膵島細胞の120時間保存に成功 膵島移植に道 産総研
2013.10.08
産業技術総合研究所(産総研)は、カレイから抽出される不凍タンパク質を用い、マウスの膵島細胞を4度の非凍結温度で120時間(5日間)保存するのに成功した。120時間保存した後の膵島細胞は、インスリン生産能力を保持していた。研究の詳細は、米オンライン科学誌「プロス ワン」に発表された。
膵島移植は、血液中のブドウ糖(血糖)調節に重要な役割を果たしている膵島組織を膵臓から分離し、糖尿病患者に移植する植療法で、酵素を使って膵臓から膵島を集め、局所麻酔だけで血液バッグから点滴の要領で患者の肝臓の血管内に注入する治療法。 インスリン依存状態で膵臓からインスリンが分泌されておらず、インスリン療法や食事・運動療法を行っても血糖コントロールが困難な患者や、重症低血糖を起こす患者では、膵島移植が適応となる。膵島細胞移植によってインスリン分泌が再開するため、インスリンを継続して投与する必要がなくなる。 膵島移植は、従来の膵臓移植に比べ患者への負担が小さく、膵臓そのものではなく細胞だけを移植するため拒絶反応が起きにくいので、免疫抑制剤も活用することで2~3回の膵島細胞移植で治癒できると報告されている。しかし日本では臓器の提供量が少なく、移植を行う上での地理的・時間的条件が制限されることが課題となっている。 膵島細胞を数日間非凍結温度保存できれば、空輸などの手段で離れた医療現場間で膵島細胞移植を行うことが可能になる。産総研が発表した今回の研究は、カレイの不凍タンパク質により4度でマウスの膵島細胞の保存期間を72時間から120時間まで延長したというもの。
不凍タンパク質が膵島細胞の保存期間を延長 移植治療の普及に期待
不凍タンパク質は、氷の表面に結合してその成長を止める機能をもったタンパク質だ。低温環境に適応した生物から発見されており、魚類由来のものは細胞膜にも結合して細胞の安定性を向上させるものもある。 産総研は、個々の不凍タンパク質の構造や性能を詳細に調べるとともに、食品分野や冷熱利用技術に不凍タンパク質を応用するための技術開発を行ってきた。カレイ類から得られる不凍タンパク質がいくつかの細胞に対して保護効果を発揮することが分かり、今回の研究でマウス膵島細胞に対する保護効果を評価した。 市販の細胞保存液は、無機塩、グリセロール、糖、アミノ酸などを含み、細胞の周囲の浸透圧やpHを整えてなるべく生体内に近い環境を作る働きをする。今回、タンパク質を含まない市販の細胞保存液に、各種の不凍タンパク質を溶かし、この細胞保存液を用いた場合のマウス膵島細胞の生存率を調べた。 不凍タンパク質として、国産のカレイ類の魚肉から精製した不凍タンパク質(AFPI)、寒冷な環境に生息する魚類であるワカサギ(AFPII)やタラ(AFGP)がもつ不凍タンパク質を用いた。対照実験として、細胞保護効果があることで知られる「ウシ血清アルブミン」(ウシの血清から精製される分子量約6万6000のタンパク質で、細胞保護作用をもつ)や「トレハロース」(2つのブドウ糖が結びついた糖類の1種で、細胞保護作用をもつ)を細胞保存液に溶解したものを用いた。 実験では、37度で培養したマウス膵島細胞を、10mg/mL濃度の不凍タンパク質を含む細胞保存液に浸し、4度の冷蔵庫内で保存した。実験開始時の生細胞数を100%として、保存開始から24、72、120時間後の生細胞の割合を調べた。 その結果、特にカレイ類のAFPIを用いた時に、120時間後でも約60%の高い生存率が得られた。これに対し、ウシ血清アルブミンやトレハロースを用いた時には、膵島細胞は72時間以内にほぼ死滅していた。また、このAFPIを含む細胞保存液を用いて、120時間非凍結温度下で保存した膵島細胞を体温付近(37度)に戻したところ、保存前と同レベルのインスリン分泌能力を保っていることも確認された。産業技術総合研究所(産総研)
[Terahata / 日本医療・健康情報研究所]