ストレスが多いと「口腔の健康」も悪化 ストレス対策と口腔ケアは重なる 日本の労働者27万人超を調査
ストレスがあるほど口腔の健康の問題をもっている割合は増える
日本の27万人超の労働者を調査
ストレスは、さまざまな健康問題を引き起こし、健康格差を拡大する要因にもなっている。とくに労働者の心理的なストレスは、さまざまな精神的および身体的な健康上の問題を引き起こすことが報告されている。
一方、ストレスと口腔の健康の関連についてはよく分かっていない。これまでの研究は、ストレスの測定項目の範囲が狭く、一貫した結果が出ていなかった。
そこで東京医科歯科大学の研究グループは、国が実施した国民生活基礎調査の2次解析から、広範な日常生活のストレスと口腔の健康との関係について、27万4,881人の労働者を対象に調査した。
その結果、「歯が痛い、歯ぐきの腫れ・出血、噛みにくい」といった口腔の健康の問題をもっている割合は、最大のストレススコアの人で14.4%に上り、ストレスがない人の2.2%に比べ大幅に高かった。
調査では、仕事以外の広範な日常生活のストレスについても調査した。ストレスが増えるほど、個別の口腔についても、症状のある人が増えることが分かった。
ストレスが増えるほど口腔症状[歯が痛い、歯ぐきの腫れ・出血、かみにくい]
のある人が増えることが明らかに
糖尿病患者は歯周病などになりやすく、歯周病になると血糖管理が相乗的に困難になることが知られている。また、糖尿病患者の多くは感情的・心理的な問題を抱えた経験をもっており、ストレスは血糖管理にも影響をもたらす。糖尿病治療でも、ストレス管理と口腔ケアは重要な課題のひとつになっている。
研究は、東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科健康推進歯学分野の相田潤教授、青木仁氏らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Epidemiology」にオンライン掲載された。
「労働者の日常生活のストレスと口腔の健康の問題とのあいだに、明確な用量反応的な関係が認められました。本研究の長所は、労働者の仕事以外の広範な日常生活のストレスを考慮したことです。さらに、分析の対象者が多数であり、ストレスと口腔の健康のあいだの用量反応的な関係を示すことを可能にしました」と、研究者は述べている。
「現在、ストレスに起因する口腔の健康の問題は、産業衛生の分野のみならず、歯科分野でも十分に考慮されていません。根底にある機序を明らかにし、ストレス軽減を通じて、口腔の健康を向上するための介入プログラムを開発していくことが必要と考えられます」としている。
仕事以外の広範な日常生活のストレスも調査
ストレス軽減を通じて口腔の健康も向上
研究グループは今回、国が実施した2013年の国民生活基礎調査の匿人化された個票データを分析。日常生活のストレス、口腔の健康の問題[歯が痛い、歯ぐきの腫れ・出血、かみにくい]のいずれかの項目が1つ以上ある場合を「問題あり」と判定した。
各共変量について、自記式質問票の情報から得た。共変量には性別、年齢、配偶者の有無、職業分類、教育歴、喫煙習慣、飲酒習慣、健康のための活動、健診の受診、健康上の問題での日常生活の影響、歯科以外の治療中の主な疾患(15疾患)を用いた。
多項ロジスティック回帰分析を用いて、日常生活のストレスと口腔の健康の問題との関連を推定した。そして、拡張逆確率重み付け法(AIPW法)を用いて、口腔の健康の問題の有病率を推定した。
対象となったのは27万4,881人で、平均年齢は47.0(SD=14.4)歳、男性15万2,850人(55.6%)、女性12万2,031人(44.4%))。うち、4.0%に口腔の健康の問題が認められた。
解析した結果、口腔の健康の問題の有病率は、ストレスのない人で2.1%だったが、ストレススコアとともに増加し、最大のストレススコア7点以上の人では15.4%に達した。
ストレスのない人と比較した、最大のストレススコアの人の調整オッズ比は9.2(95%信頼区間(CI) 8.2~10.3)倍だった。
AIPW法により各共変量で調整した口腔の健康の問題の推定有病率は、ストレスがない人が2.2%(95%CI=2.1-2.3)であり、最大のストレススコアの人で14.4%(95%CI=12.1-16.7)だった。
個別の口腔の問題についても、ストレスが増えるほど、症状を有する人が増えるという関係がみられた。
東京医科歯科大学 歯学部 健康推進歯学分野
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 健康推進歯学分野
Association of Stressful Life Events with Oral Health Among Japanese Workers (Journal of Epidemiology 2023年1月14日)