「一生続く不安と、どう向き合えばいいのか」 インスリンとの歩き方
1型糖尿病患者の遠藤伸司さんによる連載「インスリンとの歩き方」は、第20回「一生続く不安と、どう向き合えばいいのか」を公開しました。連載「インスリンとの歩き方」へ ▶
執筆者の遠藤さんは、中学生の頃に1型糖尿病を発症。以来、約30年間の療養生活の中で、留学や進学、就職、そして転職、プライベートまで幅広い経験を積み、なにかと無理をすることもあったようです。
連載では、そんな遠藤さんの半生を、糖尿病と上手につきあうためのコツやノウハウを中心に、実体験のエピソードを交えて語っていただきます。1型糖尿病患者さんをはじめ、2型糖尿病患者さん、糖尿病医療に携わる方々は、ぜひご一読ください。
第20回 一生続く不安と、どう向き合えばいいのか(本文より)
「つまりね、1型糖尿病である、あなたの人生は、健常者の人生に比べると不安がひとつ多いのよ」
恵比寿の飲み屋で酒を飲みながら、「彼女」ではない友人の女の子が僕に言った。気の強い子で、その日はその子の引越しを手伝わされた。駅から徒歩3分の3LDK、壁紙の白い部屋で、ブラウン管の巨大なテレビを設置したり重い家具を運んだり、と散々こき使われた。
そのお返しに、その子のおごりで、僕らは食事をしていた。僕は車で来ていたので、向こうだけが酒を飲んでいた。
「僕の人生を要約すれば、確かにそうかもしれない。ただね、その糖尿病の不安が、また別の不安、たとえば合併症への不安や寿命への不安も生むから、僕はいつも不安だらけなんだよな...」
率直にネガティブな意見を返してみたが、彼女の反応はなかった。まあ、いいや。僕はうまそうな赤身の鮪をしょうゆにつけて、ペロリと食べた。僕の横では、無表情の彼女がぐいっと日本酒を飲んだ。
僕は、もう一度、彼女にくらいつく。
「じゃあ、君の言うひとつ多い不安と闘うために、僕はどうしたらいい?」