糖尿病の新治療薬候補「アディポネクチン受容体活性化抗体」の開発に成功 月1回投与の治療に期待 東京大学
アディポネクチン受容体を活性化する抗体をはじめて取得
今回の研究は、東京大学の山内敏正教授、門脇孝名誉教授(現・虎の門病院 院長)、岩部(岡田)美紀特任准教授、日本医科大学の岩部真人大学院教授、田辺三菱製薬の浅原尚美氏、和田浩一氏、岡幸蔵氏(創薬本部)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Science Advances」に掲載された。
アディポネクチンは、脂肪細胞から分泌されるホルモンで、抗糖尿病作用・抗動脈硬化作用・抗炎症作用を併せもつ分子であることが明らかになっている。肥満で血液中の濃度が低下することが、生活スタイルに関連する疾患の原因の一部になっている。
また、アディポネクチン受容体は、アディポネクチンの作用を細胞内に伝える分子で、アディポネクチン受容体にはAdipoR1とAdipoR2がある。
アディポネクチン受容体について、門脇名誉教授らが世界ではじめて単離・同定し、立体構造を解明するのに成功した。今回発表されたのは、14年にわたる研究の成果となる。
研究グループは今回、半減期の長いアディポネクチン受容体活性化抗体を取得し、アディポネクチンと同様にアディポネクチン受容体活性化を有すること、さらには肥満糖尿病あるいは非アルコール性脂肪性肝炎を発症したマウスで治療効果を有することを明らかにした。
半減期の長いアディポネクチン受容体活性化抗体についての、世界ではじめての報告である点に新規性があり、研究成果は、治療効果の持続と服薬アドヒアランスの点でも今後役立つ可能性があるとしている。
月1回投与の糖尿病・非アルコール性脂肪性肝炎の新たな治療薬になると期待
研究グループはこれまで、脂肪細胞から分泌されるホルモンであるアディポネクチンが、抗糖尿病、抗メタボリックシンドローム作用を有するのみならず、元気で長生きを助ける"善玉のホルモン"であることを明らかにしてきた。
実際、肥満によって起こる、血液中のアディポネクチンの量の低下は、メタボリックシンドロームや糖尿病の原因になるのみならず、心血管疾患やがんのリスクを高め、短命になるリスクが高まることが知られている。
さらに、アディポネクチンと同じような効果を持つ物質、またアディポネクチン受容体を活性化することができる内服薬(低分子化合物)のシーズを、マウスを用いた実験により発見することに成功している。
2型糖尿病の治療薬として複数の内服薬や注射薬が承認されており、幅広い治療選択肢が提供されている一方で、血糖コントロール、糖尿病が原因で発症する心血管疾患などの発症予防の効果や安全性で不十分な点も多く、その理由のひとつとして服薬アドヒアランスが低いことが挙げられている。
そこで研究グループは月に1回という少ない頻度での投与を可能にする半減期の長い抗体医薬により、アディポネクチン受容体を活性化することで、服薬アドヒアランスを向上させ、治療効果を強化することを着想し、抗体の取得を試みた。
その結果、アディポネクチン受容体に結合してアディポネクチンと同じような効果をもつマウス抗体の取得に成功した。
また、高脂肪食を与えることで肥満糖尿病を発症したマウスに取得した抗体を投与したところ、糖尿病の改善と非アルコール性脂肪性肝炎の予防効果が認められた。
さらに、高脂肪食を与えることにより非アルコール性脂肪性肝炎を発症したマウスでも治療効果が認められた。
このマウス抗体は、生体内の抗体と同じ半減期を持つことを確認しており、人に投与できる抗体に変換することにより、月1回の投与による治療が可能になると期待されるとしている。
「糖尿病や非アルコール性脂肪性肝炎の治療だけでなく、アディポネクチンの作用低下が原因となる慢性疾患の治療効果にも波及する可能性とアディポネクチン受容体研究の発展に寄与することが期待される」と、研究者は述べている。
東京大学医学部附属病院 糖尿病・代謝内科
国家公務員共済組合連合会 虎の門病院
A monoclonal antibody activating AdipoR for type 2 diabetes and nonalcoholic steatohepatitis (Science Advances 2023年11月10日)