1型糖尿病など自己免疫疾患とアレルギー疾患に共通した遺伝的特徴を明らかに 大阪大・理研など
複数の免疫疾患を横断的に検討した大規模ゲノム解析 計84万人が対象
大阪大学と理化学研究所などは、日本のバイオバンク・ジャパン、英国のUKバイオバンクなどから収集された計84万人のヒトゲノム情報の解析を行い、自己免疫疾患とアレルギー疾患に共通した遺伝的特徴を明らかにしたと発表した。
対象疾患は、両バイオバンクで共通して登録されている、関節リウマチ、バセドウ病、1型糖尿病、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、花粉症で、追認解析として全身性エリテマトーデス、乾癬を対象に検証が行った。
自己免疫疾患とアレルギー疾患は異なる疾患群と考えられているが、一部の遺伝子領域では、共有される遺伝的リスクに関する報告があり、2つの疾患群で共通した病態の存在が示唆されており、その全容解明が望まれている。
研究グループ今回、自己免疫疾患とアレルギー疾患を対象に、ゲノムワイド関連解析(GWAS)を行い、複数の集団に対して横断的な統合解析を行った。 GWASは、ヒトゲノム配列上に存在する数百万ヵ所の遺伝子多型とヒト疾患との発症の関係を網羅的に検討する、遺伝統計解析手法。数千人~百万人を対象に大規模に実施することで、これまで1,000を超えるヒト疾患に対する遺伝子多型が同定されている。
その結果、ゲノム情報にもとづき、自己免疫疾患とアレルギー疾患を分類することができる一方で、部分的には共通した遺伝子多型が存在することを明らかにした。
自己免疫疾患とアレルギー疾患は、ゲノム情報からも2群に分類することができ、その違いは、「自己免疫疾患では疾患リスクがHLA遺伝子領域に集中していること」、「アレルギー疾患では疾患リスクがサイトカイン遺伝子領域に偏ってゲノム上に散在していること」に起因していた。
一方、部分的には共通の疾患リスクを示す遺伝子領域も存在しており、今回の研究では、4ヵ所の遺伝子多型が新規に同定された。
今回の研究で新たに同定した遺伝子多型は、PRDM2、G3BP1、HBS1L、POU2AF1領域に存在しており、それぞれの遺伝子の発現量を変化させることで、疾患リスクに関与することが示された。
G3BP1領域の遺伝子多型は、東アジア人集団で特異的に観測され、POU2AF1領域の遺伝子多型などは、多様な集団間で共通した効果を示す。G3BP1はⅠ型インターフェロン発現に関わる遺伝子であり、POU2AF1はB細胞で抗体産生に関わる遺伝子。
これらの領域の遺伝子多型は、それぞれの遺伝子発現量を減少させることで、疾患リスクを低下させることが示唆された。また研究では、自己免疫疾患との統合解析を通して、アレルギー疾患の遺伝的リスクに自然免疫に関わる遺伝子や免疫細胞が関連していることも明らかになった。
自然免疫は、侵入してきた病原体や異常になった自己の細胞をいち早く感知し、それを排除する仕組みであり、免疫反応の初期応答として好中球やマクロファージなどが中心的な役割を果たす。
複数の免疫疾患に関わるリスク遺伝子が明らかにすることにより、複数疾患をターゲットにした新規創薬やドラッグ・リポジショニングへの応用が期待されるとしている。
研究は、大阪大学大学院医学系研究科の白井雄也氏、理化学研究所生命医科学研究センター システム遺伝学チーム チームリーダーの岡田随象教授(遺伝統計学)らの研究グループによるもの。研究成果は、Annals of the Rheumatic Diseasesにオンライン掲載された。
「自己免疫疾患とアレルギー疾患は異なる疾患群と考えられていますが、両者の間には免疫細胞、抗体、サイトカインなどの共通したプレーヤーが存在します。今回の研究では、両者の違いを明確にしつつも、一部では似たような遺伝的背景の存在が分かり、非常に興味深いと感じております」と、研究者は述べている。
大阪大学大学院医学系研究科
理化学研究所生命医科学研究センター
Multi-trait and cross-population genome-wide association studies across autoimmune and allergic diseases identify shared and distinct genetic components (Annals of the Rheumatic Diseases 2022年6月27日)