GIP受容体シグナル抑制がサルコペニア改善に寄与 GIP受容体拮抗薬により骨格筋量が増加 秋田大学・関西電力医学研究所・岐阜大学
GIP受容体シグナル抑制はサルコペニア改善に寄与する
食後に消化管から分泌されインスリン分泌を促進する消化管ホルモンであるGIPが、骨格筋の間葉系前駆細胞の脂肪分化を促進し、サルコペニア(老化による筋量・筋機能の低下)の一因となることが、秋田大学・関西電力医学研究所・岐阜大学などの研究で明らかになった。
サルコペニアはさまざまな要因で引き起こされるが、そのひとつに骨格筋内脂肪(IMAT)蓄積がある。これは、いわば”牛肉の霜降り”のごとく、骨格筋内に脂肪が沈着している状態で、加齢とともにこのIMATが増加すると、筋力が低下することが示されている。
一方、GIPは脂肪細胞の成熟化を促し、肥満を促進する作用があることから、研究グループは、このGIPが間葉系前駆細胞の脂肪分化の調節を介して、IMATを増加させると考えた。
研究グループは、野生型マウスにGIP受容体の働きをブロックするGIP受容体拮抗薬を投与し、IMAT形成が抑制され、筋線維の断面積が大きくなることなどを確認した。
GIP作用シグナルを抑制することが、単にIMATを減らすだけでなく、骨格筋量の増加に寄与し、サルコペニアの改善につながるとしている。
研究は、秋田大学大学院医学系研究科代謝・内分泌内科学講座の髙橋侑也氏、藤田浩樹准教授、脇裕典教授が、関西電力医学研究所、藤田医科大学、岐阜大学と共同で行ったもの。研究成果は、「Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle」にオンライン掲載された。
GIP受容体拮抗薬により骨格筋内脂肪(IMAT)の形成を抑制でき骨格筋量が増加
身体を動かす筋肉である骨格筋には、身体を動かすだけでなく、血糖値をはじめとする代謝を調節する働きもあり、健康を保つうえで重要な役割を果たしている。
骨格筋は加齢にともない、量と機能が低下していく。骨格筋が老化するサルコペニアは、大きな健康課題となっている。
これまで、骨格筋内にある間葉系前駆細胞(FAPs)が、脂肪細胞に分化(特定の機能を持つ細胞に変化すること)して、IMATを構成することが知られていたが、これを調節するメカニズムについてはよく分かっていなかった。
一方、研究グループは長年、消化管ホルモンであるGIPについて研究しており、今回はまず、GIPの役割を明らかにするため、GIPの受け手であるGIP受容体を欠損している遺伝子改変マウス(GIP受容体欠損マウス)を高齢条件で検討した。
野生型マウス(GIP受容体が働いている通常のマウス)では、高齢になると体脂肪率が増え、逆に筋肉量が減り、握力が弱くなった。
しかし、GIP受容体欠損マウスは高齢になっても、骨格筋を含む除脂肪組織の割合が多く、脚の筋肉群は重量が大きく、また握力が強いことが示された。
続いて、野生型マウスの骨格筋から間葉系前駆細胞を取り出して、この細胞の性質を調べた。間葉系前駆細胞にはGIP受容体が発現しており、GIPを添加することで間葉系前駆細胞の脂肪分化の効率が上昇することが分かった。
実験的にIMAT形成を誘導する方法として、マウスの前脛骨筋にグリセロールを注射するグリセロール筋注法がある。GIP受容体欠損マウスでは、グリセロール筋注後のIMAT形成が抑制され、筋線維の断面積が大きくなっていることを確認した。
また、野生型マウスにGIP受容体の働きをブロックする薬(GIP受容体拮抗薬)を投与したところ、同様に、グリセロール筋注後のIMAT形成が抑制され、また、筋線維の断面積が大きくなることを確認した。
間葉系前駆細胞は、脂肪分化しIMAT形成に関わる一方で、未分化な間葉系前駆細胞は筋形成を促進する物質を放出して、筋肉量の維持に寄与することが近年注目されている。
「GIP受容体シグナルの抑制により、単にIMATを減らすのみならず、骨格筋量の増加に寄与することが考えられる。また、GIP受容体拮抗薬によりIMATの形成を抑制できたという研究結果は、サルコペニアに対する治療法開発の基盤となると期待される」と、研究グループでは述べている。
秋田大学大学院医学系研究科 代謝・内分泌内科学講座
関西電力医学研究所
Gastric inhibitory polypeptide receptor antagonism suppresses intramuscular adipose tissue accumulation and ameliorates sarcopenia (Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle 2023年10月27日)