注目される「血糖トレンド」 血糖変動の「見える化」が糖尿病患者を支援

2018.09.14
 ある時点での血糖値をみるだけでなく、血糖値の推移や変動を細かく把握して、高血糖や低血糖の頻度を減らそうという「血糖トレンド」という考え方が注目されている。
 「血糖トレンド」の最新の情報を紹介するメディアイベントが開催された。
「血糖トレンド」啓発キャンペーン メディアイベント

患者自身が血糖変動を知れば糖尿病治療はもっと良くなる

 アボット ジャパンは、糖尿病患者を対象に、「血糖トレンド」を啓発するキャンペーンを開始した。9月5日に東京でメディアイベント「血糖トレンド―SEE MORE、DO MORE 血糖トレンドで変わる糖尿病治療」を開催した。

 血糖値は1日のなかでも時間とともに変化し、食事の内容や量、運動やストレスなど、さまざまな要因で変動する。ある時点での血糖値をみるだけでなく、血糖値の推移や変動を細かく把握して、高血糖や低血糖の頻度を減らそうというのが、「血糖トレンド」の考え方だ。

 糖尿病合併症の発症や進行を抑制するために、良好な血糖コントロールが必要だ。患者自身が自分の血糖変動を知ることができれば、糖尿病をより適切に管理できるようになる。

 従来の血糖測定では測定時の値しか分からなかったが、持続血糖測定(CGM)やフラッシュ グルコース モニタリング(FGM)という新しいテクノロジーが開発され、睡眠時も含め24時間連続でグルコース値を測定できるようになった。血糖の変動や推移を線で表示することで、血糖コントロール状況の全体像や傾向を容易に把握できるようになる。

 「血糖トレンド」(変動)を「見える化」することで、糖尿病患者は無自覚性低血糖や高血糖の発現を把握することができ、それをもとに医療従事者はより良い治療判断をできるようになる。

「血糖トレンドの見える化」がもたらすこれからの糖尿病治療

ソレイユ千種クリニック 院長 木村那智 氏

 発表会に登壇したソレイユ千種クリニック院長の木村那智氏は「糖尿病の三大合併症(網膜症・腎症・神経障害)はHbA1cを改善することでかなり克服できるようになってきたが、大血管障害(心筋梗塞・脳梗塞・動脈硬化症)はHbA1cだけを下げてもリスクは思うように減らない」と言う。

 「細小血管障害を抑制するためには空腹時血糖値およびHbA1c値を改善することが重要だが、大血管症を抑制するためには、さらに食後高血糖も改善する必要がある」と指摘している。

 血糖値は常に変動していて、糖尿病と診断されていない人でも食後の血糖値が140mg/dL以上になることは珍しくない。こうした食後の血糖値の急激な上昇は「血糖値スパイク」と呼ばれる。

 血糖値スパイクが活性酸素の発生をうながし、血管に酸化ストレスを与え、動脈硬化を促進すると考えられている。その結果、糖尿病の合併症、とくに心筋梗塞のリスクが高くなる。

血糖トレンドの安定化が血糖コントロールに必要

 血管合併症を抑制するための標準的な血糖コントロールの指標はHbA1cだ。一般的にはHbA1cを7%未満とし、高齢者の場合はこれをやや高めに設定することが推奨されている。

 しかし、HbA1cは過去1~2ヵ月間の平均血糖値をあらわす指標で、測定時点から過去にさかのぼって一定期間の平均的な血糖レベルをひとつの数値であらわすものなので、血糖の日内変動や日差変動は把握できない。HbA1cだけを見ていると、血糖値スパイクや低血糖を見逃すことになる。

 血糖変動が大きい患者の2ヵ月間も、変動の小さい患者の2ヵ月間も、血糖の平均値が同じであればHbA1cは同じ値を示してしまう。しかし、血糖変動が大きい患者のほうが、血糖変動が小さい患者よりも動脈硬化が進みやすい。

 「血糖コントロールの理想的な目標は、血糖トレンドを安定化すること。1日を通じて低血糖を予防しながら高血糖を是正し、血糖の日差変動や日内変動を平坦化するようコントロールすること」だという。

 実際、血糖トレンドを活用している患者では、低血糖の発現時間が短くなることや、日内変動などの幅が小さくなり、血糖変動の質が良くなることなどが明らかになっている。

「無自覚性低血糖」と「夜間低血糖」がもたらすリスク

 HbA1c値の低下を目標とする治療によって引き起こされるおそれがあるのが低血糖だ。最近の調査では、インスリン治療によりHbA1cが良好な患者では、医療従事者が考えているより高い頻度で、低血糖が起こっていることが分かってきた。糖尿病患者の3人に1人が1年間に低血糖を経験しているという報告がある。

