インスリンポンプ 診療報酬改定で選択しやすくなる可能性
2012.04.13
「持続皮下インスリン注入(CSII)療法」は、カテーテル(柔らかいチューブ)を皮下に自分で簡易的に留置し、携帯型インスリン注入ポンプを用いて、インスリンを持続的に注入する治療法。インスリンポンプを用いたCSII療法によって「インスリンの生理的分泌により近いインスリン投与が可能になり、生活スタイルにインスリン療法を柔軟に合わせることができるようになる」と考えられている。
インスリンポンプ療法は海外ではインスリン療法の1つとしてすでに普及し認知されている。米国では1型糖尿病患者だけでなく、2型糖尿病患者でも、あらゆる年齢層でインスリンポンプが使われている。 インスリンポンプと通常のインスリン注射を比べると、特にその違いが大きいのは、インスリンポンプでは基礎インスリン量を微調整して、時間ごとに必要な量を持続的に注入できることだ。インスリンポンプによって、血糖コントロールの目標を達成しやすくなる。 インスリンポンプの注入方法は、(1)微量のインスリンを、患者の血糖値変化の傾向に合わせプログラムした量を24時間にわたり持続して自動投与する「基礎分泌(ベーサル)注入」、(2)食事などによる血糖上昇に対応するためにインスリンの追加が必要な場合に、その都度投与する「追加(ボーラス)注入」、(3)高血糖を是正するために追加するインスリン注入、の3つに分けられる。 日本で使われている最近のインスリンポンプの機種には、便利なプログラム機能が備わっている。ベーサル注入ではインスリンの投与量を30分毎に0.05単位/時で設定でき、また、ボーラス注入では食事などでインスリンの追加が必要な場合にボタンを押すだけの簡単な操作で必要なインスリン量を0.1単位刻みで投与できる。その他、運動、シックデイ時など普段と行動パターンが異なる場合には、一時的にベーサル量を変更したり、食事の時間や内容に合わせてボーラスの注入速度をプログラムできる機能なども備わっている。 インスリンポンプは現在のインスリン療法のなかで、もっとも生理的なインスリン分泌に近い治療を可能にしている。患者にとっては、毎回の注射の必要がないなど利便性が高く、多くの面でQOL(生活の質)の向上を期待できる。 メリットの多いインスリンポンプだが、海外に比べ日本ではそれほど普及していない。課題となっていたのは医療コストだ。インスリンポンプ療法は2000年に保険適応の項目に正式に加えられた。しかしポンプ療法にかかるコストに対し、診療報酬の加算点数は十分ではなく、これは医療機関にとっては報酬が少ないことを意味していた。 診療報酬とは、医療保険制度のもと医療機関で患者に対して行われる診療行為につけられた厚生大臣が定めた点数のこと。この点数をもとに、それぞれの医療費が算出される。 日本の保険診療では、インスリンポンプは血糖測定器などと同じように医療機関から患者に貸与されるかたちで提供される。CSII療法を行う場合、注入セットや穿刺針などの消耗品についても、定められた診療報酬の範囲内で賄う必要がある。 医療機関からみると、インスリンポンプ療法を行えば行うほど従来の保険点数では不十分となる傾向もあり、このことがインスリンポンプの普及を妨げる要因でもあった。 2012年度の診療報酬改定では、インスリンポンプ療法を実施するために必要な診療点数について評価が行われ、点数が引き上げられた。「間歇注入シリンジポンプ加算」として、これまで1500点だったものが「1 プログラム付きポンプ」(2500点)、「2 1以外のポンプ」(1500点)」に変更された。「在宅自己注射指導管理料」として、これまで820点だったものがインスリンポンプを用いた「複雑な場合」は1230点に変更された。 両方を合計すると、インスリンポンプの機種によっては、患者の自己負担は4230円/月の増額になる。インスリンポンプ療法はインスリン注射に比べ比較的、高価になってしまう欠点はあるが、今回の診療報酬改定により、医療機関ではよりインスリンポンプ導入のための体制構築が可能となり、患者へのサポート体制や指導フォローアップも充実するとみられる。これにより、より多くの患者に安全で有効な治療機会の選択が増えるので、患者にとってもメリットは多い。
2012年度診療報酬改定
第2部 在宅医療-第2節 第1款 在宅療養指導管理料
写真提供:日本メドトロニック
第2部 在宅医療-第2節 第1款 在宅療養指導管理料
改定前 | 改定後 |
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【在宅自己注射指導管理料】
注 別に厚生労働大臣が定める注射薬の自己注射を行っている入院中の患者以外の患者に対して、自己注射に関する指導管理を行った場合に算定する。 医科診療報酬点数表に関する事項 (7) 「1」複雑な場合については、間歇注入シリンジポンプを用いて自己注射を行っている患者について、診察を行った上で、ポンプの状態、投与量等について確認・調整等を行った場合に算定する。この場合、プログラムの変更に係る費用は所定点数に含まれる。 |
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【間歇注入シリンジポンプ加算】 注 別に厚生労働大臣が定める注射薬の自己注射を行っている入院中の患者以外の患者に対して、間歇注入シリンジポンプを使用した場合に、第1款の所定点数に加算する。 医科診療報酬点数表に関する事項 (1) 「間歇注入シリンジポンプ」とは、インスリン又は性腺刺激ホルモン放出ホルモン剤を間歇的かつ自動的に注入するシリンジポンプをいう。 (2) 「プログラム付きシリンジポンプ」とは、間歇注入シリンジポンプのうち、基礎注入と独立して追加注入がプログラム可能であり、また基礎注入の流量について、1日につき24プログラム以上の設定が可能なものをいう。 (3) 入院中の患者に対して、退院時に区分番号「C101」在宅自己注射指導管理料を算定すべき指導管理を行った場合は、退院の日1回に限り、在宅自己注射指導管理料の所定点数及び間歇注入シリンジポンプ加算の点数を算定できる。この場合において、当該保険医療機関において当該退院月に外来、往診又は訪問診療において在宅自己注射指導管理料を算定すべき指導管理を行った場合であっても、指導管理の所定点数及び間歇注入シリンジポンプ加算は算定できない。 (4) 間歇注入シリンジポンプを使用する際に必要な輸液回路、リザーバーその他療養上必要な医療材料については、所定点数に含まれる。 |
出典:平成24年度診療報酬改定について(厚生労働省)
インスリンポンプに関する詳しい情報は下記サイトをご覧ください。
[Terahata / 日本医療・健康情報研究所]