歯周病 肥満の外科治療-減量・代謝改善手術- 骨粗鬆症治療薬 脂質異常症の治療-コレステロール低下薬 がんと糖尿病 クッシング症候群 甲状腺結節 原発性アルドステロン症 FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症 褐色細胞腫

医薬品・医療機器・検査機器

糖尿病診療・療養指導で使用される製品を一覧で掲載。情報収集・整理にお役立てください。

一覧はこちら

最新ニュース記事

よく読まれている記事

関連情報・資料