【新型コロナ】SARS-CoV-2の多種の変異株感染を防御できる「スーパー中和抗体」を作製 富山大学
新型コロナウイルス感染症の治療に役立つ中和抗体製剤の実用化を目指している。
多種の変異株の感染を阻害できるスーパー中和抗体を作製
富山大学などの研究グループは、1つの抗体で新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の野生株だけでなく、多種の変異株(アルファ株、ベータ株、カッパ株、デルタ株など)を防御できる、高力価(IC50:12~45ng/mL)なヒト型・モノクローナル中和抗体を新たに取得し、人工的な抗体作出に成功したと発表した。
この中和抗体は「1つの抗体で多種の変異株の感染を阻害できる」現時点で最も理想的な抗体であり、研究グループは「スーパー中和抗体」と命名した。
このスーパー中和抗体が感染防御できるSARS-CoV-2の変異株は以下の通り――。
・野生株:武漢で最初に発見されたSARS-CoV-2ウイルスの原型
・B.1.1.7(Alpha、英国):スパイク蛋白質のRBDにN501Y変異を有する
・B.1.351(Beta、南アフリカ):スパイク蛋白質のRBDにK417N/E484K/N501Y変異を有する
・B.1.617.1(Kappa,インド):スパイク蛋白質のRBDにL452R/E484Q変異を有する
・B.1.617.2(Delta、インド):スパイク蛋白質のRBDにL452R/T478K変異を有する
・B.1.427/429(Epsilon,カリフォルニア):スパイク蛋白質のRBDにL452R変異を有する
なお、P.1(Gamma、ブラジル)もB.1.351(Beta、南アフリカ)と同じ変異部位にK417T/E484K/N501Y変異を有するため、スーパー中和抗体が同様に感染防御できると考えられるが、実験による確認は未実施だという。
研究は、富山大学学術研究部医学系臨床分子病態検査学講座の仁井見英樹准教授、同免疫学講座の岸裕幸教授、小澤龍彦准教授、同微生物学講座の森永芳智教授、同感染症学講座の山本善裕教授、同大学学術研究部工学系遺伝情報工学講座の磯部正治教授、黒澤信幸教授、富山県衛生研究所ウイルス部の谷英樹部長らの研究グループによるもの。
スーパー中和抗体はスパイク蛋白質に直接結合しACE2との結合を阻害
富山大学の強みは「世界最速レベルで抗体を作製し性能評価できる技術」だとしている。同大学は14の国内外特許を取得しており、「高力価中和抗体をもつ患者を迅速に選定できる技術」「中和抗体を産生する細胞1個をチップ上で補足しその遺伝子を取り出す技術」「得られた遺伝子より大量の抗体を作り出す技術」「人工疑似ウイルスを用いた感染実験から抗体を迅速に評価する技術」などがある。これらを組み合わせると、目的とする抗体を、従来2ヵ月以上かかる行程を1~2週間で作製できるという。
SARS-CoV-2は、主にウイルス表面にあるスパイク蛋白質がヒトのACE2受容体に結合することで感染する。今回取得したスーパー中和抗体は、スパイク蛋白質に直接結合し、各種変異株の特異的エピトープに被ることなく、ACE2との結合を阻害する結果、SARS-CoV-2の多種の変異株の感染を防御することができる。
研究グループではまず、新型コロナウイルス感染症の回復患者の血清中の中和活性を測定し、高力価の中和抗体をもつ患者を選定した。次に、その患者の末梢血B細胞の中から、スパイクタンパク質に強く結合する抗体を作っているB細胞を選び出し、そのB細胞から抗体遺伝子をとりだして、遺伝子組換え抗体を作った。
この抗体の中から、中和活性のとくに高い(=感染を防御する能力に優れた)抗体を特定し、最終的に多種の変異株の感染を防御するスーパー中和抗体を取得するのに成功した。
取得したスーパー中和抗体は今後人工的に作製できるため、新型コロナウイルス感染症の治療薬として役立つことが期待される。利用法として、軽症・中等症から急激にウイルスが増殖し重症化に移行する段階で迅速に投与すると、重症化を強力に抑制できる(=救命率向上に貢献できる)と考えられる。
また、スーパー中和抗体は既存の変異部位を避け、「SARS-CoV-2の感染にとって重要な部分と結合する」と推定されるため、新たな変異株に対しても防御できる可能性があり、新規変異株の流行を早期に制圧できる可能性がある。
同大学は、製薬会社との共同事業化などにより実用化に向けた対応に取り組んでいる。