血管新生関連疾患の標的となる「サリューシン-β受容体」を発見 糖尿病性網膜症など血管新生に関わる新規開発候補薬に期待
2019.01.23
北里大学とプロトセラの研究グループは、血圧降下作用などの生理活性を示す「サリューシン-β受容体」がATP合成酵素β鎖であることを明らかにした。
ATP合成酵素β鎖誘導体やATP合成酵素β鎖に対する特異的結合物質を有効成分とする製品は、多種類のがんや、心筋梗塞、慢性炎症、網膜血管新生症、糖尿病性網膜症、または閉塞性動脈硬化症などに対して、これまでのリガンド側の作用機序とは異なる受容体側の血管新生に関わる新規開発候補薬として、治療効果や予防効果が期待される。
ATP合成酵素β鎖誘導体やATP合成酵素β鎖に対する特異的結合物質を有効成分とする製品は、多種類のがんや、心筋梗塞、慢性炎症、網膜血管新生症、糖尿病性網膜症、または閉塞性動脈硬化症などに対して、これまでのリガンド側の作用機序とは異なる受容体側の血管新生に関わる新規開発候補薬として、治療効果や予防効果が期待される。
新規リガンド・受容体解析技術による未知受容体を発見
北里大学とプロトセラの共同研究グループは、プロトセラが特許を保有する新しい膜タンパク質ライブラリ(MPL)技術によって、血圧降下作用、除脈作用、副交感神経刺激活性、動脈硬化促進作用、抗利尿ホルモン分泌刺激作用などの多くの生理活性を示す「サリューシン-β受容体」がATP合成酵素β鎖であることを明らかにした。 研究は、北里大学医学部内分泌代謝内科学の七里眞義主任教授らによるもので、その成果は「Scientific Reports」オンライン版で発表された。 細胞膜にある受容体は水に溶けないため、従来のタンパク質の精製・同定・性状分析といった解析技術が有効に働かない。そこでプロトセラは、受容体をその構造特性に関わらず人工リポソームのリン脂質二重層に再構成し、リガンド結合能を保持したままで膜タンパク質ライブラリ(MPL)と呼ばれるエマルジョン溶液に転換する技術を確立した。これにより、培養細胞から組織や臓器にあるあらゆる受容体を大量かつ安定的に供給できるようになった。 このMPL法にBLOTCHIP-MS法を組み合わせた複合技術により、未知のリガンドと未知の受容体を包括的に探索・同定、さらに両者間の相互作用を解析することが可能になった。MPL/BLOTCHIP-MS法により「サリューシン-β受容体」を発見
BLOTCHIP-MS法は、タンパク質に吸着したペプチドと遊離ペプチドの総量を測定する方法。多くのペプチドはタンパク質などに吸着して存在し、その吸着量はペプチドにより異なるため、血液中の総ペプチド量を定量するためには、タンパク質への吸着量に関係なく総量を定量できる技術が求められる。BLOTCHIP-MS法であれば、ペプチドの質量分析を妨害するタンパク質や、生体組織からの抽出工程で混入する高濃度の塩類は、一次元電気泳動の工程で除去される。 「サリューシン-β」は、血圧降下作用、除脈作用、副交感神経刺激活性、動脈硬化促進作用、抗利尿ホルモン分泌刺激作用などの多くの生理活性を示すことが明らかにされているが、その受容体は不明だった。 そこで研究グループは、プロトセラのMPL/BLOTCHIP-MS法によりサリューシン-βの受容体を発見し、受容体誘導体や受容体に対する特異的結合物質を有効成分とする臨床応用が可能な血管新生関連疾患の治療薬または予防薬の開発を目的とする共同研究を開始した。 ラット心臓を破砕後、遠心で膜タンパク質を回収し、卵黄レシチンからなるリポソームと融合させて膜タンパク質ライブラリー(MPL)を調製した。セファロースにサリューシン-βを固定し、MPLの中からサリューシン-βに結合する膜タンパク質を精製した。 精製物をSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動後、標的バンドを切り出して、トリプシン消化-LC-MS/MS法による構造解析した結果、該当するタンパク質はATP合成酵素β鎖であることが明らかになった。ATP合成酵素β鎖誘導体を有効成分とする治療薬を開発
「アンギオスタチン」は内因性の血管新生阻害薬であり、抗がん治療への利用を含む血管新生関連疾患の治療薬または予防薬への応用が検討されてきたが、分子量が大きく臨床応用が困難だった。 今回の研究で発見した受容体(ATP合成酵素β鎖)により、アンギオスタチンや同様の血管新生作用を有する「サリューシン-β」などに代表されるリガンド側の作用機序とは異なる、受容体側の作用機序にもとづいた新しい治療薬や予防薬を開発できる可能性がある。 たとえば、ATP合成酵素β鎖誘導体やATP合成酵素β鎖に対する特異的結合物質を有効成分とする製品により、多種類のがんや、心筋梗塞、慢性炎症(ぜんそく、アトピー性皮膚炎などのアレルギー性疾患に関連する炎症、関節リウマチなどの自己免疫性疾患に関連する炎症など)、網膜血管新生症、糖尿病性網膜症または閉塞性動脈硬化症などに対する治療薬や予防薬として、また、これらの血管新生関連疾患の治療薬または予防薬のスクリーニング方法としての開発が期待される。
Identification of the salusin-β receptor using proteoliposomes embedded with endogenous membrane proteins(Scientific Reports 2018年12月14日)
[Terahata / 日本医療・健康情報研究所]