「劇症1型糖尿病」に関与する遺伝子を全ゲノム解析で世界ではじめて特定 日本糖尿病学会1型糖尿病委員会がオールジャパン体制で実施

2018.12.28
 日本糖尿病学会1型糖尿病委員会が行った多施設共同研究で、全ゲノム関連解析という網羅的解析法を駆使し、劇症1型糖尿病で、従来候補遺伝子解析で報告されていたHLA遺伝子に加えて、12番染色体長腕のCSAD/Lnc-ITGB7-1という領域に第2の遺伝子があることが世界ではじめて明らかになった。
 日本糖尿病学会1型糖尿病委員会による今回の研究は、近畿大学医学部内科学教室(内分泌・代謝・糖尿病内科部門)の池上博司・主任教授がチームリーダーとなり主導したもので、詳細は米国糖尿病学会の機関誌「Diabetes」オンライン版に掲載された。

劇症1型糖尿病に関与する遺伝子を全ゲノム関連解析で特定

 劇症1型糖尿病は、数日の経過で自分のインスリンが全くなくなってしまうために、治療の開始が遅れると死に直結する重篤な疾患だが、発症のメカニズムは明らかにされていない。

 通常の1型糖尿病が膵β細胞に対する自己免疫で発症する「自己免疫性1型糖尿病」であるのに対して、劇症1型糖尿病は発症のメカニズムがいまだ解明されていないため「特発性1型糖尿病」に分類される。

 共同研究は、劇症1型糖尿病になりやすい体質を決定する遺伝子を同定し、その働きを明らかにすることによって、発症メカニズムの解明と予防・治療対策に役立てるために行われた。

 従来は病気の発症メカニズムから推察して、「このような遺伝子が病気に関連するだろう」という遺伝子(候補遺伝子)を解析する方法で研究が行われてきたが、劇症1型糖尿病のように発症機序が未知の病気では限界があるため、全ゲノム関連解析という網羅的な解析法が用いられた。

 日本糖尿病学会1型糖尿病委員会所属の国内18施設で2008~2018年に行った共同研究により、劇症1型糖尿病の発症に関与する遺伝子が、HLA遺伝子に加えて、12番染色体長腕のCSAD/Lnc-ITGB7-1という領域にあることが明らかになった。

 HLA遺伝子は免疫反応で中心的な役割を担う遺伝子。自己免疫疾患や免疫関連疾患の多くがHLA遺伝子と関連を示し、1型糖尿病でも関連が報告されている。

 一方、ITGB7は、免疫を担当する白血球などの表面に発現し、免疫細胞が標的細胞にむけて移動したり、接着したりする時に働く分子の構成成分。この分子に対する抗体が、別の免疫関連疾患である潰瘍性大腸炎の治療に最近臨床応用された。

 今回同定した遺伝子は、この分子の発現を増やすことで1型糖尿病の劇症化に関与している可能性が考えられる。

劇症1型糖尿病の新たな予防法や治療法への応用を期待

 この遺伝子は一般的な自己免疫性1型糖尿病とは関連を示さず、劇症1型糖尿病だけと特異的に関連することから、「劇症」という重篤な発症経過・病態を規定する重要な遺伝子と考えられる。

 遺伝子領域の塩基配列を詳細に解析した結果、遺伝子の構造そのものが原因ではなくて、この遺伝子が近傍にあるITGB7の発現量を変化させることで劇症1型糖尿病の発症に関与している可能性が高いことが示された。

 劇症1型糖尿病は、発症経過や病態が激烈・重篤であることに加えて、原因が必ずしも明らかでないことが、根本的解決と適切な対策を阻害している。発症にかかわる遺伝子を特定し、その機能を解析した今回の研究は、このような問題点を解決し、劇症1型糖尿病対策に大きく役立つものと期待される。

 がん免疫療法(免疫チェックポイント阻害薬)にともない1型糖尿病、特に劇症1型糖尿病を発症することが注目されているが、今回の研究は劇症1型糖尿病の対策にも役立つと考えられ、がんの免疫療法をより安全・確実に行うことにつながる可能性もある。

A genome-Wide Association Study Confirming a Strong Effect of HLA and Identifying Variants in CSAD/lnc-ITGB7-1 on Chromosome 12q13.13 Associated with Susceptibility to Fulminant Type 1 Diabetes(Diabetes 2018年12月14日)
1型糖尿病の成因、病態に関する調査研究委員会(日本糖尿病学会)
近畿大学医学部・大学院 医学研究科

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