低炭水化物食と低脂肪食のどちらが効果的か患者毎に予測 糖尿病の食事療法を個別化 J-DOIT1の成果を活用 京都医療センター
食事療法は個別に最適化すると最大の効果を得られる カロリーバランスだけでは不十分
研究は、京都医療センター臨床研究センター予防医学研究室の坂根直樹室長らの研究グループによるもの。研究成果は、「PLOS ONE」に掲載された。坂根室長らはこれまで、個人に合わせた生活習慣を提案する糖尿病シミュレーションモデルを開発し、その効果を検証している。
2型糖尿病発症予防のための介入試験「J-DOIT1」(研究リーダー:葛谷英嗣氏)の被験者2,607人(追跡期間の中央値は4.2年)のデータベースを用いて、体重やHbA1cの変化を個別に予測する糖尿病発症予測システムを開発した。
「J-DOIT1」では、空腹時血糖値の異常が示された2,607人を介入群と対照群に割付し、電話支援によるサポート介入を実施した大規模な試験で、追跡期間の中央値は4.2年だった。
生活習慣への介入は、2型糖尿病の発症・進行を遅らせることが示されているが、生活介入に対する反応には個人差があるため、どのような生活習慣を推奨するかを決定するのは難しい。
開発した糖尿病シミュレーションモデルでは、年齢・BMI・血圧・血液検査・食事・運動・睡眠・変化ステージなどの生活習慣などから症例を抽出し、モデルを個人毎に、最適なエネルギー摂取量や勧められる栄養素バランスを推定。また、エネルギー摂取量をどの程度減じるかで5年間の推移を予測し、さらには個人毎に炭水化物などの比率を変えることで最適な比率による各種の生体指標の変化を予測する。
研究グループは今回、「J-DOIT1」の被験者112人を選択し、個人毎の体重とHbA1cの時間経過に合わせて、メカニズム モデルを調整。インスリン感受性などの生理学的パラメータ、および食事摂取量などの生活習慣パラメータと結果の変動性との関係を評価した。
このシミュレーション分析により、減量のために個別に最適化された食事を予測し、被験者の体重とHbA1cの時間経過を予測した。生活習慣介入による体重とHbA1cの4年間の時間的変化を、それぞれ1.0±1.2kgと0.14%±0.18%の平均予測誤差で予測。
その結果、バイオマーカーがもっとも改善された被験者ともっとも改善されなかった被験者では、モデルで推定されたエネルギーバランスに有意差が示されなかった。エネルギーバランスだけでは体重などを適切に予測できない可能性が示された。
研究グループは、ベースラインから介入後1年までの期間に、体重の5~7%の減少を達成するための最適な食事を決定するためのシミュレーションを作成し、炭水化物、脂肪、タンパク質の摂取量にさまざまなランダムな変更を加えてシミュレートした。
その結果、設定された体重減少を達成するために、一連の最適な食事パターンがあり、そのパターンは各被験者で個別なものであることや、炭水化物と脂肪の変化に対する感受性は患者によって異なることが示唆された。
炭水化物と脂質の割合を変えたシミュレーションを行うことで、個別に低炭水化物ダイエットが向いているか、低脂肪ダイエットが向いているかを予測することができるという。
このアプローチにより、59人の被験者のうち48人に最適化した食事を特定できた。たとえば、被験者(ID 41)が5~7%の減量に成功するには、炭水化物摂取量は広い範囲で変化する可能性があるが、脂肪の変化は-25%から-10%のあいだでより狭く制限する必要があるという。被験者(ID 44)では、脂肪の変化は広い範囲で変化する可能性があるが、炭水化物の変化は-25%から-5%とより狭い範囲に制限する必要がある。
「作成した糖尿病モデルにより、生活習慣介入の結果として、体重と血糖管理の変化をシミュレートできることが示された。このモデルを用いることで、この患者には緩やかな低炭水化物食、この患者には低脂肪食といったように、糖尿病の食事療法を個別化できるようになる。医師や管理栄養士が、患者の目標に応じて個別の栄養戦略を最適化するのに役立つ可能性がある」と、研究者は述べている。