糖尿病などによる神経障害性疼痛に神経系組織マクロファージが産生する脂質メディエーターPAFが関与 国立国際医療研究センター

2024.04.17
 国立国際医療研究センター(NCGM)は、難治性疼痛のひとつである神経障害性疼痛に、ともに炎症や免疫に関わる、マクロファージやミクログリアが産生するリン脂質メディエーターPAFが関わることを、マウスモデルを用いて明らかにした。

 マクロファージとミクログリアは炎症反応などの生理機能を発揮し、PAFはリン脂質型の生理活性脂質で、受容体に作用することで炎症応答や免疫応答に関わることが知られている。

 「PAFシグナルが神経障害性疼痛の新しい治療標的になる可能性がある。治療標的にすべき細胞種や時期が限定的であることも明らかになった。臨床応用するために、疼痛に苦しむ患者の状態を可視化するバイオマーカーや検査法の開発が課題になる」と、研究者は述べている。

神経障害性疼痛の発症・維持に神経系組織マクロファージが産生する脂質メディエーターPAFが関与

 がん、糖尿病、ウイルス感染、外傷などにより、神経系組織が損傷を受けると、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)や麻薬性鎮痛薬モルヒネなどの既存の鎮痛薬で奏功しない、難治性の慢性疼痛である神経障害性疼痛の発症につながる。

 神経障害性疼痛は、世界人口の7~10%に影響するとも言われている、アンメットニーズの高い疾患で、革新的な創薬標的の発見が望まれている。

 そこで国立国際医療研究センター(NCGM)は、神経障害性疼痛にマクロファージやミクログリアが産生するリン脂質メディエーターPAFが関わることを、マウスモデルを用いて明らかにした。

 マクロファージとミクログリアは炎症反応などの生理機能を発揮し、PAFはリン脂質型の生理活性脂質で、受容体に作用することで炎症応答や免疫応答に関わることが知られている。

 研究は、国立国際医療研究センター(NCGM)脂質生命科学研究部の山本将大学振特別研究員PD(研究当時)、進藤英雄テニュアトラック部長らによるもの。研究成果は、「iScience」にオンライン掲載された。

PAFシグナルが神経障害性疼痛の新しい治療標的になる可能性

 研究グループはこれまで、PAFの産生酵素LPLAT9(別名:LPCAT2)の欠損マウスでは、末梢神経損傷によって生じる難治性疼痛が軽減することを見出していた。

 しかし、神経損傷によってPAFが増加するかや、神経系組織を構成するどの細胞種が産生するのかなど、不明な点があった。

 そこで今回、末梢神経系である後根神経節と中枢神経系である脊髄組織を用いて、脂質成分の定性や定量分析を網羅的に行う分析技術であるリピドミクスを実施し、神経損傷後に両組織で共通して一過性のPAF量の増加が起こることを突き止めた。

 また、神経障害性疼痛の発症に関わるPAF産生細胞はマクロファージやミクログリアであることを明らかにした。

 PAFはPAF受容体を活性化する。PAF受容体拮抗薬の脊髄腔内投与により、疼痛が軽減することも分かった。

 「研究成果は、難治性疼痛病態において脂質が担う役割に新たな知見をもたらしたと考えられる。PAFシグナルが神経障害性疼痛の新しい治療標的になりうること、治療標的にすべき細胞種や時期が限定的であることが明らかになった」と、研究者は述べている。

 「今回の成果を臨床応用するには、疼痛に苦しむ患者それぞれがどういった状態にあるのかを可視化するバイオマーカーや検査法の開発が課題になる」としている。

国立国際医療研究センター 脂質生命科学研究部
Macrophage/microglia-producing transient increase of platelet-activating factor is involved in neuropathic pain (iScience 2024年4月1日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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