低用量アスピリンが糖尿病発症リスクを15%低下 貧血リスクを高める可能性も 65歳以上の高齢者1.6万人を調査

2023.09.20
 65歳以上の高齢者への低用量アスピリン(1日100mg)の投与は、2型糖尿病の発症リスクの15%低下と関連しているという、1万6,209人を対象とした解析結果を、オーストラリアのモナシュ大学が発表した。

 この結果は、アスピリンのような抗炎症薬が、2型糖尿病を予防したり血糖値を改善する可能性について、さらなる研究が必要であることを示唆しているとしている。詳細は、10月にハンブルクで開催される欧州糖尿病学会(EASD)年次学術総会で発表される予定。

 同大学が発表した別の研究では、アスピリンの毎日の服用は、主に70歳以上の高齢者の貧血リスクを20%上昇させることも示された。

低用量アスピリン投与が2型糖尿病の発症リスクの15%低下と関連

 65歳以上の高齢者への低用量アスピリン(1日100mg)の投与は、2型糖尿病の発症リスクの15%低下と関連しているという、1万6,209人を対象とした解析結果を、オーストラリアのモナシュ大学が発表した。

 解析の対象となった計1万6,209人の高齢者のうち、8,086人が低用量アスピリン投与群(1日100mg)に、8,123人がプラセボ群に無作為に割り付けられた。追跡期間の4.7年(中央値)に、995件の糖尿病発症が記録された(アスピリン群 459件、プラセボ群 536件)。

 その結果、アスピリン群ではプラセボと比較して、糖尿病発症が15%減少し、空腹時血糖値(FPG)の上昇速度が遅かった(FPGの年間変化差は-0.108mg/dL)。

 研究に登録された65歳以上の地域在住の高齢者は、心血管疾患・自立を制限する身体障害・認知症がなく、糖尿病発症は、糖尿病の自己申告、血糖降下薬の処方開始、および/または年1回のフォローアップ来院時の空腹時血糖値(FBP)が126mg/dL以上の場合と定義された。研究開始時に糖尿病を発症していた患者は除外された。コンピュータおよび統計モデリングにより、糖尿病発症とFPGに対するアスピリンの影響がそれぞれ評価された。

 「高齢者の2型糖尿病発症に対するアスピリンの影響は依然として不明の点があり、今回の研究では、高齢者の糖尿病発症およびFPGに対する低用量アスピリンの治療効果を検証するためランダム化比較試験を実施した」と、同大学公衆衛生・予防医学部のSophia Zoungas教授は言う。

 「アスピリン治療により、開始時に健康だった高齢者での糖尿病の発症は減少し、空腹時血糖値の上昇が時間の経過とともに遅くなった」としている。

 高齢者でのアスピリンの毎日の服用について、出血のリスクがあるため、各国の処方ガイドラインでは、心臓発作の後など医学的理由がある場合にのみ推奨している。

 Zoungas教授らは、過去にアスピリンの二重盲検プラセボ対照試験であるASPREE(高齢者のアスピリンによるイベント軽減に関する試験)の追跡調査を実施しており、その研究でも、アスピリンは高齢者の心血管疾患の発生率を減少しないものの、大出血のリスクは38%増加させることが示されている。

 「2018年に発表したASPREE試験の結果では、アスピリンは健康な自立生活を延長させないが、主に胃腸管での出血リスクの大幅な増加と関連していることが示された。今回の新しい発見は興味深いものだが、現時点では高齢者でのアスピリンの使用に関する臨床上のアドバイスを変更するものではないと」と、Zoungas教授は付け加えている。

低用量アスピリンは高齢者の貧血リスクを高める可能性が

 モナシュ大学が発表した別の研究では、アスピリンの毎日の服用は、主に70歳以上の高齢者の貧血リスクを20%上昇させることが示された。研究成果は、「Annals of Internal Medicine」に掲載された。

 研究は、ASPREE試験のデータを解析したもので、低用量アスピリンが投与されている高齢者に対し、貧血を定期的にモニタリングし、自身の健康や投薬について懸念がある場合は主治医と相談するべきだと提案している。

 ランダム化対照試験であるASPREE研究として実施されたもので、研究開始時に健康と判定されたオーストラリアと米国の高齢者1万8,153人を対象に、参加者の半数を低用量アスピリン群(1日100mg)、残りの半数をプラセボ群に無作為に振り分け、平均4.7年間にわたり追跡調査した。

 その結果、アスピリン群はプラセボ群と比較して、貧血のリスクが高いことに加えて、血液検査ではヘモグロビンの低下が速く、フェリチン(鉄を運ぶタンパク質)のレベルが低下していることが判明した。

 「アスピリンの副作用として出血が知られているが、高齢者の貧血の進行性発症に対するアスピリンの長期使用の影響を調べた研究は、これまでほとんどなかった。貧血は高齢者によくみられ、全身機能に影響を及ぼし、疲労、障害、抑うつ症状、認知障害を引き起こす可能性がある」と同大学公衆衛生予防医学部のゾーイ マッキルテン准教授は言う。

 「この研究は、アスピリン使用による貧血のリスクをより明確に示しており、その影響は腎臓病などの基礎疾患のある高齢者でより大きくなる可能性が高い」としている。

 「一部の高齢者にとっては、心臓発作や脳卒中の再発を防ぐために、アスピリンは重要な治療法として推奨されている。患者はアスピリンの毎日の服用について医師のアドバイスに従うようにし、主治医に相談しないで服用をやめるべきではない」と付け加えている。

Study shows that low-dose aspirin associated with a 15% lower risk of developing diabetes in people aged over 65 years (Diabetologia 2023年8月31日)
Low-dose aspirin may increase anaemia risk in healthy older adults: study (モナシュ大学 2023年6月20日)
Effect of Low-Dose Aspirin Versus Placebo on Incidence of Anemia in the Elderly (Annals of Internal Medicine 2023年7月)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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