血糖値を自宅で簡単に測れる使い捨てセンサーを開発 糖尿病抑制には簡便・⾼精度な⾎糖測定が必要 筑波大学
誰もがどこでも⾎糖測定できるようするのが理想
⾎糖⾃⼰測定(SMBG)や持続血糖モニター(CGM)はすでに普及しており、糖尿病患者の⾎糖コントロールを改善するために⽋かせないものになってきた。一方、糖尿病の増加が懸念されており、糖尿病予備群や境界型糖尿病への対応も求められている。
特定保健指導などでも指導が⾏われているが、⾃覚症状のない糖尿病では、⽇常⽣活で自分の⾎糖値を知ることが肝要になる。⾮糖尿病患者に対して⾃宅での⾎糖測定を普及させるうえで、簡易に検査する方法がないことが障壁になっている。
専⽤の外部装置なしに、⾎液を付けるセンサーチップだけを使い、誰もがどこでも⾎糖測定できるようにすれば、⾮糖尿病患者にも普及する可能性がある。また、たとえば空腹時や⾷後などの特定のタイミングで血糖測定できるようにすれば、糖尿病の判定精度も上げられる。
一方、これまでも尿検査試験紙などの簡易検査法はあるものの、精度の点で劣り、得られる情報も限定的だった。
そこで、筑波大学の研究グループは、酵素や抗体などの⽣体分⼦を認識素⼦として利⽤する電気化学式バイオセンサーを開発し、反応を駆動させる装置や外部電源を必要としない、⾃⼰駆動型のディスポーザブルなバイオセンサーを開発するのに成功した。⾼感度に標的となる分⼦を検出することができ、ウェアラブル化・⼩型化にも対応できる。
電気化学センサーを⽤いることで、グルコースを選択的に認識する酵素を素⼦とすることで、⾎糖値(⾎液中に含まれるグルコースの濃度)が分かるようになった。
これまで、電気化学センサーを駆動させるために、専⽤の電極を⽤意し、その電極で起きる反応を制御する装置が必要という課題があった。
今回の研究では、チップ化したバイオ燃料電池をセンサーとすることで、外部装置を利⽤することなく、酵素とグルコースの反応を起こすのに成功。チップに測りたい⾎液を数マイクロリットル(マイクロは100万分の1)滴下するだけで、反応が進⾏し、バイオ燃料電池の⼆つの電極間を流れる電流を計測することで、⾎糖値が分かるようになった。
測定結果は、スマートフォンなどで読み取りが可能だ。今後は、この原理を応⽤し、測りたいものにあわせてバイオ認識素⼦を変えることで、さまざまなバイオマーカーを検出できるディスポーザブル(使い捨て式)センサーの開発につなかげたいとしている。
研究は、筑波大学数理物質系の辻村清也准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Biosensors and Bioelectronics」に掲載された。
自己駆動型SMBG計測を実現 血糖測定センサーとしての動作を確認
研究グループはこれまで、電気化学式のバイオセンサーやバイオ燃料電池に関する研究を行ってきた。バイオ燃料電池は、負極(アノード)でグルコースの酸化反応を、正極(カソード)で酸素の還元反応を行い、反応の化学エネルギーを電気に直接変換するデバイスだ。
電池の出力値がサンプル濃度に依存するようにデザインすることで、検体濃度を連続計測できる。今回の研究では、この成果を生かして、スマートフォンのような汎用機器で読み取りができ、外部電源不要で自己駆動型の使い捨てSMBGセンサーチップの開発を目指した。
一般的な血糖自己測定器は、血液を付けたセンサーチップと専用の外部装置の組み合わせたものだ。外部装置は、電極電位を制御するとともに流れる電流を測るポテンショスタット・電源・メモリー・ディスプレーなどで構成されている。
研究グループは今回、これらの機能をセンサーチップにすべて集約することで、自己駆動型SMBG計測を実現した。専用の測定機器を用いずに反応を進行させるために、センサーチップの対極に酸素還元触媒を塗布。これにより、バイオ燃料電池の要領で反応を進行させることが可能になった。
つまり、外部からエネルギーを供給することなく、反応が進行する電極電位を制御しながら、グルコースの検出反応を行うことができる。
グルコース酸化極には、グルコース脱水素酵素と、酵素と電極間の電子移動を促進させるレドックスメディエーターを、架橋剤を用いて固定化。酸素還元極には、非白金の炭素系の酸素還元触媒を用いた。
それぞれを電極上にコートした後、乾燥させてバイオセンサーとした。グルコース濃度の異なる溶液を5μLだけセンサーに滴下し、両極を結んで得られる電流を計測したところ、グルコース濃度が0から540mg/dの広い範囲で比例しており、血糖値を計測するセンサーとして使えることを確認した。
自宅での血糖測定をオンライン診療に活かすことも
「糖尿病は、早期発見し適切な治療をすれば、合併症を防ぐことができる。研究成果により、自宅で簡便かつ高精度に血糖検査ができるセンサーシステムを安価に提供することが可能になる。血糖値の読み取りは専用機器を用いず、汎用のスマートフォンとセンサーチップとをUSBケーブルで接続するだけで測定可能だ」と、研究グループでは述べている。
また、「研究で開発した自己駆動型簡易センサーの原理を応用すれば、測定対象とするバイオマーカーが変わったとしても、それに対応する酵素を電極にコートすることで、多様なマーカーの検査を精度良く簡便に行うことができるようになると考えられる」としている。
「自宅で検査結果が得られるため、そのデータをオンライン診療に活かすこともできる。それが実現すれば、遠距離通院が強いられる過疎地域や高齢化が進む地域の医療の円滑化にも貢献することが期待される」。
筑波大学 数理物質科学研究群
A disposable enzymatic biofuel cell for glucose sensing via short-circuit current (Biosensors and Bioelectronics 2023年6月15日)