チアゾリジン薬が2型糖尿病患者の認知症リスクを低下する可能性 心疾患・脳卒中の病歴がある患者でより効果

2023.02.22
 チアゾリジン薬であるピオグリタゾンを服用している2型糖尿病患者は、後の認知症の発症率が0.84倍に低下することが示された。研究成果は、米国神経学会(AAN)の公式学会誌である「Neurology」に2月15日に掲載された。

とくに虚血性心疾患・脳卒中の病歴がある糖尿病患者で効果

 チアゾリジン薬であるピオグリタゾンを服用している2型糖尿病患者は、服用していない患者に比べ、後の認知症の発症率が0.84倍に低下することが、韓国の延世大学校医学部の研究で示された。研究成果は、米国神経学会(AAN)の公式学会誌である「Neurology」に2月15日に掲載された。

 研究は、韓国国民健康保険公団のDMコホートに登録された、2002年~2017年の全国の縦断的データを解析したもの。脳卒中の発生を考慮しながら、ピオグリタゾンの認知症の発症に対する効果を検証することを目的とした。

 研究グループは、新規に2型糖尿病と診断された患者9万1,218人を対象に、平均10年間追跡して調査した。うち3,467人がピオグリタゾンの投与を受けていた。

 その結果、ピオグリタゾンを服用していた患者の8.3%が認知症を発症したのに対し、服用していなかった患者では10.0%が認知症を発症した。

 高血圧・喫煙・身体活動など、認知症のリスク因子の影響を考慮した後でも、ピオグリタゾンの使用により、認知症の発症が低下する傾向が示された(調整ハザード比 0.84、95%CI 0.75~0.95)。

 認知症リスクの低下はとくに、糖尿病発症前に発症した虚血性心疾患(調整ハザード比 0.46、95%CI、0.24~0.90)、あるいは脳卒中(調整ハザード比 0.57、95%CI 0.38~0.86)でそれぞれ大きかった

 脳卒中の発症率も、ピオグリタゾンの使用によって減少した(調整ハザード比 0.81、95%CI 0.66~1.00)。一方で、ピオグリタゾン使用の観察期間中に脳卒中を発症した場合、そうした認知症リスクの低下はみられなかった(調整ハザード比 1.27、95%CI 0.80~2.04)。

 ピオグリタゾンの使用期間が長いほど、認知症リスクは低下する傾向も示された。ピオグリタゾンの1~2年間の使用により認知症の発症リスクは22%低下したが、4年間の使用では37%低下した。

日常診療で患者を個別化しながらピオグリタゾンの使用を考慮

 「糖尿病患者は、糖尿病でない人に比べて、認知症の発症リスクが2倍に高まることが知られている。今回の研究では、主にインスリン抵抗性の改善を介して血糖降下作用をもたらすインスリン分泌非促進系の薬剤であるピオグリタゾンの使用が、後の認知症の発症の減少と関連することが示された」と、韓国の延世大学校医学部行動科学研究所のEosu Kim氏は述べている。

 「過去の研究でも、ピオグリタゾンが一次・再発性脳卒中のリスクを低下させることが示されている。ピオグリタゾンが有用である患者の特徴を理解することは、日常診療で患者を個別化しながらこの薬を使用することを促すことにつながる」としている。

 ただし、今回の研究は、ピオグリタゾンが糖尿病患者の認知症リスクを低下させることを証明したものではなく、関連付けのみを示したものだとしている。

 また、ピオグリタゾンの副作用として、水分貯留、体重増加、浮腫、骨量減少などがあり、心不全の患者、心不全の既往のある患者には使用できないことも指摘しており、この薬の長期的な使用による安全性と、副作用を最小限に抑えながら使用できる最適な用量を特定するために、さらに研究が必要としている。

 「認知症は診断前に何年もかけて病状が進行していくため、早期の介入することが望まれる。今回の結果は、とくに虚血性心疾患あるいは脳卒中の病歴がある糖尿病患者の認知症を予防するために、ピオグリタゾンの使用を考慮しながら、個別化したアプローチを行うことが必要であることを示唆している」と、Kim氏は述べている。

Drug Linked To Lower Risk Of Dementia In People With Diabetes (米国神経学会 2023年2月15日)
Pioglitazone Use and Reduced Risk of Dementia in Patients With Diabetes Mellitus With a History of Ischemic Stroke (Neurology 2023年2月15日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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