心不全患者1人ひとりに適切な運動量を決定 運動時の酸化ストレスの変化を評価

2021.08.06
 大阪市立大学の研究グループは、運動を行った際に酸化ストレスが増加する心不全患者が、予後不良となることを明らかにした。
 酸化ストレスは、心不全患者にとって心不全の病態形成、進展へ関与する。運動時の酸化ストレスの変化を評価することで、心不全患者1人ひとりに適切な運動量を決定できる可能性がある。

運動療法でのテーラーメード医療が必要

 慢性心不全患者は超高齢化社会で、急激に増加しており、「心不全パンデミック」とも呼ばれている。しかし、治療は対症療法が中心で、病気の進展を防ぐことができないため、高い再入院率・死亡率が社会的に問題となっている。

 これまで、心不全患者の予後改善には有酸素運動が有効とされているが、適切な運動量や運動方法はまだ定められていない。

 そこで研究グループは、2013年7月~2015年3月に大阪市立大学医学部附属病院に入院した94人の心不全患者を対象に、運動にともなう酸化ストレスの増減が心不全の予後に与える影響を検討した。

 その結果、運動中の心拍や心電図を観察する心肺運動負荷実験で、酸化ストレスが上昇した心不全患者の予後は不良であることが明らかになった。

 この結果から、心不全患者の適切な運動量は、運動時の酸化ストレスの変化を評価することで決定できる可能性が示された。

 研究は、大阪市立大学大学院医学研究科循環器内科学の柴田敦病院講師、泉家康宏准教授らの研究グループによるもの。

 「心不全は、心臓が悪いために息切れやむくみが起こり、だんだんと生命を縮める病気です。本研究成果によって、心不全治療の中でも運動療法におけるテーラーメード医療を提供できることにつながるのではないかと考えています」と、柴田氏は述べている。

運動にともなう酸化ストレスの増減が心不全の予後に与える影響を検討

 慢性心不全患者は超高齢化社会で、人口減少に反して急激に増加している。治療方法は、薬物療法・デバイス治療に加え、心臓リハビリテーションが導入され、予後を大きく改善させつつあるが、治療の多くは対症療法が中心であり、高い再入院率・死亡率が社会的にも問題となっている。

 そこで重要になるのが再入院・予後を予測する指標で、低心機能の心不全患者では、以前より心臓の収縮力を示す左室駆出率で評価した心機能よりも、どれくらいまでの運動に耐えられるかを示す運動耐容能が予後に関連することが知られている。

 心不全における運動療法は運動耐容能を改善させることで、心不全患者の予後改善に寄与する。運動療法による運動耐容能の改善効果は、骨格筋や末梢血管などの末梢機序を介するものと考えられてきたが、いまだにすべての機序の証明されていない。心不全患者に対しては以前より、有酸素運動が行われてきたが、至適な運動様式は定まっていないのが現状だ。

 近年、一過性かつ軽度の酸化ストレスは、エネルギー代謝やタンパク質合成のシグナル因子として働き、適度な運動によってもたらされる生理機能の適応には酸化ストレスシグナルが一部寄与していることが分かってきた。

 しかし、安静時から酸化ストレスにさらされている心不全患者にとって、運動による酸化ストレスの変動が生理機能や病態形成に与える影響は明らかになっていない。

 そこで今回の研究では、運動にともなう酸化ストレスの増減が心不全の予後に与える影響を検討した。研究グループは、2013年7月~2015年3月に心不全増悪で大阪市立大学医学部附属病院に入院し、心臓リハビリテーションプログラムに参加した94名を対象に、退院前に負荷を自覚するほどの運動量で心肺運動負荷試験を施行し、試験前後の血液検査で酸化ストレスマーカーのひとつであるd-ROM値を測定した。

 運動負荷試験前後でのd-ROM値の変化をΔd-ROMとし予後との関係を検討した。運動で酸化ストレスが増加する群(Δd-ROM-positiveグループ)と酸化ストレスが低下する群(Δd-ROM-negativeグループ)に分類した。

 その結果、生存時間分析で全死因死亡は、Δd-ROM-negativeグループよりもΔd-ROM-positiveグループで有意に多いことが分かった。また、心不全による再入院もΔd-ROM-positiveグループで有意に多かった。

 さらに、Δd-ROM値の上昇は、死亡リスクの増加と関連することが分り、Δd-ROM値は体格や運動耐容能に関わらず、予後規定因子であることが示された。

心不全患者では運動にともない、抗酸化能が増強し酸化ストレスが軽減する場合、運動は有益なものとなるが、運動にともない酸化ストレスがさらに増強する場合、運動が不利益になる

出典:大阪市立大学大学院医学研究科循環器内科学、2021年

酸化ストレスが増強する場合は運動は不利益に

 今回の研究から、心不全患者では運動にともない、抗酸化能が増強し酸化ストレスが軽減する場合、運動は有益なものとなるが、運動にともない酸化ストレスがさらに増強する場合、運動が不利益になりうる可能性が示された。

 運動にともなう酸化ストレスの増減を見極めることで、患者にとって適切な運動様式・運動量を決定できる可能性がある。

 「心不全患者に対する運動療法におけるテーラーメード医療提供のためには、従来の運動療法に比べて今後酸化ストレスの変動から導き出した運動様式・運動量が、効果が高いことを示していく必要があります。また、心不全患者における運動による酸化ストレスの増加が予後に悪影響を及ぼすメカニズムの解明も重要になってくると考えます」と、研究者は述べている。

大阪市立大学大学院医学研究科循環器内科学
Increased oxidative stress during exercise predicts poor prognosis in patients with acute decompensated heart failure(European Heart Journal : ESC heart failure 2021年7月29日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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