日本人2型糖尿病患者のための新たな費用対効果シミュレーションモデルを開発 JDCSとJ-EDITのデータをもとに作成

2021.08.10
 ノボ ノルディスク ファーマは、日本人2型糖尿病患者のための製品非特異的かつ汎用性の高い費用対効果モデルを新たに開発したと発表した。
 日本の2型糖尿病患者を対象とした大規模臨床研究であるJDCSとJ-EDITのデータをもとに作成されており、糖尿病治療の費用対効果比の評価などに活用されることが期待される。

日本人糖尿病患者での治療介入の費用対効果を分析

 ノボ ノルディスク ファーマは、日本人2型糖尿病患者のための製品非特異的かつ汎用性の高い費用対効果モデルを新たに開発したと発表した。詳細は、「BMJ Open Diabetes Research & Care」に掲載された。

 このモデルの開発および公表は、これまで限定的だった日本人糖尿病患者の費用対効果モデルの構築に関する研究に貢献しようとするもの。

 日本では糖尿病の経済的負荷が増大していることから、日本人糖尿病患者での治療介入の費用対効果を分析することが、医療経済の観点から強く求められている。

 これに関連し近年、医薬品の費用対効果を評価する目的で医療技術評価(HTA)制度が導入されており、同費用対効果モデルは厚生労働省が定める分析要件を満たすことに役立つとしている。

 同費用対効果モデルは、「JJリスクエンジン(2型糖尿病患者の大規模臨床研究Japan Diabetes Complications Study(JDCS)、およびその高齢者版姉妹研究Japanese Elderly Diabetes Intervention Trial(J-EDIT)の結果を合わせ構築された日本人糖尿病患者の合併症予測モデル)」をもとに開発された、はじめての費用対効果モデルとなる。

 「JJリスクエンジン」では、患者特性にもとづき将来にわたって発生する大血管合併症および細小血管合併症のリスクを推定することができる。

 同費用対効果シミュレーションモデルは、利用者が定義した患者のベースライン特性および期待される治療介入の効果にもとづき、設定された期間での糖尿病合併症の発生率を推計し、入力されたパラメータや仮定に応じた費用、質調整生存年(QALY)および増分費用効果比(ICER)の推定を可能にする。

JDCSとJ-EDITのデータで作成したJJリスクエンジンをもとに開発

 同論文の責任著者である新潟大学大学院医歯学総合研究科血液・内分泌・代謝内科分野の曽根博仁教授は、次のように述べている。
 「糖尿病は、合併症を併発すると医療費が急増します。全国の2型糖尿病患者の大規模臨床研究JDCSとJ-EDITのデータから作成されたJJリスクエンジンは、日本人糖尿病患者の合併症発症の予測モデルとして使われてきましたが、これをもとに作られた今回のモデルでは、さらに医療費の評価が可能になりました。今後、さまざまな糖尿病治療の費用対効果比の評価に広く活用されることが期待されます」。

 JDCS研究は、1996年に開始された、欧米人以外の2型糖尿病患者を対象にした世界初の大規模臨床介入研究。2型糖尿病患者には心血管疾患が多く合併することが知られているが、日本人2型糖尿病患者での心血管疾患に関するデータは十分でなく、また欧米の大規模臨床研究のエビデンスを日本人糖尿病患者の診療に適用する際には、日本人患者と欧米人患者との病態背景の差を考慮する必要があるが、その差異に関するデータも少なかったことから、この研究が行われた。

 全国59ヵ所の糖尿病専門施設に外来通院中の、日本糖尿病学会の診断基準に合致するHbA1cが6.5%以上の2型糖尿病患者(40~70歳)2,033人が対象となり、追跡期間8年での生活指導による介入効果を検討するとともに、コホート全体の観察により、現代日本の糖尿病患者の心血管系疾患の発症頻度やリスクファクター等の状況について前向きの追跡調査が行われた。

 J-EDIT研究は、全国39施設の動脈硬化性疾患のリスクまたは高血糖の高齢糖尿病患者1,173人を対象に、動脈硬化の危険因子を積極的に治療する強化治療群と通常治療群に無作為に割り付け約6年間追跡し、生死、細小血管症や動脈硬化性疾患のイベント、心身の機能などのアウトカムを評価した大規模臨床介入研究。

 高齢者糖尿病では、糖尿病が動脈硬化の危険因子となること、糖尿病罹病期間の長い例が多いことなどから、動脈硬化性血管障害および糖尿病細小血管症の多発が問題となる。さらに高齢者糖尿病では、ADL(日常生活動作)低下、転倒、認知症、うつ病などの自立した生活を困難とする種々の生活機能障害が多発することが知られているが、このような問題を抱える高齢者糖尿病の治療目標、治療基準に関しては治療上のエビデンスが少なく、十分なコンセンサスが得られていなかったことから、高齢者糖尿病の治療のエビデンスを得る目的で同研究が実施された。

Developing a health economic model for Asians with type 2 diabetes based on the Japan Diabetes Complications Study and the Japanese Elderly Diabetes Intervention Trial(BMJ Open Diabetes Research & Care 2021年8月5日)
Predicting Macro- and Microvascular Complications in Type 2 Diabetes: The Japan Diabetes Complications Study/the Japanese Elderly Diabetes Intervention Trial risk engine(Diabetes Care 2013年5月)
Long-term lifestyle intervention lowers the incidence of stroke in Japanese patients with type 2 diabetes: a nationwide multicentre randomised controlled trial (the Japan Diabetes Complications Study)(Diabetologia 2010年3月)
Long-term multiple risk factor interventions in Japanese elderly diabetic patients: The Japanese Elderly Diabetes Intervention Trial – study design, baseline characteristics and effects of intervention(Geriatrics & Gerontology International 2012年3月21日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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