「ガイドラインからみた糖尿病の食事療法における課題」 第63回日本糖尿病学会年次学術集会レポート(4)

2020.10.20
第63回日本糖尿病学会年次学術集会
シンポジウム26「ガイドラインからみた糖尿病の食事療法における課題」

シンポジスト:森野勝太郎(滋賀医科大学糖尿病内分泌腎臓内科)、丸山千寿子(日本女子大学家政学部食物学科)、荒木 厚(東京都健康長寿医療センター糖尿病・代謝・内分泌内科)、川浪大治(福岡大学医学部内分泌・糖尿病内科学)、柴田重信(早稲田大学先進理工学部)
座長:宇都宮一典(東京慈恵会医科大学総合健診・予防医学センター)、福井道明(京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・代謝内科学)

エネルギー摂取量は、患者の病態と体重変化に合わせて、繰り返し再設定する

 糖尿病の病態や生活習慣の多様化により、糖尿病患者の食事療法はその一律な基準設定が課題となっていた。日本糖尿病学会では数年かけて食事療法の在り方を検討し、糖尿病診療ガイドライン2019にまとめた。患者の属性を踏まえて個別化し、病態に応じて柔軟に設定することを基本としている。本シンポジウムでは、検討時の大きなポイントであった必要エネルギー量、エネルギー産生栄養素比率、高齢者糖尿病、糖尿病性腎症に加えて、時間栄養学について講演された。

 シンポジスト1人目の森野勝太郎氏は「エネルギー必要量の設定」と題して、総エネルギー摂取量の設定に関する変更点を解説した。総エネルギー摂取量は、従来BMI22に相当する標準体重に身体活動量をかけていたが、糖尿病診療ガイドライン2019では目標体重にエネルギー係数をかけて算出すると変更された。

 森野氏は最後に、目標体重は患者の病態に合わせ設定すること、エネルギー係数やエネルギー摂取量は患者の病態と体重変化に合わせて、繰り返し再設定することが必要であるとまとめた。

エネルギー産生栄養素バランスは食事ごとに考える

 シンポジスト2人目の丸山千寿子氏は「エネルギー産生栄養素バランス」と題して、糖尿病患者の食事療法におけるエネルギー産生栄養素について解説した。

 丸山氏は、糖尿病患者の食事療法においては、糖質は血糖調節能力に応じた量を摂取すること、エネルギー産生栄養素バランスは食事ごとに考えること、タンパク質と脂肪酸は欠乏に気をつけつつ合併症の進展阻止に過不足ない量とすること、炭水化物エネルギー比にはアルコール摂取量が含まれることに注意する必要があるとまとめた。

高齢者糖尿病の食事療法はメタボ対策からフレイル対策へシフトする

 シンポジスト3人目の荒木厚氏は「高齢者糖尿病の食事療法」と題して、高齢の糖尿病患者におけるフレイル、サルコペニア、低栄養などの老年症候群を考慮した食事療法を解説した。

 荒木氏は、高齢者糖尿病の食事療法においては、75歳以上、フレイルやサルコペニアまたは低栄養が見られる場合には、メタボ対策からフレイル対策にシフトすることが大切で、その際には、併発疾患、認知機能、心理状態、周囲のサポートなどを考慮して、フレイル対策として十分なエネルギー、タンパク質、ビタミン、ミネラルの摂取などを行う必要があると述べた。

食事療法と療養指導を組み合わせて腎機能低下速度を抑制

 シンポジスト4人目の川浪大治氏は「糖尿病性腎症における食事療法の意義と課題~透析予防指導を含めて~」と題して、糖尿病性腎症に対するタンパク質と食塩の摂取制限に対する効果と課題を解説し、腎症重症化予防への取り組みと効果を紹介した。

 川浪氏は最後に、糖尿病性腎症におけるタンパク質制限の効果は臨床的エビデンスが明確ではなく、高齢者やアドヒアランスのある症例では個別化が必要であり、食事療法と療養指導を効果的に組み合わせることで腎機能低下速度を抑制できる可能性があるとまとめている。

時間軸の健康科学と糖尿病治療

 シンポジスト5人目の柴田重信氏は「時間栄養学からみえるもの」と題して、体内時計を考慮した栄養摂取と、体内吸収、血糖変動、腸内細菌叢への影響を解説し、体内時計を活用した今後の展望を述べた。

 柴田氏は、体内時計と食・栄養や運動との関係を応用することが、肥満・糖尿病治療の新しい切り口になり、時間栄養学、時間運動学、時間休息学などの時間軸の健康科学が肥満や糖尿病の治療に役立つと考えていると述べた。

一般社団法人 日本糖尿病学会

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