塩分による高血圧が骨粗鬆症を誘発するメカニズムを解明 炎症性サイトカインTNF-αが破骨細胞を増加
塩分摂取による血圧上昇時に誘導されるTNF-αが破骨細胞を増加
日本では高齢化にともない、肥満、2型糖尿病、高血圧などの発症は増えている。このうち高血圧は、通院者がもっとも多い疾患だ。また、高血圧が糖尿病を悪化させることや、腎障害、狭心症、眼底網膜病変、動脈硬化など、さまざまな合併症を起こすことが知られている。
高血圧は骨折のリスクになるが、高血圧が骨を減少させるメカニズムについては十分に分かっていない。そこで東北大学は、塩分摂取により高血圧が誘導されるマウスモデルを作成し、高血圧誘導時に骨粗鬆症が誘発されることを明らかにした。
さらにそのメカニズムは、高血圧の誘導時、炎症を増大させるTNF-αが増加し、TNF-αが骨を吸収する細胞である破骨細胞の形成に必要不可欠なRANKLを増加することで破骨細胞が増加し、骨の吸収が増加することを解明した。
サイトカインは、細胞から分泌されるタンパク質で、炎症の重要な調節因子。TNF-αは、炎症を誘発するサイトカインの代表的なもので、骨を吸収する破骨細胞の形成を誘導することも報告されている。
また、RANKLは、骨芽細胞に発現し、破骨細胞から放出されるRANKの受容体として機能するサイトカインで、骨芽細胞の分化促進・骨形成の上昇に寄与している。
「塩分による高血圧時に誘導される骨粗鬆症の抑制は、TNF-αを阻害することで可能となることが示唆されます」と、研究者は述べている。
研究は、東北大学大学院歯学研究科顎口腔矯正学分野のAdya Pramusita大学院生、北浦英樹准教授、溝口到教授の研究グループによるもの。研究成果は、「Frontiers in Cell and Developmental Biology」に掲載された。
塩分による高血圧時に誘導される骨粗鬆症はTNF-α阻害により抑制できる可能
L-NAMEは、一酸化窒素合成酵素(NOS)阻害剤のひとつで、エンドトキシンショックにより、低血圧ラットの血圧上昇に有効であることが知られている。
研究グループは、このL-NAMEをマウスに摂取させ、その後塩分を摂取させる方法で血圧が上昇するマウスモデルを作成した。その塩分摂取による高血圧マウスは組織学的解析およびマイクロCTによる解析で、骨を吸収する細胞である破骨細胞が増加し、さらに、骨の質および量とも減少し、骨粗鬆症の様相を呈した。
さらに、破骨細胞形成を増加させる炎症性のサイトカインであるTNF-αの血中濃度が増加していることを見出した。また、このマウスの骨で、血圧上昇のメカニズムである、レニン-アンジオテンシンシステムが活性化されていることを明らかにした。
さらに、TNF-αが破骨細胞形成に必須のRANKLを発現する骨芽細胞にアンジオテンシンレセプターの発現を増加することを発見した。アンジオテンシンIIによる刺激で、骨芽細胞からのRANKLの発現が増加することで、破骨細胞形成が増加するという。
また、高血圧マウスに炎症を誘導すると通常マウスより破骨細胞形成が強く起こり、骨の吸収が増加することも分かった。
「今回の研究結果より、塩分によって誘発される、高血圧による骨粗鬆症は、TNF-αを抑制する抗TNF-α治療の技術を用いることで新規治療技術および予防法として実用化されることが期待できます」と、研究グループでは述べている。
東北大学大学院歯学研究科顎口腔矯正学分野
Salt-Sensitive Hypertension Induces Osteoclastogenesis and Bone Resorption via Upregulation of Angiotensin II Type 1 Receptor Expression in Osteoblasts (Frontiers in Cell and Developmental Biology 2022年4月4日)