アジア・西太平洋地区の糖尿病が焦点に 京都で国際学会を開催

2012.11.07
11月24~27日に京都でIDF-WPR会議・AASD学術集会
 第9回国際糖尿病連合西太平洋地区(IDF-WPR)会議と第4回アジア糖尿病学会(AASD)学術集会が、11月24~27日に京都で合同開催される。これに先立ち、11月5日に都内でメディア向け事前説明会が開催された。IDF-WPR会長で関西電力病院院長の清野裕氏や、第4回AASD学術集会会長を務める中部ろうさい病院名誉院長の堀田饒氏らが、アジアにおける糖尿病の現状や合同開催の意義などを解説した。

アジア・西太平洋地区の研究者が集結 糖尿病対策を検討

9th IDF-WPR Congress
4th AASD Scientific Meeting
http://www2.convention.co.jp/idfwpr2012/
 国際糖尿病連合(IDF)は世界を7地区に分割し糖尿病人口と予測値を算出している。それによると、日本が含まれる西太平洋地区(WPR)は世界でもっとも人口の多い地域で、糖尿病人口も約1億3,200万人と多い。糖尿病の有病率は上昇しており、糖尿病人口は今後20年で1億8,790万人に増加するとみられている。

 また、アジア糖尿病学会(AASD)によると、2型糖尿病においては、日本や韓国、中国などのアジア人は白人に比べインスリン分泌能が低く、インスリン抵抗性が悪化しやすいという、人種や民族に共通する病態が認められる。

西太平洋(WP)地区は39の国と地域により構成される:
インドネシア、オーストラリア、韓国、カンボジア、北朝鮮、キリバス、クック諸島、サモア、シンガポール、ソロモン諸島、タイ、中国、ツバル、ティモール、トンガ、ナウル、ニウエ、日本、ニュージーランド、バヌアツ、パプアニューギニア、パラオ、フィジー、フィリピン、ブルネイ、ベトナム、マーシャル諸島、マレーシア、ミクロネシア、ミャンマー、モンゴル、ラオス

生活スタイルが変化し糖尿病が急増 アジア人に適した治療が必要

 国際糖尿病連合(IDF)の調査によると、日本を含む西太平洋地区の糖尿病人口は、世界全体の36%を占める。成人人口の糖尿病有病率は2010年は5.0%だったが、今後20年で6.4%まで上昇すると予想されている。

 有病率の増加は、1970~89年と比べ90~2005年では韓国が約5倍、インドネシアやタイが約4倍弱と、いずれも米国の1.5倍を大きく上回っている。この地域では30歳代の糖尿病が増えており、米国に比べ2倍近い増え方だという。

 清野氏は、背景に急速な経済発展や生活習慣の欧米化があると指摘した上で、「こうした生活スタイルの変化を否定するだけでは解決できない。現状を考慮した上で、アジア人に適した療養指導を行うことが重要だ」との見解を示した。

 同氏は、有病率の高さだけではなく、糖尿病の合併症による足病変についても言及した。アジアでは、足病変による切断率が欧米と比べて極めて高く、全切断率はフィリピン(71.4%)やタイ(65.4%)、インドネシア(40.0%)と高い比率を示している。中には宗教上の理由などから切断が行われず、症状が重篤化する例もあるという。

 日本ではフットケアを学びたいというWPR地域の医師向けのフットケア教育や研修を実施したり、現地指導に赴くなど、アジア諸国へのフットケアの普及に力を注いでいる。今学会では、フットケアをテーマにしたワークショップや口演も予定されているという。

 一方、堀田氏は、白人人口とは異なる糖尿病の病態を呈するアジア人における研究や分析、世界に向けた情報発信の重要性を唱えた。今後は、アジアのみならず、中近東やアフリカで糖尿病人口が集中するとの見方を示し、AASDではアジア人に適した糖尿病の管理や治療の確立を目指すと述べた。アジア人を対象とした病態分析と臨床治験に関する情報収集が求められており、今回の学会の意義は大きいとあらためて強調した。

 今学会の特色のひとつとして、医師やコメディカルスタッフに広く参加を呼びかけており、同時通訳を利用可能なセッションやシンポジウムも多数、用意されるという。さらに市民が参加できる公開講座やイベントも準備されている。

 社会に向けた啓発活動としては、11月14日の「世界糖尿病デー」に合わせて全国各地の主要施設や名所などをブルーにライトアップするイベントなどを紹介した。今年のブルーライトアップは、「世界糖尿病デー」当日に実施されるほか、今大会期間中に京都駅ビルや京都タワー、世界遺産である東寺、清水寺、二条城などがブルーに染め上げられる予定だ。

日本は糖尿病克服先進国に 山中伸弥氏の講演も企画

 同説明会では、日本糖尿病学会理事長で、東京大学大学院糖尿病・代謝内科教授の門脇孝氏も講演。同学会の目立った活動として、第2次対糖尿病戦略5ヵ年計画に基づき活動目標を示した「アクションプラン2010(DREAMS)」や、HbA1c値の国際標準化を目指して今年(2012年)4月に導入した日常臨床におけるNGSP値の採用を挙げた。

 同氏は「わが国の糖尿病患者は予備群を含めると2,210万人に上り世界第6位。中国では糖尿病有病数は9,240万人に上り世界1位。日本は糖尿病先進国となっている」と述べた。解決するひとつの鍵として、日本人や東アジア人においてインスリン分泌低下との関連が報告される遺伝素因であるKCNQ1やUBE2E2に言及。これらを考慮したテーラメイドの予防介入や療養指導を実現と、アジア人の糖尿病タイプに応じた個別化治療の確立を目指している。

 この他、同氏はiPS細胞を用いた再生医療の可能性にもふれ、1型糖尿病患者の膵臓や膵島細胞の再生や糖尿病合併症により障害された血管や神経の再生など具体例を挙げた。文部科学省は、iPS細胞研究の改訂版ロードマップ(工程表)で、膵臓と膵β細胞については2019年からヒトを対象とした再生医療の臨床研究を開始する方針を示している。

 なお今学会では、iPS細胞の作製でノーベル生理学・医学賞を受賞した京都大学iPS細胞研究所所長の山中伸弥氏による講演を企画しているという。

 アジア人を対象とした科学的エビデンスにもとづく糖尿病医療、患者の負担の少ない糖尿病医療、個別化した予防と治療、糖尿病の根治治療といった課題を克服するために、アジア各国の協同は欠かせない。

 門脇氏は「不名誉なことだが、日本がアジアで糖尿病先進国である現状がある。一方、今日では社会的な基盤の整備を含め、糖尿病を克服するための大きな科学的な裏付けが示されている。今学会を通して、日本がアジアの糖尿病克服先進国として世界のリーダーとなるべき役割を果たしていきたい」と力説した。

9th IDF-WPR Congress & 4th AASD Scientific Meeting

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