「1日3食+間食」の食品摂取量を評価できる簡易ツールを開発 食事指導や栄養教育の土台に
食事内容を評価でき簡便かつ安価に使用できる測定法を開発
研究は、東京大学大学院医学系研究科社会予防疫学分野の村上健太郎助教、篠崎奈々客員研究員、佐々木敏教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nutrients」にオンライン掲載された。
不適切な食事摂取は、糖尿病や肥満症・メタボなどの慢性疾患の発症や早期死亡の主要な危険因子として広く知られており、食事の質の向上は今や世界的な優先事項となっている。食事と疾病の関係を明らかにし、より望ましい食行動を支援するための効果的な方策を開発するためには、習慣的な食事摂取状況を正確に測定する必要がある。
この分野の研究はこれまで、個々の栄養素や食品について、1日合計の摂取量といった「何を食べるか」や「どのくらい食べるか」という点のみが注目されてきた。しかし、近年、食事のタイミングといった「どのように食べるか」という観点の研究が増えてきている。
「どのように食べるか」という視点からの科学的知見が蓄積していくことは、より意義のある食事ガイドラインや公衆衛生メッセージを策定したり、健康的な食事を促進するための効果的な介入戦略を開発するのに重要となる。
しかし、この分野の研究は世界的にみてもあまり進展していない。主な理由のひとつとして「大規模な集団に対して、簡便かつ安価に使用できる測定法が存在しない」ということが挙げられる。
朝食・昼食・夕食・間食ごとの食品摂取量を推定
そこで研究グループは、日本人成人から収集した詳細な食事調査データと、食行動に関する既存の科学的知見をもとに、朝食・昼食・夕食・間食ごとの食品摂取量を推定することを目的とした簡易食習慣評価ツールである(MDHQ;Meal-based Diet History Questionnaire)を開発した。
MDHQを簡潔に説明すると、食事の種類(朝食、午前の間食、昼食、午後の間食、夕食、夜間の間食)ごとに、食事摂取量を推定できるよう設計された自己記入式質問票で、最近の食習慣を尋ね、回答には約15分を要する。
MDHQは3つの部分で構成されており、第1部は、食事の種類ごとの摂取頻度に関する定量的な質問が含まれている。第2部は、一般的な食品グループに含まれるサブ食品グループの相対的な摂取頻度に関する質問が含まれている。第3部は、玄米と全粒粉パンなどの相対的な摂取頻度を含む、一般的な食事行動についての質問が含まれる。ベースライン特性(性別・年齢・身長・体重・教育レベル・喫煙習慣など)の評価も行う。
大分類 | 小分類 |
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米飯 | 白米、玄米 |
パン(菓子パンは除く) | 白パン、全粒粉入りパン |
めん類 | うどん・そうめん・ひやむぎ、ラーメン・中華めん、インスタントめん、スパゲッティ・マカロニ、そば |
朝食シリアル | --- |
みそ汁 | --- |
漬物・梅干し・佃煮 | --- |
肉類 | レバー、ハム・ソーセージ・ベーコン、牛肉、鶏肉、豚肉 |
魚介類 | 小魚、魚の干物、ツナ缶・ツナフレーク、サーモン・さけ・ます、白身の魚、脂がのった背の青い魚、赤身の魚、いか・たこ、うなぎ、えび・かに、貝類、魚の卵、水産練り製品 |
たまご | |
牛乳・乳製品 | 低脂肪乳、普通牛乳・高脂肪乳、ヨーグルト、チーズ、アイスクリーム |
大豆製品・豆類・ナッツ類 | 豆腐、納豆、生揚げ・油揚げ・がんもどき、豆乳、ピーナッツ・ナッツ類 |
野菜・きのこ・海藻 | キャベツ、きゅうり、レタス、ゴーヤ、ごぼう、大根、たまねぎ、にんじん、かぼちゃ、トマト、なす、ピーマン・パプリカ、ブロッコリー、白菜、緑の濃い葉野菜、もやし、枝豆・グリンピース、きのこ、海藻 |
いも類 | --- |
果物 | いちご、柿、かんきつ類、キウイ、すいか、梨・洋梨、バナナ、ぶどう、メロン、もも、りんご |
