【新型コロナ】感染拡大で日本の脳卒中入院患者数は減少 脳梗塞は1.9%、脳出血は3.9%減少
感染拡大期には脳卒中入院患者数は5.6%の大幅減少
新型コロナの拡大は、世界中のあらゆる地域で脳卒中診療体制や診療実績に影響を与えており、国内での動向を全国規模で検討する必要が求められている。そのため国立循環器病研究センターなどは、日本脳卒中学会の協力を受けて、同学会が認定する一次脳卒中センターの入院診療実績に関する調査を行った。
全国の一次脳卒中センター974施設のうち6割におよぶ576施設が調査に回答。このうち情報が充足していた542施設を対象に、脳卒中および各脳卒中病型の入院患者数を、新型コロナ拡大前(2019年1月~12月)と新型コロナ拡大下(2020年1月~12月)とで比較した。
その結果、全脳卒中入院患者数は、2019年の18万2,660人から2020年には17万8,083人と2.5%(95%信頼区間[CI]:2.4-2.6%)減少し、病型ごとにみると、脳梗塞で1.9%(95%CI:1.9-2.0%)、脳出血で3.9%(95%CI:3.7-4.1%)、くも膜下出血で4.6%(95%CI:4.2-5.0%)、それぞれ減少したことが分った。とくに出血性脳卒中である2病型での減少傾向が目立った。
2020年のうち、とくに感染者数が増加傾向にあった3~5月、7~8月、11~12月の感染拡大期7ヵ月は、2019年の同期間に比べて、脳卒中入院患者数は5.6%(95%CI:5.5%-5.7%)と大幅に減少し、逆に残りの5ヵ月間は前年に比べて2.0%増加した。また、人口100万人あたりの累積感染者数が多い上位5都道府県(東京、沖縄、大阪、北海道、神奈川)では、2019年に比べて2020年に脳卒中入院患者数が4.7%減少した。
新型コロナ拡大による行動変容が脳卒中入院患者数を減少させた可能性
一般的に、感染症を契機に脳卒中は発症しやすくなり、とくに新型コロナは脳梗塞を含む全身の血栓症を起こしやすくすることが知られている。その一方で脳卒中による入院患者数の減少が、世界各地から報告されている。研究グループの研究成果も同様で、とくに感染者数が増加した月や都道府県で減少した。
その原因として、軽症の脳卒中患者が感染リスクを懸念して病院受診を避ける傾向、いわゆる「受診控え」が起こった可能性や、感染対策による感染症の減少、社会生活の抑制による飲酒機会の減少、規則正しい生活、安静などにより、脳卒中発症者数そのものが減少した可能性が考えられるという。このように、新型コロナの本来の病態生理よりも、新型コロナ拡大に対する一般市民の行動変容が、脳卒中入院患者数を減少させた可能性がある。
脳卒中患者の受け入れ困難や人的資源の枯渇も
さらに、国内の大規模脳卒中センターの多くは、地域の中核総合病院であることから、新型コロナ患者に病床を割くことで、相対的に脳卒中患者の受け入れ困難例が増えた、あるいは病院内のクラスターの発生によって、入院不能な状態になったことが、入院数減少の一因として挙げられる。
2021年には感染者数の激増による病床逼迫が問題となり、2022年初頭には医療者の家庭内感染、あるいは家庭内濃厚接触指定により、多くの医療者が自宅療養せざるをえなくなり、脳卒中の急性期診療を行う病院とリハビリテーション病院の両方で人的資源が枯渇し、十分な病床運用ができず、結果的に脳卒中患者の受け入れ先がみつからない状況も報告されている。
研究は、国立循環器病研究センターの豊田一則副院長が分担研究者を務める厚生労働科学研究費補助金「脳卒中の急性期診療提供体制の変革に係る実態把握及び有効性等の検証のための研究」(研究代表者:坂井信幸・神戸市立医療センター中央市民病院脳血管治療研究部長)の研究グループによるもの。研究成果は、「Neurologia Medico-Chirurgica」にオンライン掲載された。
「新型コロナによる脳卒中入院数の減少の原因は多様であり、今回の研究のみでは解明できない部分もあるが、今後、包括的に対策をはかる必要がある」と、研究グループでは述べている。
「今回の研究は、合計で約36万人を対象とした世界的にも極めて大規模な集団における調査で、ウィズコロナの時代での、今後の国内脳卒中医療政策を考えるうえでも重要」としている。
国立循環器病研究センター
Impact of COVID-19 on the Volume of Acute Stroke Admissions: a Nationwide Survey in Japan (Neurologia medico-chirurgica 2022年6月24日)