高齢者の最適なBMIはフレイルの有無により異なる 高齢者はフレイル改善を優先する必要が
高齢者の死亡リスクが低くなる最適なBMIはフレイルの有無により異なる
研究は、早稲田大学スポーツ科学学術院の渡邉大輝助教、宮地元彦教授、医薬基盤・健康・栄養研究所の吉田司研究員、山田陽介室長、びわこ成蹊スポーツ大学の渡邊裕也准教授、京都先端科学大学の木村みさか客員研究員が共同で行ったもの。研究成果は、「Clinical Nutrition」にオンライン掲載された。
研究グループは今回、65歳以上の地域在住の日本人高齢者を対象に、BMIと死亡との量反応関係を検討し、高齢者のフレイルの有無によって、死亡リスクがもっとも低くなる最適なBMIは異なることをはじめて明らかにした。
寿命を延ばすために高齢者の最適な体格を評価することは重要だが、これまで日本人高齢者のBMIと死亡との関連が、フレイルの有無によって異なるかどうかは不明だった。
研究グループは今回、2011年から京都府亀岡市で行われている前向きコホート研究「京都亀岡スタディ」に参加した65歳以上の1万912人のデータを使用した。
BMIは質問票の回答による身長と体重から算出し、「18.5未満」「18.5~21.4」「21.5~24.9」「25以上」の4群に分け、5.3年間(中央値)の追跡調査を行った。フレイルは厚生労働省が作成した基本チェックリストを用いて評価した。全体のフレイル該当率は43.7%で、期間中に1,352人が死亡した。
フレイルのある高齢者は、BMIを増加させることよりも、フレイル度を改善することを優先する必要が
その結果、主に次のことが明らかになった――。
- 普通体重(BMI 21.5~24.9)の高齢者に比べて、やせ・低体重(BMI 18.5未満)の高齢者は、フレイルおよびフレイルのない高齢者どちらも死亡率が高い。
- フレイルおよびフレイルのない高齢者のどちらも、肥満(BMI 25以上)の高齢者は死亡リスクが低いが、普通体重(BMI 21.5~24.9)のフレイルのない高齢者に比べて、肥満とフレイルの両方のある高齢者は死亡率が高くなる。
これは、BMIを高くしてもフレイルに関連する死亡リスクを完全に相殺できないことを示しており、フレイルのある高齢者は、BMIを増加させることよりも、フレイル度を改善することを優先する必要があることを示唆しているとしている。
もし、肥満をともなうフレイルを改善し、フレイルのない肥満の高齢者になれば、普通体重のフレイルのない高齢者に比べて死亡リスクと関連しないと考えられる。
研究グループはさらに、BMIと死亡イベントの量反応関係をフレイルの有無によって層別分析を行った。その結果、フレイルのある高齢者では、BMIが高いと死亡リスクが大きく低下した。一方、フレイルのない高齢者では、BMIが23~24でもっとも死亡リスクが低くなることも分かった。
これらのことから、高齢者ではフレイルの有無によってBMIと死亡リスクの関係が大きく異なり、フレイルのある高齢者はフレイルのない高齢者に比べて、BMIが高いことで死亡リスクの低下による恩恵を受けられる可能性が示された。
フレイルを評価すれば死亡リスクがもっとも低い最適なBMIを把握できる
フレイルには「適切な介入により再び健康な状態に戻る」という可逆性が包含されているため、フレイルの状態を改善しうる生活習慣などが世界中で研究されている。
日本では2020年4月より、75歳以上の後期高齢者を対象に、フレイルの発症予防・重症化予防に着目した健診が開始された。
しかし、これらの取り組みにより地域高齢者のフレイル該当者を正確に評価できても、どのような生活習慣の改善がフレイルの予防や改善に効果的か十分には分かっていない。
今回の調査により、フレイルを評価することで死亡リスクがもっとも低い最適なBMIの目安を把握できることが分かった。今後、日本でフレイルのある高齢者は増加すると予測されており、生活習慣改善に役立つエビデンスになるとしている。
「本研究では、健康的な普通体重の人よりもBMIが高い肥満者で死亡リスクが低いという"肥満のパラドックス"の要因のひとつとして、フレイルがある可能性を示した。日本人の食事摂取基準2020年版から、フレイルの発症および重症化予防の観点が考慮されており、フレイルの有無によって目標とするBMIが異なることを示した我々のデータは、よりきめ細かい食事・栄養指導や健康政策の立案に役立つエビデンスになる」と、渡邉氏は述べている。
「フレイルがあるか否かに関わらず、すべての高齢者にとって、“やせすぎは長生きの妨げ”となることが分かった。一方で、“太っている方が長生き”と判断することも危険だ。日々元気に体を動かし、バランスの良い食事をしっかりとり、やせすぎず太りすぎない体型を維持することをお勧めする」と、宮地氏は述べている。
なお今回の研究では、高齢者のフレイルの有無による一時点でのみ評価したBMIと死亡リスクの関係を検討したもので、同一個人のBMIの繰り返し測定による個人のBMIの軌跡と死亡リスクとの関連も検討する必要があるとしている。
高齢者は死亡する前に食事量が減少し、急激にやせる傾向があるため、BMIを一時点でのみ評価した場合、急激なBMIの変化の影響を評価することができない。
「もし、どのようなBMIの軌跡がもっとも死亡リスクを高くするかを評価できれば、早期に食事・栄養などの対策をとることが可能になる。また、今回の研究で示した最適なBMIになるようなエネルギー摂取量と身体活動量の関係を明らかにできれば、個々人の身体活動量に応じたエネルギー摂取量の目標値を設定することができる」としている。
早稲田大学スポーツ科学学術院
医薬基盤・健康・栄養研究所
Frailty modifies the association of body mass index with mortality among older adults: Kyoto-Kameoka study (Clinical Nutrition 2024年2月)