歯周病による糖尿病の病態悪化は骨格筋の異常にもつながる
近年、歯周病は2型糖尿病や肥満などのさまざまな全身疾患の増悪因子となることが知られるようになった。歯周病は、糖代謝で重要な役割を果たす臓器である肝臓の脂肪化を増悪させる因子のひとつであることも明らかになっている。しかし、他の糖代謝に関わる臓器との関連についてはよく分かっていない。
骨格筋は体重の約40%を占める最大の臓器であり、運動や姿勢保持のみならず全身の糖代謝調節でも基幹的役割を担っている。歯周病が糖尿病の病態を悪化させる機序のひとつにインスリン抵抗性の惹起が挙げられるが、インスリン依存的に糖の取り込み・代謝を行う組織である骨格筋に注目した報告はなく、歯周病による糖尿病の病態悪化で骨格筋との臓器特異的な関連性が予想されるものの、そのメカニズムは解明されていない。
そこで研究グループは、骨格筋組織の脂肪化に着目。ヒト臍部CT画像に描出された腰筋群をCT値解析し、骨格筋の脂肪化マーカーを算出し、歯周病原細菌の血清抗体価との関連を調査した。
その結果、脂肪化マーカーと歯周病原細菌であるPorphyromonas gingivalis(Pg)の血清抗体価に有意な相関がみられることが分かった。
そこで、Pgの感染による骨格筋の影響を調査するため、Pg嚥下感染モデルマウスを用いて実験を行った。脂肪化への影響を調査するため、Oil red o染色を行なったところ、Pgの投与により、遅筋であるヒラメ筋では有意に脂肪化が亢進していることが分かった。
また、遺伝子発現をqPCR法で検証したところ、Pgの投与によりTnfaやIl6などの炎症関連遺伝子が上昇し、マイクロアレイ解析では炎症関連遺伝子群の上昇を認めた。
歯周病菌が筋での糖の取り込みを阻害 腸内細菌叢も変化
次に、研究グループは糖の取り込みを評価するため、2−デオキシグルコース(2DG)を用いて、筋組織に取り込まれた糖を定量した。2DGはグルコースと同様に細胞内へ取り込まれるが、リン酸化された後に次の酵素反応へ進まない。マウスに2DGを投与すると、Pg投与群ではヒラメ筋における糖の取り込みが有意に阻害されていることが確認された。
また、ウエスタンブロッティング法でインスリンシグナルの指標となるAktのリン酸化を評価したところ、Pg投与群ではリン酸化の阻害が確認され、インスリンシグナルが低下していることが確認された。
さらに、次世代シークエンサーを用いて腸内細菌叢の細菌種の同定、細菌種間の相関関係を解析した結果、Pgの投与はTricibacter属を減少させ、細菌叢を変化させていることが分かった。細菌同士の相関関係を示したネットワーク構造も、ひとつのネットワークに関わる細菌種が減少していることが分かった。