健診後の早期受療によりハイリスク者の循環器疾患による入院・死亡が減少 早期の医療機関への受診は重要 国立国際医療研究センター

2024.03.07
 国立国際医療研究センターは、健診事業および健診後の受診勧奨事業に着目し、全国健康保険協会(協会けんぽ)のレセプトデータベースを調査した結果、健診所見上の重症化ハイリスク者の医療機関への受診が、その後の循環器疾患による入院や全死亡のリスクを低減することを明らかにした。

 重症化ハイリスク者41万2,059人(男女35~74歳)を対象に調査した結果、循環器疾患による初回入院または全死亡のハザード比は、早期受療により有意に低下し、早期受療群で0.78、中期で0.84、後期で0.94となった。リスクの低下は脳卒中と心不全による入院でより大きかった。

 「生活習慣病の予防政策で、重症化ハイリスク者に対して、より早期に医療機関の受療を促すことの重要性を支持する結果になりました」と、研究者は述べている。

協会けんぽの41万人超のハイリスク者の健診・レセプトデータを分析

 国立国際医療研究センターは、健診事業および健診後の受診勧奨事業に着目し、全国健康保険協会(協会けんぽ)のレセプトデータベースを調査した結果、健診所見上の重症化ハイリスク者の医療機関への受療が、その後の循環器疾患による入院や全死亡のリスクを低減することを明らかにした。

 研究は、同センター国際医療協力局グローバルヘルス政策研究センターの磯博康センター長らによるもの。研究成果は、「Atherosclerosis」に掲載された。

 全国健康保険協会(協会けんぽ)は、加入者約4,000万人分の匿名化された健診・レセプトデータを分析できる環境を外部有識者に提供する委託研究事業を、2020年度に開始した。研究グループは今回、この協会けんぽのレセプトデータベースを調査した。

 研究グループは今回、重症化ハイリスク者41万2,059人(男女35~74歳)のコホートを構築した。次の基準のいずれかに該当する人をハイリスク者と定義した。

  1. 収縮期血圧160mmHg以上または拡張期血圧100mmHg以上
  2. 空腹時血糖130mg/dL以上またはHbA1c7.0%以上
  3. LDLコレステロール180mg/dL以上(男性のみ)
  4. 尿タンパク2+以上で、医療機関で通院治療中ではなく、かつ心疾患、脳卒中、腎不全の既往がない。

早期の医療機関への受療はその後の循環器疾患による入院や全死亡のリスクを低減

 結果として、中央値4.3年の追跡期間中に、脳卒中、虚血性心疾患、心不全による入院または全死亡のアウトカムを有する合計1万5,860例が同定された。

 健診後の受療なしの群と比較して、循環器疾患による初回入院または全死亡(コンポジットアウトカ ム)の多変量調整ハザード比(95%信頼区間)は、早期受療群で0.78(0.74、0.81)、中期受療群で0.84(0.78、0.89)、後期受療群で0.94(0.89、1.00)となった。

 個別のエンドポイントに関する分析では、早期受療はすべてのエンドポイントのリスクの有意な低下と関連しており、リスクの低下は脳卒中と心不全による入院でより大きい結果になった。さらに、性別、 年齢、危険因子数、企業規模、地域、業種、保健指導実施状況別にみても同様な関連が認められた。

医療機関への受療のタイミングと循環器疾患の入院、全死亡のリスクとの関連
早期受療はリスクの低下と関連しており、脳卒中と心不全による入院でリスクの低下はより大きい
出典:国立国際医療研究センター、2024年

 なお今回の研究では、医療機関の受療はICD-10コードと診療行為コードを用いて判定した。ハイリスク者を、健診後の医療機関での受療の有無・受療のタイミングによって、▼受療なし、▼早期受療(3か月以内)、▼中期受療(4〜6か月以内)、▼後期受療(7〜12か月以内)の4群に分けた。

 主要評価項目は、脳卒中(ICD10:I60-I69)、虚血性心疾患(ICD10:I20-I25)、心不全(ICD10:I50)による初回入院または全死亡のアウトカムとした。

 Cox比例ハザード回帰モデルを用いて、健診後の受療時期と、脳卒中、虚血性心疾患、心不全による入院及び全死亡リスクとの関連を検討した。さらに、性別、年齢、危険因子数、企業規模、地域、業種、保健指導実施状況による層別解析を行った。

ハイリスク者に対する重篤な疾患発症の予防に尽力

 勤労者およびその家族が、いかに重篤な疾患におちいることなく、仕事を続けることができるかは、個人のみならず企業にとっても重要な課題となっている。

 協会けんぽでは、2018年度からインセンティブ制度を導入し、健診や特定保健指導の実施率の向上、特定保健指導対象者の減少、および後発医薬品使用の推進とともに、医療機関への受診勧奨を受けた要治療者の医療機関受診率の向上に努め、ハイリスク者に対する重篤な疾患発症の予防に尽力している。

 今回の研究は、健診事業および健診後の受診勧奨事業に着目し、健診所見上の重症化ハイリスク者の受療行動が、その後の循環器疾患による入院や全死亡のリスクを低減することを明らかにしたもの。

 「本研究は、観察研究ではあるものの、生活習慣病の重症化予防を目的とした医療機関への受療促進の効果を示唆する結果として、循環器疾患による入院ならびに全死亡のリスクの低下との関連が認められ、生活習慣病の予防政策で、重症化ハイリスク者に対して、より早期に医療機関の受療を促すことの重要性を支持する結果になりました」と、研究者は述べている。

国立国際医療研究センター グローバルヘルス政策研究センター
全国健康保険協会 (協会けんぽ)
Timing of clinic visits after health checks and risk of hospitalization for cardiovascular events and all-cause death among the high-risk population (Atherosclerosis 2023年12月3日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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