糖尿病では厳格なLDLコレステロール管理だけでは冠動脈プラーク安定化を得られない 他の危険因子への介入も必要

2022.05.11
 欧州心臓病学会が推奨する厳格なLDLコレステロール管理療法(55mg/dL未満)は、非糖尿病患者のプラーク安定化には有効だが、糖尿病患者ではその効果が減弱している可能性があることを、国立循環器病研究センターと東北大学が明らかにした。

 糖尿病症例では、厳格なLDLコレステロール管理下でも、心筋梗塞発症の素地となる不安定プラークが存在するという。

 研究グループは、糖尿病ではLDLコレステロールだけでなく、他のリスクファクターへの介入も必要として、高中性脂肪血症に対する介入治療がプラーク進展・不安定化の予防に有効である可能性を指摘している。

厳格なLDLコレステロール管理は糖尿病では効果が減弱

 欧州心臓病学会が推奨する厳格なLDLコレステロール管理療法(55mg/dL未満)は、非糖尿病患者のプラーク安定化には有効だが、糖尿病患者ではその効果が減弱している可能性があることを、国立循環器病研究センターと東北大学が明らかにした。

 2型糖尿病は心筋梗塞などの心血管疾患発症リスクが高い疾患だ。心筋梗塞は、冠動脈のプラーク形成・進展・破綻により発症することから、その発症予防で、冠動脈プラークを安定化させ心筋梗塞発症を回避することが重要となる。

 研究グループはこれまで、LDLコレステロール管理療法は心筋梗塞の原因となる不安定プラークを安定化させ、心筋梗塞発症の予防に有効であることをすでに報告している。

 さらに、日本と海外のガイドラインでも、心血管疾患の発症予防でLDLコレステロール低下療法が推奨されており、その重要性が高まっている。近年、欧州心臓病学会は、心血管疾患発症既往を有する2型糖尿病患者では、従来のLDLコレステロール低下目標値(70mg/dL未満)よりもさらに厳格な値(55mg/dL未満)を目標として管理することを推奨している。

 しかし、こうした強力なLDLコレステロール管理療法によるプラーク安定化効果については十分に検証されていない。そこで研究グループは、冠動脈疾患をすでに発症した非糖尿病・糖尿病患者での、厳格なLDLコレステロール管理による冠動脈プラーク安定化の効果を検証した。

 研究は、国立循環器病研究センター心臓血管内科の岩井雄大医員、片岡有医長、野口暉夫副院長、東北大学大学院医学系研究科循環器内科学分野の安田聡教授らの研究グループによるもの。研究成果は、米国心臓病学会誌「Journal of American College of Cardiology: Cardiovascular Imaging」にオンライン掲載された。

厳格なLDLコレステロールにより、非糖尿病症例では冠動脈プラーク安定化をえられたが、2型糖尿病患者ではプラーク内脂質成分は変わらず、石灰化も変わらなかった

出典:国立循環器病研究センター、2022年

非糖尿病症例では厳格なLDLコレステロール管理下でも、脂質成分が豊富にあり石灰化も軽度

 研究グループは、国立循環器病研究センターと宮崎市郡医師会病院に入院した冠動脈疾患患者523例(非糖尿病症例277例、糖尿病症例246例)を後ろ向きに解析した。

 冠動脈プラーク内の組織成分を描出し、プラーク不安定に関与する脂質・石灰化成分の同定に有効な近赤外線スペクトロスコピー・血管内超音波法を用いて、厳格なLDLコレステロール管理下でのプラークの特徴を解析した。

 非糖尿病症例の6.4%で、LDLコレステロール55mg/dL未満を達成していた。こうした厳格なLDLコレステロール管理下にある非糖尿病症例では、冠動脈プラークの脂質成分が少なく石灰化を認め(=プラーク安定化)、LDLコレステロールの厳格な管理が冠動脈プラーク安定化で有効である可能性が示唆された。

 一方、2型糖尿病患者では、13.0%の症例がLDLコレステロール55mg/dL未満を達成していた。非糖尿病患者とは異なり、糖尿病患者での冠動脈プラークは、厳格なLDLコレステロール管理下でも、脂質成分が豊富に存在し石灰化も軽度だった。

 研究から、LDLコレステロール55mg/dL未満を目標とした治療は、非糖尿病症例のプラーク安定化で有効な可能性があるが、糖尿病患者ではその効果が減弱している可能性があり、厳格なLDLコレステロール管理下でも心筋梗塞発症の素地となる不安定プラークが存在することが示された。

高中性脂肪血症に対する介入治療は、糖尿病症例のプラーク進展・不安定化予防に有効である可能性

 日本でも2型糖尿病の患者数は増加傾向にあり、その予後を損なう心筋梗塞発症に対する予防対策の確立が求められている。研究グループはこれまで、糖尿病の冠動脈硬化症は早期から形成され進展することを報告しており、その有効な冠動脈硬化の安定化治療は重要としている。

 今回の研究では、糖尿病患者では、LDLコレステロールの強力な管理下でも心筋梗塞の原因となる不安定プラークは依然として存在していることを明らかにした。

 糖尿病は、脂質異常症の他に肥満・高血圧などの動脈硬化を惹起させる危険因子が集簇している病態だ。とくに、高中性脂肪血症、低HDLコレステロール血症や炎症・酸化ストレスの亢進もともなっており、LDLコレステロールの介入のみでは、十分なプラーク安定化効果を得ることが困難だった可能性を推察している。

 「本研究成果から、2型糖尿病症例ではLDLコレステロールだけでなく、他のリスクファクターへの介入も必要である可能性が示唆されます」と、研究グループでは指摘している。

 「近年、2型糖尿病症例に特徴的な高中性脂肪血症が残余リスクとして着目されています。すでに、責任著者は、高中性脂肪血症は冠動脈プラーク進展・不安定化に寄与することを報告してきました。これらの研究成果から、高中性脂肪血症に対する介入治療は、糖尿病症例のプラーク進展・不安定化予防に有効である可能性も期待されます」。

 研究グループは、中性脂肪低下療法によるプラーク安定化効果を検証する特定臨床研究を立案し、2021年6月より国立循環器病研究センター心臓血管内科が中心となり国内42施設と共同で研究を実施しているという(PEMA-CORE研究:片岡有、野口暉夫、安田聡)。

 「今後、2型糖尿病症例に対する有効な予防治療確立を目指し研究を進めていく予定です」としている。

国立循環器病研究センター心臓血管内科部門
東北大学大学院医学系研究科循環器内科学分野
Phenotypic Features of Coronary Atheroma in Diabetic and Nondiabetic Patients With Low-Density Lipoprotein Cholesterol <55 mg/dL (Journal of American College of Cardiology: Cardiovascular Imaging 2022年4月14日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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