腕時計型心拍数加速度計で高血圧治療の質を向上。基底血圧の推算も

2012.10.30
 心拍数と消費カロリーの計測機能をもつ新規の腕時計型測定器の開発状況と、その高血圧臨床での有用性が、第35回日本高血圧学会総会(9月20~22日・名古屋)で報告された。横浜市立大学医学部社会予防医学教室・杤久保修氏らの発表。新計測器で把握された心拍数をもとに、高血圧の重症度と深く相関する基底血圧を推算する計算式も開発。睡眠の質や精神的ストレスを評価する機能もあり、"生活習慣モニター"的な用い方をすることで、質の高い高血圧治療につながる可能性がある。

 心拍数をユビキタスで連続的に測定する機器は既に存在し、生活習慣病運動療法の運動強度管理に用いられ始めている。しかし、胸に装着して計測するタイプでは、圧迫感が強く、呼吸や体動のノイズの影響を受けやすく正しく測定できなくなる点や、電極に接する皮膚がかぶれやすく、日常生活での長時間の装着に困難であるなどの弱点がある。  杤久保氏らは、これらを改良した腕時計型の心拍数加速度計の応用プログラムを、セイコーエプソン(株)と共同開発し、その臨床応用の可能性を検討した。

●高血圧群の夜間基底心拍数は、正常血圧群に比して有意に高値
 新計測器は、腕時計の裏面に取り付けられているセンサーによって4秒ごとに計測した脈拍数と、3軸方向の動きを感知する加速度センサーからの情報を、24時間連続で記録する。記録されたデータをタブレット携帯型端末などに無線送信し、データを自動解析できる。充電により連日の使用も可能。腕時計型であるため、胸装着タイプに比べ、センサーとデータ記録部分が一体化されており通信ノイズを受けず、また、皮膚がかぶれにくい、女性でも装着時に抵抗感なく使用可能、といった特徴がある。

 同氏らは、高血圧患者や正常血圧者を対象に、この計測器によるデータ収集とともにABPM(24時間血圧測定)やホルター心電図などの検査を施行し、それらの結果を比較した。  まず、心拍数については、新計測器でとらえた脈拍数がホルター心電図の心拍数と、日常生活動作時・睡眠時ともによく一致すること、高血圧患者の睡眠基底心拍数は正常血圧者に比べて有意に高いことが確認された。また、色素希釈法によって測定した睡眠時の1回心拍出量と新計測器による基底心拍数は、有意な負の相関が得られ、基底心拍数は心機能のひとつの指標となる(r=-0.58)。

●ABPMによらずに、基底血圧を推算
 次に、血圧については、高血圧の重症度分類と強い相関があると報告されている基底血圧に着目し、心拍数と血圧の相関から基底血圧を推計できないかを検討。高血圧患者や正常血圧者を含む116名を対象に行った計測データを基に、新計測器でとらえた基底心拍数と、昼間安静臥位後の心拍数・血圧から、基底血圧を推定する式を開発した。

 この計算式で求めた基底血圧とABPMの実測値との相関を調べたところ、収縮期血圧はr=0.90、拡張期血圧はr=0.91と、よく相関することが確認された。ABPMは高血圧治療に有用な多くの情報を入手できる検査だが、施行可能な施設・患者はまだ限られるため、その一部を代替する手段としての活用も考えられる。

●心拍数情報を応用し消費カロリー推定精度を高め、睡眠やストレス状態の把握も
 新計測器の消費カロリー推定機能は、既存機種にも使われ始めている3軸方向の加速度センサーに加え、心拍数を計算式に使用し、その推定精度を高めている。具体的には、酸素消費量が心拍出量と相関することから、心拍出量と心拍数の変換係数を算出し、これに加速度情報を加えて消費カロリーを推定するもので、既報の消費カロリー推定式と高い相関が確認された。

 このほか同器には、心拍数情報を睡眠の質(深睡眠時間)の判定に利用する機能や、加速度情報を参考にストレス状態を判定する機能(加速度が記録されている時の心拍数増加は身体的ストレス、加速度が記録されていない時の心拍数増加は精神的ストレスと判断する)もあり、運動強度の把握にとどまらず、生活習慣をより多角的にモニターできる。




 杤久保氏は結論として、「今後さらに検討が必要だが、新計測器は日常生活での夜間基底心拍数や基底血圧、心機能、消費カロリー、睡眠状態、ストレス負荷を推計できる。基底血圧は日差変動が少なくて再現性が高く、他の血圧関連パラメータよりも血圧重症度と高い相関があるが、本器と安静臥位血圧・心拍数からそれを推定でき、高血圧の重症度診断や生活習慣指導に有用と考えられる」とまとめた。

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