1型糖尿病発症から10年、忍び寄る合併症 「インスリンとの歩き方」
1型糖尿病患者の遠藤伸司さんによる連載「インスリンとの歩き方」は、第16回「徐々に襲いかかる合併症」を公開しました。連載「インスリンとの歩き方」へ ▶
執筆者の遠藤さんは、中学生の頃に1型糖尿病を発症。以来、約30年間の療養生活の中で、留学や進学、就職、そして転職、プライベートまで幅広い経験を積み、なにかと無理をすることもあったようです。
連載では、そんな遠藤さんの半生を、糖尿病と上手につきあうためのコツやノウハウを中心に、実体験のエピソードを交えて語っていただきます。1型糖尿病患者さんをはじめ、2型糖尿病患者さん、糖尿病医療に携わる方々は、ぜひご一読ください。
第16回 徐々に襲いかかる合併症(本文より)
1型糖尿病になって10数年が経過して、僕は20代の中頃になった。低血糖の対処やインスリンの注射、血糖測定など、まあ面倒なことは多いけれど、1型糖尿病との生活にはだいぶ慣れてきた。けれど、僕にはひとつだけ、どうしても慣れないことがあった。それは毎月の診察で、ドクターの口から「先月のHbA1cの結果」が言い渡されるあの瞬間だ。
合併症の恐怖
ドクターは診察室で冷静に、いつも僕のHbA1cの値を教えてくれるけれど、患者の僕としては、内心とてもビクビクしながら、いつかいつかとその瞬間を待っているのだ。
ただ、あの深夜に起こす低血糖の影響なのか、それとも、最近導入した新型のインスリンである持効型溶解インスリンのおかげなのか、8%~9%(JDS値、以下同)が当たり前だった僕のHbA1cは、ときどき8%を切るようになった。
8%台と言われれば、僕にとっては少し後悔するHbA1cの値で、9%台と言われれば、「やばい!」とかなり焦る数値である。この辺りの数値だと、嫌でも糖尿病の三大合併症と言われる腎症、網膜症、神経障害への不安が頭をかすめる。塩分制限とか、透析とか、レーザー治療とか、失明とか、インポテンツとか、壊疽とか......嫌な連想が、自動的に思い浮かんでしまうのだった。
だから合併症への不安があるときには、ときどきドクターと話して、より正確に腎機能を調べてもらったりした。自宅で蓄尿して、再度、病院へ持参する類の検査だった。けれども、その腎機能にも合併症はみられなかったし、4カ月に一度行っている眼科での眼底検査でも合併症は起こっていなかった。ただ、視力に関しては、既に0.1を切ってはいたけれど。
なぜHbA1c 8%を切ったのか?
本来は、この理由をできるだけ正確にドクターと推察し、今後に活かせるようにしておくことは、とても大切な作業だと思う。けれども、当時の僕はそんなこと深く考えもしなかったし、もちろんドクターへ相談するための自己管理ノートも持参しなかった。「先月は夜中に意識もなく勝手にチョコレートを食べた」とも言えなかった。ただ、7%台だったときには、(あの深夜の)低血糖が多かったから7%台になったのだ、と自分で勝手に決めつけて診察室を出た。
そして、僕は仕事に邁進した。