「高血圧治療アプリ」治験結果を欧州心臓病学会で発表 日本初の高血圧領域でのデジタル療法
「治療アプリ」により、24時間の収縮期血圧は2.4㎜Hg低下し、起床時の収縮期血圧(家庭血圧)は4.3㎜Hg低下した。
高血圧領域で薬事承認を目的とした治療用アプリの治験としては世界初となる。
高血圧治療での治療方法の選択肢となることを目指す
この第3相試験は、2020年1月~12月に行われ、本態性高血圧症の患者を対象に、「治療アプリ」の有効性と安全性を評価したもの。高血圧治療ガイドライン2019にそった生活習慣の修正指導を行う対照群と、ガイドラインにそった生活習慣の修正に加え「治療アプリ」を使用する介入群の2群に分け比較検討を行った。
詳細は、自治医科大学内科学講座循環器内科学部門の苅尾七臣教授が、8月に開催された欧州心臓病学会(ESC Congress 2021)で発表し、論文は循環器疾患ジャーナル「European Heart Journal」に掲載された。
その結果、主要評価項目である治験登録12週時点での自由行動下血圧測定(ABPM)による24時間の収縮期血圧の群間差(調整平均)は‐2.4㎜Hgであり、「治療アプリ」を使用した介入群は使用していない対照群に対して有意な降圧効果を示した。
ABPMによる24時間の収縮期血圧の群間差である-2.4㎜Hgは、脳心血管病の発症リスクの10.7%の低下という臨床的意義を示すとしている。
さらに登録後12週時点での起床時の家庭血圧SBP(収縮期血圧)でも、群間差は-4.3㎜Hgであり、この効果は登録後24週まで持続した。
日本の心血管リスクのある患者を対象としたJ-HOP研究では、起床時の家庭収縮期血圧は脳卒中の独立した危険因子であり、10㎜Hgの増加で脳卒中リスクが36%増加するとされている。
「治療アプリ」による起床時の家庭収縮期血圧の約10㎜Hgの低下は、心血管疾患を減少させる臨床的意義があるとともに、今後の高血圧治療での治療方法の選択肢のひとつとして有効であることを意味付けているとしている。
調整平均(95%信頼期間)
患者に個別最適化された治療ガイダンスを自動で提供
高血圧の治療には生活習慣の修正が不可欠だが、患者の価値観や意欲、職場・家庭環境などに左右されるため継続が難しく、医療機関による効果的な介入も困難という課題がある。
こうした課題に対し、「治療アプリ」は、個別最適化された治療ガイダンス(IoT血圧計を用いた血圧モニタリングと生活習慣ログから最適化された食事、運動、睡眠などに関する知識や行動改善を働きかける情報)を患者へ自動で直接提供する。
同社では、「意識・行動変容を促し患者の正しい生活習慣の獲得をサポートすることで、継続的な生活習慣の修正が可能となり、血圧低下、または高血圧の状態から脱するという治療効果を導く」「医師側でも患者の生活習慣の修正の状況が医師アプリでも確認でき、治療アプリを通して患者と医師のコミュニケーションが深まることで、診療の質が上がり、継続的な生活習慣の修正の実施が期待される」としている。
同社は2020年8月に、疾患治療用アプリとして国内初となる、ニコチン依存症治療アプリ及びCOチェッカー「CureApp SC」の薬事承認を取得し、同年12月に保険収載された。
現在、このニコチン依存症治療アプリ、今回発表の高血治療アプリのほか、NASH(非アルコール性脂肪肝炎)治療アプリ(東京大学医学部附属病院と共同開発・臨床試験中)、アルコール依存症治療アプリ(国立病院機構久里浜医療センターと共同研究、岡山市立総合医療センター、岡山市立市民病院での臨床試験開始)、がん患者支援治療アプリ(第一三共と共同開発)を展開している。