 重症低血糖はけいれん、意識障害、死につながりうる危険な状態だ。最近の研究では、重症低血糖が致死的不整脈を誘発する可能性もあり、心血管疾患や死亡のリスクを上昇させる可能性があることが分かってきた。

 とくに注意を要する低血糖は「無自覚性低血糖」と「夜間低血糖」だが、患者本人が気づかないため、従来の方法だけでは十分に対処できない。

 ふだんから低血糖がよく起こる患者や、低血糖症状の自覚が少ない患者は、「汗をかく」などの症状が出ないまま、無自覚性低血糖になることがある。

 また、低血糖は通常は自覚症状があるため、気づいたときに患者がブドウ糖などを摂取することで対処できる。しかし睡眠中の低血糖は自覚症状があらわれにくいため、捕食やブドウ糖の摂取が遅れて重症化する場合がある。

 夜間低血糖が起きているかを確かめるために、たとえば血糖値が低くなる深夜2~3時頃に血糖自己測定(SMBG)を行う方法があるが、SMBGで分かるのは測定時点の血糖値のみで、また、患者が夜間に起きて指先を穿刺してSMBGを行うのは実際的ではない。従来の方法だけでは、夜間低血糖に対策するのは不十分だ。

 低血糖の実態を把握するためには、血糖値を24時間連続で測定するツールが有用だ。これらによって、SMBGが行えない時間帯の血糖変動や、とくに夜間の血糖値の推移を明確にするため、低血糖の存在を可視化することができる。
 「FreeStyle リブレ」や「FreeStyle リブレPro」で測定されたデータを専用ソフトで読み込むと、グルコース値だけでなく、その変動データを実用的なトレンドやパターンにして表示する「アンビュラトリー グルコース プロファイル」(AGP)と呼ばれるレポートを簡単に作成できる。これにより、医療従事者や患者は、日常におけるグルコースプロファイルを視覚的かつ容易に把握でき、より適切な治療管理を行えるようになる。

血糖トレンドを把握できれば多くの気付きを得られる

 アボット ジャパンは、500円玉大のセンサーを上腕に貼り付けるだけで、グルコース値を最長14日間にわたり連続測定できる「FreeStyle リブレ」などの持続血糖測定用デバイスを提供している。FreeStyle リブレを装着している間は食事前や服薬後など好きなタイミングで患者がグルコース値を測定できる。*
* 測定結果にもとづく臨床診断は、医師が総合的に判断して行うよう定められている。また、FreeStyle リブレで低血糖が報告されたときなどは、血糖値が急激に変化している可能性があるので、血糖自己測定を行う必要がある。
 「日々の血糖トレンドを把握することで、医師も患者も多くの気付きを得ることができます」とアボット ジャパン ダイアベティスケア事業部 マーケティング本部 マーケティング本部長の安藤友彦氏は言う。

 イベントには、数年前に2型糖尿病を発症したプロレスラーの蝶野正洋さんや、フリーアナウンサーの大神いずみさん、自身が1型糖尿病でブログなどで積極的に情報発信をしている幸せ料理研究家の相田幸二さんが登場し、血糖トレンドを活用した糖尿病のコントロールについて対談した。

 蝶野さんは10年前に医師から糖尿病予備群と指摘されたが、血糖値が高いということは具体的にどういうことかイメージできず、どのようなときに高血糖になるのかも分からないので、生活習慣を効果的に改善するのは難しかったという。

 現在は2型糖尿病の治療を続けており、「数値をうまくコントロールできるようになると、古傷の膝、肘、首、腰の痛みもやわらぐ」と語っている。

血糖トレンドを実際に活用 生活習慣の影響が手に取るように分かる

 大神さんは家族が糖尿病予備群と指摘されて以来、それまで以上に食事と運動に気を配るようになった。栄養バランスに配慮し、血糖値スパイクに対策した食事メニューを作り、スマートフォンのアプリで食事管理もしている。体重をコントロールし、ダンベルで筋トレをするとなど運動も日課にしている。

 血糖トレンドがすぐに分かると、食事や運動の効果が目に見えるかたちで把握できるようになり、生活改善をしやすくなり、家族の健康管理にも目が届くようになるという。

 相田さんは、インスリン治療と血糖コントロールにFreeStyle リブレを活用している。FreeStyle リブレを使えば、血糖トレンドを自分でチェックし、24時間の推移をグラフで見られるようになり、自己管理は大きく向上しているという。

 食事では炭水化物の質と量に配慮しており、なるべく精白米ではなく玄米などの精製されていない穀物をとるようにしているという。食事が血糖値にもたらす影響を、FreeStyle リブレですぐに確認できる。

 相田さんは「血糖トレンドを簡単に把握できるFreeStyle リブレのような新しい医療を、1型糖尿病とともに頑張っている子供たちにも役立てて欲しい」と語っている。

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