【新型コロナ】ウイルス抗体を「その場」で測定 ワクチン効果を医療現場で30分で精密検査 理研

2021.09.15
 理化学研究所は、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対する抗体の量(抗体価)を、迅速に高感度で測定できる「ウイルス・マイクロアレイ検出システム」を開発したと発表した。
 これにより、今後重要となるSARS-CoV-2ワクチン接種の効果を、医療現場で効率的に精密検査することが可能になるとしている。

医療現場で採取した1滴の血液から30分程度で抗体量を定量測定

 SARS-CoV-2の抗体検査は現在、免疫クロマトグラフィー法による医療現場での定性的な簡易検査、もしくは検査センターへ血液サンプルを送付し、数日から1週間かけて行う定量的な精密検査しかない。

 免疫クロマトグラフィー法は、検体をろ紙の上に滴下するだけで、10~15分程度で検査結果を判定できる簡便さがあるが、肉眼にもとづく検査のため定性的であり、感度も低いことが課題になっている。

 そこで研究グループは、SARS-CoV-2を構成するヌクレオカプシドタンパク質とスパイクタンパク質をマイクロアレイチップ上に固定化し、それら複数のタンパク質に対する抗体量を完全自動で測定する、「ウイルス・マイクロアレイ検出システム」を開発した。

 この検出システムでは、医療現場で採取した1滴の血液から30分程度で抗体量を定量測定でき、感度は免疫クロマトグラフィー法の約500倍に上るという。

 同検出システムが実用化されれば、医療現場での精密検査が可能になる。ワクチン接種の必要性などをその場で容易に判断できるとともに、将来のパンデミックに備えた疫学調査も容易に行えるようになるものと期待している。

 研究は、理化学研究所開拓研究本部伊藤ナノ医工学研究室の森島信裕特別嘱託研究員、創発物性科学研究センター創発生体工学材料研究チームの秋元淳研究員、伊藤嘉浩チームリーダー(開拓研究本部伊藤ナノ医工学研究室主任研究員)らの研究グループによるもの。研究成果は、日本化学会の欧文誌「Bulletin of the Chemical Society of Japan」にオンライン掲載された。

SARS-CoV-2タンパク質を固定化したマイクロアレイチップによる抗体検出システム
(左)SARS-CoV-2は主にヌクレオカプシドタンパク質(青)とスパイクタンパク質から構成される。スパイクタンパク質はS1領域とS2領域(黄)からなり、S1領域には、RBD(レセプター結合ドメイン、赤)が含まれる。
(右)左の4種類のタンパク質をそれぞれ固定したマイクロチップをカセットに装填する。検体血清中にウイルスタンパク質に対する抗体があると結合する。結合した抗体を酵素修飾抗体で検出して化学発光させ、その化学発光シグナルをCCDカメラで撮影し、発光量を定量することで、それぞれの抗体の多寡を測定する。
理化学研究所、2021年

感度は免疫クロマトグラフィー法の500倍 一連の工程も完全自動化

 伊藤嘉浩グループリーダーらは2003年に、生体由来の物質など有機化合物であればなんでも基板に固定化できる「なんでも固定化法」を開発した。その後、改良を重ね、2013年にはさまざまなウイルスを固定化して免疫感染履歴が測定できるシステムを発表した。

 さらに、2019年には41種類のアレルゲンを固定化したチップを用いた特異的IgE検査キット「ドロップスクリーン」の開発を報告し、2020年2月以降、日本ケミファから販売されている。

 今回、このシステムを用いて、SARS-CoV-2を構成するいくつかのタンパク質を基板上にマイクロアレイ固定化し、それらに対する抗体があるかどうかを自動的に測定できるシステムの開発を目指した。

 開発した「ウイルス・マイクロアレイ検出システム」は、ヒトの血液中にあるSARS-CoV-2に対する抗体の量(抗体価)を迅速に測定できる手法。まず光反応性高分子をチップ(基板)上に被覆し、そこへウイルスに含まれるタンパク質を含む試料液をスポット状に吐き出す。乾燥後、紫外線を照射すると、光架橋によりタンパク質がチップに固定化されたマイクロアレイチップが作製される。

 このマイクロアレイチップを利用したシステムでは、検体血清中にヌクレオカプシドタンパク質やスパイクタンパク質といった各ウイルスタンパク質に対する抗体があると結合して発光し、その発光像をCCDカメラで撮影することで、抗体の多寡を判定する。

 1滴(20μL)の血液により、約30分で抗体量の測定が可能であり、感度は免疫クロマトグラフィー法の約500倍。また、この検出システムでは、ヒト血清をチップに滴下してスイッチを押すだけで、反応、洗浄、検出という一連の工程を完全自動で行うことができる。

 さらに、2019年末から流行しているSARS-CoV-2のスパイクタンパク質のRBDへの抗体が、2003年に流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)のコロナウイルス(SARS-CoV)のスパイクタンパク質のRBDを認識しないことが最近報告されたが、これは同検出システムを用いても確認できた。この結果は、両RBDのアミノ酸配列の違いは全体の約30%で、それにより免疫応答に大きな違いが現れたことを示している。

 同検出システムは今後、ワクチン接種で得られる抗体がSARS-CoV-2変異型(30%の中のアミノ酸の一部が変異)に対してどの程度効果をもつかを見極める手段になると考えられる。

理化学研究所 開拓研究本部 伊藤ナノ医工学研究室
SARS-CoV-2 proteins microarray by photoimmobilization for serodiagnosis of the antibodies(Bulletin of the Chemical Society of Japan 2021年9月3日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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