菓子類 | せんべい・おかき・あられ、和菓子、あめ・キャラメル・ガム、菓子パン、スナック菓子・ポテトチップス、ゼリー、チョコレート・チョコレート菓子、ビスケット・クッキー、洋菓子 |
水 | --- |
緑茶 | --- |
麦茶 | --- |
ウーロン茶・中国茶 | --- |
紅茶 | --- |
コーヒー | --- |
砂糖が入った甘い飲み物 | --- |
100%野菜ジュース・果物ジュース | --- |
アルコール飲料 | ビール・発泡酒、日本酒、焼酎・酎ハイ・泡盛、ワイン、ウイスキーなど |
調味料 | 砂糖(コーヒー・紅茶用)、料理に含まれる食塩、植物油、料理に含まれる砂糖、スープに含まれる食塩(相当量)、しょうゆ(1 日合計のみ)、パンに塗るジャムなど、パンに塗るマーガリンなど、マヨネーズ・ドレッシング |
日本人成人222人を対象に試験を実施
研究グループは今回の研究で、2021年8~10月に全国14都道府県で実施した調査で得られたデータをもとに、30~76歳の日本人成人222人(男女111人ずつ)の参加者に対し、研究内容を説明したうえで、まずウェブ版のMDHQに回答してもらった。
その後、4日間にわたり、食べたり飲んだりしたものを、量も含めてすべて記録する食事調査法である「食事記録」を実施してもらい、最後に、紙版のMDHQに回答してもらった。
MDHQの回答にもとづき、専用の計算アルゴリズムを用いて各種食品群の摂取量を計算。同じように、食事記録のデータをもとにして各種食品群の摂取量を計算した。24の主要な食品群について、MDHQから推定された摂取量の平均値と、比較基準となる食事記録から推定された摂取量の平均値を比較した。
推定された食品摂取量は正確であることを確認
女性で、両者に統計的に有意な差が観察されなかった食品群の数は、朝食で11、昼食で12、夕食で12、間食で13、全ての食事(1日合計)で6だった。男性では、朝食で10、昼食で13、夕食で13、間食で8、全ての食事で11だった。
MDHQから計算された平均値が、食事記録から計算された平均値と特に近かった例として、朝食の乳製品、昼食の米飯、夕食のアルコール飲料、間食の砂糖入り飲料、全ての食事(1日合計)の果物が挙げられる。
以上より、MDHQは、多くの食品群で、十分な平均値の推定能力を有していると考えられるとしている。また、摂取量が少ない人から多い人までを順位付けする能力に関しても、MDHQは多くの食品群で、十分な能力を有していることが示された。さらに、ウェブ版と紙版のMDHQの性能は、基本的には同程度であることも判明した。
「本研究は、朝食・昼食・夕食・間食ごとの食品摂取量が推定できる簡易食習慣評価ツールを開発した世界初の研究です。MDHQ はウェブ版、紙版ともに、基準法である4日間の食事記録に比べて、十分に妥当な食品摂取量を算出する性能を有することが示唆されました」と、研究グループでは述べている。
「MDHQは、食事摂取の時間帯やタイミングに着目した食事と疾病の関係に関する栄養疫学研究や時間栄養学研究で、有用な食事調査ツールといえます。そのような研究成果が蓄積すれば、より日常の食べ方にそった食事指導や栄養教育が実現できるでしょう」。
「MDHQの科学的根拠をより確かなものにするため、今後、食事の他の側面(たとえば、栄養素レベルや食事の質)でのMDHQの性能を検討していく予定です」としている。
女性111人の結果
東京大学大学院医学系研究科公共健康医学専攻社会予防疫学分野
Relative validity of food intake in each meal type and overall food intake derived using the Meal-based Diet History Questionnaire against the 4-day weighed dietary record in Japanese adults (Nutrients 2022年8月4日)