【新型コロナ】施設での感染拡大を防ぐために 適切な換気で「エアロゾル感染」を予防 気流の確認と管理が必要
エアロゾルは気体中に浮遊する微小な粒子
エアロゾルは、気体中に浮遊する微小な粒子のこと。咳、くしゃみ、会話、呼吸などの際に、鼻や口からさまざまな粒子が放出され、小さな粒子であると空中に数分から数時間にわたって浮遊する。
新型コロナの感染拡大を予防するために、「エアロゾル」「飛沫」「接触」という3つの感染経路ごとに、複数の対策を講じることが重要とされている。
このうち「エアロゾル感染」は、空中に浮遊するウイルスを含むエアロゾルを吸い込むことで起こる。換気が悪い環境や密集した室内などに、感染者が一定の時間いることで、感染者との距離が遠いにもかかわらず、感染が発生した事例が国内外で報告されている。
現在、より感染力の強い変異種が蔓延しており、エアロゾル感染への対策の重要性は高まっている。
しかし接触・飛沫感染に比べ、エアロゾル感染は視覚的に認識しにくく、有効な予防策や再発防止策がとられにくいのが現状だ。
そこで電気通信大学などの研究グループは今回、エアロゾル感染のリスクを可視化するため、CO2センサーによる室内空気環境の管理に着目した。
新型コロナの集団感染(クラスター)が発生した60ヵ所以上の医療福祉機関・事業所で、再発防止の観点から立ち入り調査を行った。
研究グループは、CO2センサーをネットワーク状に配置し、測定された時系列データを系統的に解析することで、換気回数やエアロゾルの伝搬経路を可視化。
送風機の風が陽性者に当たり風下に流れている様子
気流に乗ったエアロゾルによる風下汚染
その結果、エアロゾル感染クラスターには、少なくとも次の2つの異なる種類があることを突き止めた。
事例1:高齢者施設の建物内で、計59人の感染者が報告され、うち36人が施設の利用者(入所者、日帰り利用者を含む)、23人は施設職員だった。 |
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この施設で、デイルーム近辺の個室の使用を控えるとともに、デイルームが陰圧となる機械換気を見直すため、窓開けによる自然換気を併用することを提案。実地調査の後に、新規感染者は発生していない。 |
研究グループは2021年8月に、CO2センサーネットワークによる換気と気流の調査を実施。その結果、発端となったと考えられる初期感染者が入居していた個室から、廊下を介して空間的につながっているデイルームに向けて緩やかな気流が発生していることが分かった。
この気流は、デイルームに設置された大型の換気扇による強い吸引力によるもので、陽性者がいた個室にある換気扇よりも吸引能力が高い。
そのため、デイルームと個室で圧力の差が生まれ、結果として感染性のエアロゾルが個室から漏洩し、1分程度でデイルームに到達する可能性が示された。
デイルームは、入居者だけでなく日帰りで施設を訪れる人が自由に利用できる憩いの場であり、被介護者や職員など複数の人が頻繁に利用するため、感染リスクは比較的高かったものと予想される。
この施設ではデイルームの利用者を中心に最初の感染が広がったことから、不適切な換気による吸引・漏洩が初期感染につながったものだ、と研究グループは結論づけている。
一般に高齢者施設は、生活の質の向上や入居者の見守りのために、開放的な建築空間の設計が推奨されている。
しかし、このように相互に接続された空間設計では、圧力差に配慮した換気設計も同時に求められることが今回の調査で判明した。
高齢者施設におけるエアロゾルの挙動を熱流体シミュレーションにより可視化
送風機・扇風機によるエアロゾルの飛散
事例2:工場の事務室で、1週間に相次いで5人の感染が確認された。 |
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送風機は人に当てる、空気をかき混ぜる目的で使用するのではなく、室内の汚れた空気を押し出すように、窓やドアの近くに外向きに設置することを推奨。また、室内で換気の行き届かない淀みがある場合に、その空間に向けて作動させることも有効。 送風機の配置を変更することで、エアロゾルの飛散リスクを下げる対策を提案し、その後は新規感染者が発生していない。 |
研究グループは2021年11月に、クラスター発生時の状況を再現するため、CO2トレーサーガス法による換気調査と熱流体シミュレーションを実施。
その結果、クラスター発生当時は、外部への空気の逃げ場がない状態であり、さらに事務所内に設置された送風機による気流が、発端となった感染者から放出されたウイルスを含むエアロゾルの飛散につながった可能性が高いことが分かった。
そこで、研究グループはこの様子を簡易的に可視化し、リスクコミュニケーションメッセージとして発信するため、研究室内で再現実験を実施した。
エアロゾル感染を防ぐために換気の見直しを
今回の研究結果により、不適切な換気によってエアロゾル感染が拡大し、クラスターの発生要因となる可能性があることが示された。
その対策は、▼送風機・扇風機の設置方法を見直すこと、▼施設内での気流の確認と管理を行うことだという。これにより、エアロゾル感染のリスクを低減できると考えられる。
「目に見えないエアロゾル感染クラスターの状況を可視化するために、室内の換気状況の測定と評価を系統的に行うことができる多地点CO2センサーネットワークと、時系列データ解析による、クラスター発生現場の分析手法を確立しました。この手法により、保健所など行政では分析が難しいとされるエアロゾル感染の原因調査と再発防止を、迅速かつ手軽に行うことができると期待されます」と、研究グループでは述べている。
「さらに今後、高齢者施設や事業所のみならず、昨今クラスターが多発している保育施設や子供の居場所、あるいは病院・クリニックでも積極的な換気調査を実施する予定です」としている。
研究は、電気通信大学情報学専攻の石垣陽特任准教授、i-パワードエネルギー・システム研究センターの横川慎二教授らの研究グループが、宮城県結核予防会、産業医科大学産業医実務研修センター、東京工業大学の研究グループと連携して実施したもの。研究成果は、「JMIR Formative Research」「Scientific Reports」に掲載された。
電気通信大学情報学専攻
電気通信大学i-パワードエネルギー・システム研究センター
産業医科大学産業医実務研修センター
Pilot Evaluation of Possible Airborne Transmission in a Geriatric Care Facility Using Carbon Dioxide Tracer Gas: Case Study (JMIR Formative Research 2022年3月1日)
Ventilation improvement and evaluation of its effectiveness in a Japanese manufacturing factory (Scientific Reports 2022年10月21日)