初めての低血糖と思春期 連載「インスリンとの歩き方」第2回公開
先月からスタートした1型糖尿病患者の遠藤伸司さんによる連載「インスリンとの歩き方」は、第2回「人前で低血糖になるな」を公開しました。意味深なタイトルですが、その真意とは?
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執筆者の遠藤さんは、中学生の頃に1型糖尿病を発症。以来、約30年間の療養生活の中で、留学や進学、就職、そして転職、プライベートまで幅広い経験を積み、なにかと無理をすることもあったようです。
連載では、そんな遠藤さんの半生を、糖尿病——特にインスリン製剤と上手につきあうためのコツやノウハウを中心に、実体験のエピソードを交えて語っていただきます。1型糖尿病患者さんをはじめ、2型糖尿病患者さん、糖尿病医療に携わる方々は、ぜひご一読ください。
第2回 「人前で低血糖になるな」
(本文より)
2ヶ月の入院生活を終え、退院手続きを済ませて病院の自動ドアの前に立った。扉が開くと真夏で太陽が歩道を焦がすほどの暑い日だったが、目の前に広がった景色は、爽快で美しいものだった。普通の生活に戻れる喜びに、活力が湧きあがるのを感じた。
その一方で、インスリンの入った瓶(バイアル)、赤いキャップのついたシリンジのプラスチック注射器、大きな血糖測定器、角砂糖、この4つを常に持ち歩くことが、その日から社会に戻るための僕の命綱となった。今のように気軽に注射できるペン型の注入器もなければ、小型で高性能な血糖測定器も当時はなかったのだ。
不安に感じていた1型糖尿病との生活の始まりは、意外にも杞憂に終わった。違いと言えば、両親はカロリー計算した食事を作り、僕は食事前に血糖測定と、瓶から注射器でインスリンを吸い、注射することだった。冷や汗や、焦燥感みたいな感覚が起きれば、低血糖を疑い、血糖を測り、角砂糖を食べた。
50歩100歩、そのくらいの差だった。なんだ、たいした事ないじゃないか。