「人工膵臓」実現に向け前進 夜間低血糖を減らすスマート機能

2013.07.01
 低血糖を感知する機能付きの「人工膵臓」は、1型糖尿病患者の夜間低血糖を低下させることが、臨床試験であきらかになった。第73回米国糖尿病学会(ADA)(6月21日~25日、シカゴ)で発表された。
第73回米国糖尿病学会(ADA)年次学術集会
 インスリンポンプと持続血糖モニター(CGM)を組み合わせた「人工膵臓」の研究開発が進めてられている。このほど新型の人工購臓が夜間低血糖の発現率と持続時間を減らすことがあきらかになった。

 米パークニコレット国際糖尿病センター(ミネアポリス)のRichard Bergenstal氏らは、低血糖が発現し一定の数値を下回ったときに、インスリンポンプからのインスリン投与が一時的に停止するプログラムを組み込んだ「人工膵臓」の臨床試験を行った。

 インスリンポンプは研究助成を行った米メドトロニツク社製のMiniMed 530Gシステムを用いた。手の平に収まるほどの大きさで、皮下に挿入された細いチューブから少量のインスリンを持続的に自動注入する。一方、CGMセンサーは、5分ごとに血糖値を測定し、血糖上昇または低下を知らせるアラーム機能がついている 。

 追加されたプログラムは、ポンプでインスリンの基礎分泌を制御するとともに、CGMセンサーが低血糖を感知し前もって定められた閾値に連した場合に、インスリン投与が2時間停止するというもの。

 Bergenlstal氏ら研究チームは、1型糖尿病患者247人を、従来型の「人工膵臓」を使用する群121人と、閾値対応機能を追加した「人工膵臓」を使用する群126人に無作為に振り分けた。3ヵ月使用してもらい、血糖コントロールや低血糖の頻度を比較した。

 閾値対応機能が付いている場合、夜間低血糖が起きるとポンプからのインスリン投与が自動的に停止し、患者にアラームで知らせる。患者は目を覚まして、ブドウ糖を含むジュースなどを摂取することもできるが、アラームに気づかなかった場合は、2時間後、血糖値が上昇しているのを確認した後でインスリン投与が自動的に再開する。

 結果として、閾値対応機能を追加した「人工膵臓」を使用した群では、夜間の低血糖(70mg/dL以下)の出現率は32%低下し、低血糖の持続時間と重症度は38%低下した。

 「低血糖は意識障害を引き起こし、ひどいときには死亡することもある、深刻な緊急事態です。特に夜間低血糖に悩まされている1型糖尿病患者は多く、患者と家族にとって大きな関心事となっています」と、Bergenstal氏は説明する。

 「今回の研究は、閾値対応機能を追加したシステムが、夜間低血糖を減らすことを確かめた最初の臨床試験です。テクノロジーの進歩は、患者にとって恩恵となります。次のステップとして、CGMシステムで読み取った血糖値をもとに、ポンプの注入インスリン量を自動的に制御する機能の付いた完全な人工膵臓の実現が期待されます」(Bergenstal氏)。

 低血糖を防ぎながら、同時に高血糖にも対応できるプログラムを開発するために、食事や運動などの生活活動や、血糖変動に影響するインスリン以外のホルモンに対応し調整するプログラムが必要となるという。

Major Advance Toward an Artificial Pancreas: "Smart" Device That Reduces Low Blood Glucose Levels Overnight Undergoing FDA Review(米国糖尿病学会 2013年6月22日)

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