重症低血糖時の危機的状態を解明 国立国際医療研究センター糖尿病研究部
2013.09.02
重症低血糖時のバイタルサイン、QT延長、新規に診断された心血管疾患
米国糖尿病学会「Diabetes Care」に発表
重症低血糖を呈し救急搬送された1型糖尿病患者と2型糖尿病患者は、心血管疾患、致死的不整脈、死につながりうる危機的状態を呈していたことが、国立国際医療研究センター糖尿病研究部(野田光彦部長)が行った調査で明らかになった。研究成果は米国糖尿病学会の機関誌「Diabetes Care」に8月12日付で発表された。
重症低血糖はけいれん、意識障害、死につながりうる危険な状態である。最近の研究では、糖尿病患者における重症低血糖は心血管疾患や死亡のリスクを上昇させる可能性が示唆されている。また、重症低血糖が致死的不整脈を誘発する可能性も考えられている。しかし、重症低血糖時の全身状態や合併症などに関する詳細な報告がなく、重症低血糖に関して不明な点が多いのが現状だ。
国立国際医療研究センターの研究チーム(辻本哲郎医師、木村昭夫副院長・救命救急センター長、野田光彦糖尿病研究部長ら)は、2006年1月から2012年3月までに同院に救急搬送された重症低血糖患者をレトロスペクティブ(注1)に調査し、重症低血糖患者の全身状態や合併症、その後の短期的な臨床経過をカルテ、血液・尿検査、心電図、画像検査等で評価した。重症低血糖は自力での改善が不可能で、ブドウ糖静注等の医学的な介入を要する状態と定義した。来院時に心肺停止の状態であった患者は除外し、対象者は来院から状態が安定し病院を離れるか死亡するまでフォローした。
今回の研究では、糖尿病患者における重症低血糖時のバイタルサイン(注2)、QT間隔(注3)、新規に診断された心血管疾患を中心に評価し、重症低血糖時の全身状態を系統的に詳細に調査することを目的とした。
主な結果は次の通り--
・救急外来に救急車で搬送された5万9,602症例がスクリーニングされ、重症低血糖と診断された414症例が対象となった。血糖値の中央値(四分位範囲)は1型糖尿病群(n=88)と2型糖尿病群(n=326)でそれぞれ32mg/dL(24-42mg/dL)と31mg/dL(24-39mg/dL)で有意差は認められなかった(P=0.59)。
・重症低血糖時の1型糖尿病群と2型糖尿病群の各群において、重症高血圧(180/120mmHg以上)は19.8%と38.8%(P=0.001)、低体温(35.0℃未満)は18.0%と22.6%(P=0.37)、低K血症(3.5mEq/L未満)は42.4%と36.3%(P=0.30)、QT延長(QTc 0.44秒以上)は50.0%と59.9%(P=0.29)で認めた。
・重症低血糖時に新規に診断された心血管疾患とその後の死亡は2型糖尿病群においてのみ認められ、それぞれ1.5%と1.8%であった。また、両群とも重症低血糖時に外傷の合併を5%以上で認め、2型糖尿病群においては新規に診断された心房細動の合併も4.3%で認めた。2型糖尿病群の死亡例と生存例の血糖値はそれぞれ18mg/dL(14-33mg/dL)と31mg/dL(24-39mg/dL)であり明らかな有意差を認めた(P=0.02)。
http://ncgm-dm.jp/renkeibu/ 注1 レトロスペクティブの意味は「後ろ向き」。研究を開始する時点から事後的に(後ろ向きに)を遡って調査する研究を意味する。
注2 バイタルサインとは体温、血圧、心拍数などの生命徴候のことである。
注3 QT時間は心室筋の電気的興奮の始まりから終わりまでの時間を指す。QT延長は心電図上測定されるQTを心拍数で補正したQTcによって判定される。 【発表雑誌】
雑誌名:Diabetes Care
論文名:Vital Signs, QT Prolongation, and Newly Diagnosed Cardiovascular Disease during Severe Hypoglycemia in Type 1 and Type 2 Diabetic Patients
掲載日:2013年8月12日 Diabetes CareにOnline Ahead of Printで掲載
著者:辻本 哲郎、本田 律子、梶尾 裕、岸本 美也子、能登 洋、蜂谷 玲未、木村 昭夫、加計 正文、野田 光彦
責任著者:野田 光彦
参照URL:http://care.diabetesjournals.org/content/early/2013/08/06/dc13-0701.abstract
[Terahata / 日本医療・健康情報研究所]