左室駆出率が低下した心不全患者でSGLT2阻害薬「ジャディアンス」が慢性腎臓病の有無を問わず心および腎アウトカムを改善
2020.11.13
EMPEROR-Reduced試験の新たな探索的なサブ解析の結果、糖尿病合併および非合併の左室駆出率が低下した心不全患者で、ジャディアンスは、ベースライン時の慢性腎臓病の有無を問わず、心血管イベントならびに腎イベントのリスクを低下させたことが明らかになったと、ベーリンガーインゲルハイムとイーライリリー・アンド・カンパニーが発表した。
心不全と慢性腎臓病を合併した患者は増加している
EMPEROR-Reduced試験では、左室駆出率が低下した慢性心不全(HFrEF)患者での「ジャディアンス」の安全性と有効性を評価している。主要評価項目は判定された心血管死または心不全による入院の初回発現までの時間。患者数は3,730人。 EMPEROR試験とEMPA-KIDNEY試験は、SGLT2阻害薬の中でもっとも幅広く、包括的に心腎代謝疾患への「ジャディアンス」の影響を研究する、EMPOWERプログラムの一部だ。 このEMPEROR-Reduced試験のサブ解析結果は、糖尿病合併および非合併の患者が対象。「ジャディアンス」は、ベースライン時の慢性腎臓病の有無を問わず、心血管死、心不全による入院、重篤な腎アウトカムの評価項目に関するリスクを減少させたことが示された。詳細は、米国腎臓病学会のKidney Week 2020で発表されるともに、「Circulation」に掲載された。 同試験ではすでに、糖尿病合併の有無を問わない左室駆出率が低下した心不全患者で、「ジャディアンス」は心血管死または心不全による入院の相対リスクを25%、心不全による入院の初発および再発の相対リスクを30%低下させ、腎機能の指標であるeGFRの低下を遅らせたことが報告されている。 また、追加の探索的な解析により、「ジャディアンス」の投与は、末期腎不全や重篤な腎機能低下などから成る腎複合評価項目の相対リスクを50%低下させたことが明らかになっている。 すべての評価項目に対する今回の新たな解析の結果、これらのベネフィットはベースライン時の慢性腎臓病の有無を問わず一貫して認められ、それは高度な腎障害を有する患者群でも同様だった。また、EMPEROR-Reduced試験に参加したすべての患者コホートで、ジャディアンスの安全性プロファイルは、これまでに確立されたエンパグリフロジンの安全性プロファイルと同様だった。 「心不全と慢性腎臓病は、ともにそれぞれが入院と早期死亡のリスクを上昇させます。また、心不全と慢性腎臓病は影響しあい、一方の存在が、もう一方の疾患の発症ならびに進行を早め、さらに予後悪化のリスクを増大させます。EMPEROR-Reduced試験の結果から、エンパグリフロジンは、慢性腎臓病の有無を問わず、左室駆出率が低下した心不全患者で、主要評価項目である心血管死または心不全による入院のリスクを一貫して低下させるとともに、腎機能の低下を遅らせることが明らかになりました。これは、心不全と慢性腎臓病を合併した患者さんが増加している中で朗報です」と、EMPERORプログラムの治験医師を務めるフランス・ロレーヌ大学の治療学名誉教授であるFaiez Zannad氏は言う。 米国食品医薬品局(FDA)は2020年3月に、慢性腎臓病の治療薬として、「ジャディアンス」をファストトラック審査の対象に指定し、この病気に罹患している世界中の患者のための新たな治療選択肢が早急に求められていることを示した。この指定は、糖尿病合併の有無を問わない慢性腎臓病患者における腎臓病の進行および心血管死に対するジャディアンスの有効性を評価する、進行中のEMPA-KIDNEY試験が対象だ。EMPA-KIDNEY試験の結果は、2022年に発表される予定。 また、FDAは2019年6月、心不全患者における心血管死および心不全による入院のリスク低下に関し、「ジャディアンス」をファストトラック審査の対象に指定した。この指定は、EMPEROR-Reduced試験とEMPEROR-Preserved試験から構成される進行中のEMPERORプログラムが対象だ。EMPERORPreserved試験では、これまでに承認された治療法のない、左室駆出率が保持された心不全患者を対象に、心血管死または心不全による入院に対するジャディアンスの有効性を評価する。EMPERORPreserved試験の結果は、2021年に発表される予定。 なお、日本での「ジャディアンス」の効能・効果は2型糖尿病であり、心血管イベントおよび腎臓病のリスク減少に関連する効能・効果、慢性心不全の適応は取得していない。 ベーリンガープラス(日本ベーリンガーインゲルハイム) 日本イーライリリー[Terahata / 日本医療・健康情報研究所]