血液中の代謝物が認知機能低下の予測因子になる可能性 アミノ酸は低値と、ケトン体は高値と関連 東北大学
血液中の代謝物は認知機能低下の予測因子となりうる
必須アミノ酸と非必須アミノ酸が多いと低値 ケトン体は高値と関連
東北大学東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)では、血漿中の代謝物(メタボライト)を網羅的に解析するメタボローム解析を、数万人規模で実施している。研究グループは今回、解析結果のうち60歳以上の高齢者を対象に、代謝物の主成分解析の結果と認知機能との関連を調べた。
その結果、ロイシン、イソロイシンなどの必須アミノ酸を含むパターン、もしくはグルタミン、セリンなどの非必須アミノ酸を含むパターンを相対的に多く有している群では、認知機能の低下している人の割合が低い一方で、アセトンなどのケトン体を含むパターンを相対的に多く有している群では認知機能が低下している人の割合が高いことが明らかになった。
欧米などの先行研究で、代謝物の組成と認知機能との関連が示唆され、血液中の代謝物は認知機能低下の予測因子となりうることが報告されているが、これまでアジアで数千人規模を対象とした研究はなかった。
研究は、ToMMoの小柴生造教授、寳澤篤教授、東北大学・学際科学フロンティア研究所木内桜助教らの研究グループによるもの。研究成果は、日本疫学会誌「Journal of Epidemiology」にオンライン掲載された。
「研究結果は、横断研究のため相関関係のみで因果関係は不明だが、バランスのとれた食事によって必須アミノ酸レベルを維持することの重要性や、代謝物のモニタリングが認知機能低下予防に有用である可能性を示している」としている。
血液検査により認知機能低下を早期発見できる可能性 予防にも有用
今回の研究は、ToMMoが2013~2016年に実施した地域住民を対象としたコホート調査のうち、宮城県在住の60歳以上のデータを用いた横断研究。
研究グループは43種類の代謝物を説明変数として、代謝物に対しデータの特徴をまとめる解析手法を用いパターンを特定した。従属変数は、ミニメンタルステート検査で評価した認知機能低下(23点以下)の有無とした。
統計解析を用い、関連する要因の影響を除外し、代謝物のパターンごとの、パターンの得点1点あたりの認知機能低下のオッズ比(OR)と95%信頼区間(CI)を算出した。計2,940人の参加者(男性 49.0%、平均年齢 67.6歳)のうち1.9%に認知機能低下がみられた。
多変量解析の結果、必須アミノ酸を含むパターンは、得点が高いほど認知機能低下者の割合が低く[OR 0.89、95%CI 0.80~0.98]、また非必須アミノ酸を含むパターンも、得点が高いほど認知機能が低下者の割合が低いことが分かった[同 0.81、同 0.66~0.99]。
一方、ケトン体を含むパターンは、得点が高いほど認知機能低下者の割合が高いことが示された[同 1.29、95%CI 1.11~1.51]。ケトン体は、脂肪の合成や分解の過程で産生される中間代謝産物だ。
「今後は長期の追跡調査により、ある時点の代謝物のデータがその後の認知機能変化を予測できる可能性について検討を行っていく予定。将来的には代謝物を指標とした介入研究の実施も必要と考えられる。血液サンプルを用いた認知機能低下の予測は、侵襲性の低い認知機能評価ツールの開発に発展する可能性がある」と、研究グループでは述べている。
東北大学東北メディカル・メガバンク機構 (ToMMo)
東北メディカル・メガバンク計画 (東北大学)
A principal component analysis of metabolome and cognitive decline among Japanese older adults: cross-sectional analysis using Tohoku Medical Megabank Cohort Study (Journal of Epidemiology 2024年7月6日)